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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
145/159

43:ワチコの家ー③

「奈緒子のこと、やっぱり心配?」

「そりゃあ、心配だよ。だって友だちだからな。それなのにさ、奈緒子はチャーにだけホントは心を開いてるんじゃないかって思って、それが、なんかね……」


 そういうふうに直人は感じていたのか。


 そんなことはないはずだけれど、本当のところは分からない。


「で、でも奈緒子さ、あの縁日の帰りに、『直人君は沢田さんのこと好きなのかな?』って気にしてたよ。もしかしたら直人のことが好きなのかも」


 心の中の引き出しにしまっていた黒いわだかまりが、つい、口をついて出てしまった。


「……チャーさ、お前それ本気で言ってんの? そんなことチャーが言ってたって奈緒子が知ったら、ガッカリすると思うよ」

「な、なんでさ?」

「おれは直人《《君》》で、ワチコはワチコ《《ちゃん》》、だけどチャーは、《《チャー》》だろ」

「言ってる意味が分からないよ」

「べつにいいよ、分からないなら」


 戸惑う慎吾を笑った直人が、ふたたび本に目を落とした。


 直人の言った意味が分からずに、ボウッと出窓に飾られたぬいぐるみを見ていると、急に背筋がヒヤリとして、クシャミが出た。


 風邪がぶり返しているのかもしれない。


 きっと、何日も奈緒子の夜遊びに付き合っていたせいだ。


 それから何度かクシャミを繰り返し、その顔を直人に笑われていると、奈緒子たちが戻ってきた。


 まだ濡れ髪の奈緒子が、妙に(なま)めかしかった。


「ああ、スッキリした。やっぱりお風呂は入らなきゃダメだね」

「でもナオちゃんさ、今日も病院に泊まる気なんだろ?」

「うん。やっぱりさ、都市伝説のバケモノを一度は見ておきたいじゃん」


 バスタオルで髪をふきながら言った奈緒子が、ドライヤーをワチコから借りて髪を乾かし始める。その風に乗って鼻をくすぐるシャンプーの香りが、慎吾の胸を早く打った。


「なあ、ワチコの家って、ぜんぜん面白くないからどっか行こうぜ」

「ちょっと待てよ直人、それあたしの本だろ。勝手に見るんじゃねえよ」

「だって暇だったし」


 悪びれる様子もない直人が本をしまい、大アクビをして涙目で慎吾を見た。


「なあ、チャーさ、ホントにもう、どこも知らないのか?」

「う、うん、ごめん」


 髪を乾かしきった奈緒子がドライヤーを切り、


「わたしさ、まだゴハン食べてないからどこかに買いに行こうよ」


 と、腹をさすりながら笑った。


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