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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
131/159

39:瀬戸正次ー①

 八月二十八日。


 まだワチコと直人は来ていない。


「ふたりは、今日も来ないのかな?」


 おなじことを考えていたらしい奈緒子が呟いた。


「うーん、どうだろうね」

「セト君の家には行かないの?」

「ひとりじゃいけないよ」

「ついてってあげようか?」

「い、いいよ。奈緒子とセト君は関係ないでしょ、悪いよ」


 同伴を拒否された奈緒子が、心なしむくれて天井を見上げる。


 マットに座る慎吾からは、その全身がつぶさに見てとれた。そうやってベッドに寝転がる奈緒子を見つめていると、少しだけヘンな気持ちになる。


 それをごまかすよう咳払いをして、下方に目をやると、横倒しのままの紙袋が見えた。


「ねえ」

「なに?」

「きのう脅かした人たちさ、大丈夫だったかな?」

「大丈夫でしょ。それに、わたしたちの秘密基地に勝手に入ってきたんだから、あれくらいのことをされてもしょうがないよ」

「う、うん」

「あ、昨日さ、チャーが見た、あの赤いナニカってなんだったんだろうって考えてたんだけど、やっぱりアレは『血塗れナース』だったんじゃないかな、て思うの」

「そんなワケないじゃん」

「でもさ、都市伝説って、信じてる人が増えると現実世界にホントに現れるんでしょ?」

「それは、ミオカさんが言ってただけだよ」

「でもそれがホントだったらさ、あのときに、なんで血塗れナースが出てきたのかの説明がつくんだよね」

「へえ、どんな?」

「だからさ、あの時ここにいた人たちって、ぜんぶで五人でしょ。その人たち、わたしたちのイタズラのせいで、ここにホントに『血塗れナース』がいるんだって、心の底から信じたんだと思うの」

「だろうね」

「その信じる力が病院を包み込んだんだよ、きっとあの時」

「でも信じてる人って言っても、たった五人だよ。少なすぎるよ」

「でも都市伝説を聞いて『いるのかもしれない』ってちょっとだけ信じてる人が、もし百人いたとしてさ、それと『心の底からいる』って信じた五人の心の力って、どっちが強いのかな。わたしは心から信じてる人がいれば、人数は少なくてもいいんじゃないかなって思うけど」

「人数じゃなくて、一人一人がどのくらい信じてるかってこと?」

「そうそう。それにわたしも信じてるしね」

「でも奈緒子は、ここではじめて会ったときは、『血塗れナース』なんかべつに信じてないって言ってたよね、たしか」

「まあ、あれから色々あったからね」


 その言葉に、今まで行った都市伝説の場所を思い出した慎吾は、UFOや、大きなネズミや、たそがれ坂の下で涙をこぼした奈緒子の横顔やらを、頭に浮かべた。


「じゃあ、これから夜は、あんまりここに来ないほうがいいかもね」

「でも、会ってみたいけどなあ」


 無邪気に笑う奈緒子が、少し怖かった。


「だれに会ってみたいんだ?」


 入り口から声がして、そこを見やるとワチコが立っていた。


「あ、来たんだ」


 奈緒子が座り直す。


 そのとなりに座ったワチコが、ふたたび、


「ねえ、誰に?」


 と、奈緒子にたずねた。


「うん、血塗れナースに」

「いないよ、血塗れナースなんて。ナオちゃんて、たまにバカみたいなこと言うよな」

「でもそんなこと言ったら、ワチコちゃんが『失恋大樹』のことを信じてるのはどうなの?」

「アレはちがうよ。アレは、ホントだから」


 奈緒子の反論に困り顔を作るワチコに、ふと正次の影が重なった。


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