44:地下室-①
ワチコの家からしばらく歩いた先のコンビニに入ると、奈緒子とワチコはパンの棚へ向かった。
別行動をとった慎吾と直人は、雑誌の棚へと向かい、テレビ雑誌を立ち読みしはじめた直人の横で、慎吾は発売されたばかりの『週刊少年 サクセス』を開いた。
目当ての『妖怪博士 目羅博士』は、いよいよ《怪盗バックベアード編》の佳境に入っていた――
◆◆
前回は怪盗バックべアードに、師匠であり、また目羅博士の武器でもある妖刀ケズリイタチの鞘にぶら下がるサガリ先生を拉致され、目羅博士は単身バックベアードのアジトへと向かった、というころまでだった。
今回、いよいよバックベアードと対峙した目羅博士だったが、普段は鞘に収めているあいだに、サガリ先生が妖気を充電させているケズリイタチの力が半減していた。
絶体絶命のピンチ。
と、その時、永遠のライバルであり、ミスターヌラリの右腕でもある隻眼の烏天狗、ヤタマルが現れた。
◆◆
――息を呑みながらそこまでを読んでいると、不意に肩を叩かれ、
「へえ、ヤタマルが助けに来たんだね」
と、手にレジ袋を提げた奈緒子が、興味深げにのぞき込んできた。
「もう行くの?」
「読んでからでいいよ。わたしとワチコちゃんは、外で待ってるから」
そう言って、奈緒子はワチコを連れ立ってコンビニを出て行った。
「チャーさ、それホントに面白いの?」
「う、うん。直人も読んだほうがいいよ」
「いいよ、おれは。だって長いんだもん。十巻で買うのやめたし。いま何巻だっけ?」
「三十二巻」
「長いって」
直人は笑い、雑誌を棚に戻して、飲み物を物色しに行ってしまった。
『妖怪博士 目羅博士』を読み終え、駄菓子をいくつか買って、外で待つ奈緒子たちに合流すると、ベンチに座って総菜パンを頬張っていた奈緒子が、少し横へとずれて座るよう目顔で促した。
「面白かった?」
「うん」
「わたし、ヤタマルがいちばん好きなんだよね」
「へえ、そうなんだ。でもヤタマルってすごい悪い奴だよ」
「分かってないなあ、そういうのは、ぜんぶミスターヌラリに命令されてやってるんだよ。ほら、ヤタマルは子どもの頃にミスターヌラリに拾われたんだから、親みたいなもんじゃん。だからミスターヌラリのためなら悪いことだってするし、ミスターヌラリのホントの子どもの目羅博士に嫉妬してるんだよ、きっと」
「そうかあ、そういう風に考えたことなかったなあ」
「チャーは、だれが好きなの?」
「え、えっとぼくは狸のダンザブロウかな。いつもはギャグキャラなのに戦いになったらメチャクチャ強いじゃん。目羅博士の最高の相棒だよ」
「ダンザブロウもいいよね。チャーってば、分かってるじゃん」
マンガ談義に花を咲かせていると、缶コーラを片手に直人が出てきた。




