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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
150/159

45:玄関を叩く音ー①

 ……コン、コン、コン、コン


 玄関を叩く音がする。


 家に着いて、少し気分が悪くなり布団にくるまってうたた寝をしていた慎吾は、その音で夢の世界から引きずり出された。


 楽しかったというおぼろげな記憶だけがあり、どんな夢を見たのかまでは思い出せない。


 ……コン、コン、コン、コン


 イヤに間をあけた音が、ふたたび戸を叩く。


 夏布団から顔を出して時計を見ると、もう夕方の七時だった。


 両親はまだ帰ってきていないようだ。


 慎吾は重い体で布団から無理矢理に這い出し、朦朧(もうろう)とした頭を二三度ふってから玄関へ向かった。


「はい、だれですか?」


 玄関の灯りをつけてたずねると、


「わたし、コモダと申します。慎吾君はいますでしょうか?」


 と、無機質な声が応えた。


 コモダ……誰だったっけ……?


 (いぶか)りながら戸を開くと、そこには、全身を赤色で包んだ斜視の男が立っていた。


「あ……」

「ああ、きみ、慎吾君だったね」

「は、はい」

「ナオちゃん、お邪魔してないかな?」


 ニヤリと笑うコモダさんの歯はヤニで黄ばんでいた。


「あ、いいえ、いませんけど」

「そうか、ここだと思ったんだけど」

「奈緒子が、どうかしたんですか?」

「いやね、昨日から帰ってきてないものだから。きみ、ナオちゃんと仲がいいんでしょ?」

「あ、はい」

「まさか家出ってことはないだろうけど、今日も帰ってこないのは心配でね。わたしの娘ではないのは君も知ってるだろうけど、それでもわたしはナオちゃんのことが可愛いんだ。きみ、ナオちゃんがいそうな場所って知らないかな?」


 コモダさんに見つめられ、地獄の片鱗を見たような気がしていた。


 この人に奈緒子の居場所を言うべきではない、と心で誰かが警告している。


「し、知りません、ごめんなさい」


 目を逸らして上擦(うわず)る声で言うと、両肩をコモダさんに掴まれた。


 痛い。


「本当に、知らないのかな? 隠すとバチが当たるよ。きみは知らないだろうが、あの娘は邪悪体に憑かれやすい性質を持っていてね。それが入ると大変なことになるんだ。ここ最近、またその兆候が少し出ていてね。このままだと《追否(ついひ)の儀》を行わなければいけなくなるんだ。わたしはね、本当はそういうことをナオちゃんにはしたくないんだよ。純潔は至高だからね。ね、きみ、分かるだろ?」


 分からなかった。


 視点の定まらない目に度しがたい魔力を感じ、気づくとゲップが出ていた。


「ウ、ウフフ。そうか知らないのか。それなら仕方がないね。お邪魔しました」


 肩から手をどけたコモダさんが、やけにあっさりとひいて帰って行った。


 慎吾はしばらく呆然とたたずみ、額の汗をゆっくりと拭った。


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