41:線香花火-➁
「ちょっと、見てないで手伝ってよ」
「う、うん」
慌てて両手で線香花火を覆うようにかざすと、ようやくその先から儚げな赤い火花が四方に散りはじめた。
ひとつを手渡され、横に並んだ奈緒子が、ぢっと火花に見惚れる姿を目の端に意識しながらボウッと眺めていると、ふと夏の終わりを感じた。
「……やっぱり、線香花火って、なんかさみしい気分になるね」
奈緒子が、おなじ思いを口にした。
火花にほの赤く照らされたその顔を、マトモに見ることができない。
「線香花火って、最後にやるってイメージがあるもん。これだけでやってもね」
「なんか、わたしの計画に文句を言ってるみたいなんだけど」
「そ、そんなことないよ。ぜんぜん楽しいよ」
「そうだよ、楽しまなきゃ。きっとこれが最後の花火なんだから」
「最後のって、今年は、でしょ」
「今年最後の花火、か…… あ、落ちちゃった」
「あ、ぼくも」
ふたたび火の点いた線香花火をもらい、散る火花を眺めながら、今年の夏休みももうすぐ終わるな、と当たり前の切なさに気づいて、そっととなりの奈緒子を見た。
「なんかさ」
「う、うん」
「さっきも言ったけど、チャーって、将来のこととか決まってるの?」
「まだなんにも決まってないよ。サラリーマンとかなんじゃないのかな、やっぱり」
「なんか、夢がないですねえ、キミ」
「そうかな?」
「そうだよ。あ、そうだ、彫刻家になれば? あの紙粘土のドラゴンとかすごく上手だったし、芸術家ってなんかカッコイイじゃん」
「えー、でもぼくそんなこと考えたことないよ」
「チャーってなんか、いつも自信がないことばっかり言うよね」
「そりゃそうだよ。ぼく、なんにもできないし」
「そんなことないって。だってキャッチボールもできるようになったじゃん」
「そうだけど、あれはタマタマだよ」
「大丈夫だって、自信持ちなよ」
「うん、でも」
「でもとか言わないで。あ、金魚すくいのときの《命令》ってまだだったよね?」
「う、うん」
「決まったよ」
「な、なに?」
「ちゃんと命令はスイコーしてよ。約束なんだから」
「うん、分かったよ。で、でも、ヘンなこと言わないでよ」
「命令は……『将来、彫刻家になるのだ!』です」
「えー、ちょっと待ってよ。将来を決められちゃうの?」
「アハハ、面白くない?」
「面白くないよ」
「でも、命令だから守ってよ」
「……」
「分かった?」
「うん、頑張ってみる……」
線香花火と話題が尽きて、奈緒子が立ち上がり気持ちよさそうに伸びをした。暗闇に揺らめく、白いワンピースから漂うバラの香りが、慎吾の低い鼻を優しくくすぐる。




