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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
122/159

35:夏風邪ー➁

「ち、ちがうよ。夏風邪は今日、って言うか、さっきからだからね。昨日まではお父さんとお母さんが休みだったりして、行けなかったんだ」

「ふうん、まあいいけど」


 興味もないといった様子の直人は、部屋の中を物色するようにのぞき込んだ。


「あの、花火の日さ、行けなくてごめんね」


 気がかりでしょうがなかったことを詫びると、奈緒子が首を横に振って、


「いいよ、そんなこと気にしないで。それよりチャーの風邪のほうが心配だよ」


 と心細げに微笑んだ。


「これからどこかに行くの?」

「ううん、べつにどこも行かないよ。チャーが四日も来ないから、ちょっと気になって来てみただけだから」

「そ、そう。ありがとう。でも今日も、ちょっと一緒に遊べなさそうだよ」

「うん、分かってる。早く治してね」

「うん」

「じゃあ、もう行こうぜ。デブに風邪をうつされるのもイヤだし」

「そうだな。じゃあ、早く風邪治せよ。チャーがいないと面白くないからさ」

「う、うん」


 直人とワチコが庭を出て行っても、まだ奈緒子は目の前に立って、慎吾を心配そうに見上げていた。


「奈緒子も行きなよ。ホントに風邪うつしちゃうよ」

「……うん。無理しないでね」


 そう言って庭を出て行った奈緒子の、バラの残り香が鼻をくすぐり、慎吾は大きなクシャミをした。


 久々に会った三人が、自分の病状を気にかけてくれたことが嬉しかった。


 あの日、行けなかった本当のワケを奈緒子に言うことはできなかったが、これで一応の(ゆる)しをえたのではないだろうか。


 そう思って気を抜くと、すぐにまた全身を悪寒に覆われた。


 慎吾はまた布団に戻り、奈緒子の笑顔を何度も頭の中に描いているうち、そのままゆっくりと深い眠りに落ちていった。


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