4:プールー②
「はい、じゃあプールから上がって!」
最悪のタイミングで、プールに響き渡る町山先生の声。
ホントにマジで最悪の最悪。
こんな状態でプールから上がったら、太一や次郎になんてあだ名を付けられるかわかったもんじゃない。ただでさえ《チャー》なんてひどいあだ名をつけられてるってのに、それ以上にひどいことになったら、もう学校に来る気を失くしてしまって、瀬戸正次のように不登校児の仲間入りだ。
絶望的な状況に動けないでいると、うしろから肩をそっと柔らかい手に掴まれた。おどろいて振り向くと、心配そうに見つめてくる紀子の姿があった。
「大丈夫? 気分とか悪いの?」
「ううん、そんなことないよ。あ、暑いからさ、外に出るのイヤだなあとか思ってて」
しどろもどろで目を合わせることもできずに言い訳する慎吾を、それでもなお心配そうに見つめる、山下奈緒子と対照的な小麦色の肌の美少女は、そこまで近づかなくてもいいではないか、というくらいの至近距離にいた。
これじゃあいつまでたっても上がれやしないし、おさまるものもおさまらない。
「ほ、本当に大丈夫だから。先に行ってよ」
「そう、分かった」
つぎの瞬間、プールを上がる紀子のお尻が、慎吾の低い鼻先をかすめた。好物のおモチのような、あまりにも柔らかな感触に言いようのない興奮を覚え、無意識のうちに口元が緩む。
夏も意外と悪くない、と思いながらふとプールサイドを見やると、なにか意味ありげに微笑する山下奈緒子と視線がぶつかった。思わず逸らした目をすぐにまた戻すと、山下奈緒子は、なにごともなかったかのようにふたたび分厚い文庫本に視線を落としていた。
見られてしまった。紀子のお尻でニヤけてしまった顔を。
最悪だ、最悪。ホントにマジで最悪の最悪。
やっぱり夏は、最悪の季節だ。
すっかり気落ちしながら股間をまさぐると、すでにソレは意気消沈としていた。
バカ正直。




