6:あだ名ー①
きっとこれで山下奈緒子に見つかって、彼女を尾けまわしていたという、キモチノワルイ行動がすべてバレてしまうのだ。
それを知った山下奈緒子は、これまたきっとそのことをみんなに言いふらし、女子にはますます距離を置かれ、男子からはますますバカにされるにちがいない。
なぜ山下奈緒子を尾けたのかも分からないまま《ヘンタイ》のレッテルを貼られるのはゴメンだったけど、それでも、一階のあの闇の中を、一気に駆け抜けて逃げる自分の姿を、まったく想像できなかった。
そんなことは、絶対に無理だ。
ホントにマジで最悪の最悪。
「だれ?」
意外にも、あまり緊張したようすでもない山下奈緒子の声色に疑問を感じながらも、とっくに観念していた慎吾は、額に噴き出る玉のような汗を拭ってから、207号室へと足を踏み入れた。
一瞬、なぜか期待に顔をほころばせている山下奈緒子と視線がぶつかり、すぐに目を逸らしてうつむきながら、
「ご、ごめん」
と、なんとか声を絞り出した慎吾は、もう本当にこれですべてが終わったんだな、と思いながら、足下でグロテスクな腹を見せる、季節外れのセミの亡骸を涙目で見つめた。
「ああ、なんだ宮瀨君か……」
失望の色を含みながら、しかし突然の訪問者におどろいた風でもない山下奈緒子の声に、慎吾は安堵と疑問を胸に抱いた。
「お、怒ってないの?」
「え、なんで?」
問いかけに問いかけで返した山下奈緒子が、慎吾の下へと近寄ってくる。
その白いワンピースの裾につく茶色いシミを見つけた慎吾は、山下奈緒子も、二十四時間いつでも完璧に真っ白な存在じゃあないんだな、と、どうでもよく、それでいて重大な事実に気づかされた。




