40:屋上-③
「ちょ、ちょっと奈緒子、危ないよ」
「平気だって。チャーも来なよ」
そのまま幅のそう広くない縁に座り、足をブラブラとさせながら手招きする奈緒子。
「……分かったよ」
慎吾も恐る恐る柵を乗り越えて、奈緒子のとなりに腰を下ろした。
「怖い?」
「怖くないよ」
「でもここから下を見てみて。意外と高いんだよ。落ちたら死んじゃうかも」
「や、やめてよそういうこと言うの……」
たしかに高い。雑草だらけのアスファルトの路面が、死の臭いを放っていた。
「……セト君のこと、もう大丈夫?」
「……大丈夫じゃないよ。ずっと気になってたし、それにさっき会いに行ったときも、ぼくが思ってたより、なんていうか、すごくあっさりお別れを言っちゃったんだ。もっとホントはいっぱい話したかったのに、なんにも言えなかった。それをこれからずっと、あれで良かったのかな? って考えちゃうと思うんだ」
「しょうがないよ、それは。でも会いに行かなかったら、もっともっと後悔することになってたと思うな。これで良かったんだよ、きっと」
「……そうだね」
奈緒子の言うとおりだ。
これからさき、何度も正次のことを思い出しては、そのたびに胸が痛くなるのだろう。
「今日の夜は、《バラバラ女のイタズラ》はやめよっか?」
「う、うん。明日は?」
「明日もいいかなあ。でも夜はここに来てほしいんだけど」
「なんで? なんかやるの?」
「うん、ちょっとね」
「なに?」
奈緒子はそれに答えず、意味ありげな笑みを浮かべながら、柵を掴んで立ち上がった。
「チャーも立って」
「う、うん」
へっぴり腰で立ち上がると、遠くに町が一望できた。
「知らなかったでしょ?」
「うん、なんか、すごいね」
ここから見える町のすべてがちっぽけで、慎吾はもっとちっぽけだった。




