37:ふたりぼっちー③
「……あの、さ……ちょっと相談なんだけど」
「なに?」
「セト君がもうすぐ引っ越しちゃうって聞いたんだけど、やっぱり会いに行ったほうがいいのかな?」
「うーん、どうかなあ。チャーとワチコちゃんは、セト君と仲が良かったんでしょ?」
「う、うん」
「じゃあ、会いに行ったほうがいいかもね」
「やっぱり、そうかな?」
「うん。だってやっぱり、引っ越す前に、仲の良かった友だちとは会っておきたいじゃん。わたしが引っ越したときは、誰も来なかったから、寂しかったもん」
奈緒子が哀しみを隠して微笑む。
それが、痛い。
奈緒子の言うとおり、正次に会いに行くべきなんだろう。そうすることしかできないのならばそうすべきだ。だけど、一人で行く勇気はわきそうもなかった。
明日ワチコが来たら、一緒についてきてもらおう、と慎吾は思った。
それからさらにいくつかの他愛ない話をしてから、夜にまた会おうと約束をして、二人は解散した。
茜色に染まる帰り道を歩きながら、失恋大樹に書かれた名前の謎や、都市伝説の成り立ち方についてだとかを少し考えてみたけれど、そんなことよりもやはりさっきから鎌首をもたげる不安は、奈緒子と正次のことだった。
いちばんの友だちだった正次と、いちばん好きな奈緒子。
その二人が不幸で、それをどうしてやることもできない自分のふがいなさに嫌気がさす。
あと今日も含めて四日しかない夏休みのうちに、できればそんな自分を変えたかった。
夏休みが終われば、きっと奈緒子はイジメられるだろう。
そんなことから奈緒子を守るためには、強くならなければいけない。
自信はもちろん無いけれど、正次に会えば背中を押してもらえるかもしれない。
決意を新たにした慎吾は、走りたくなって、走り出していた。




