3:席替えー②
だからこそ、
「席替えをします」
という、町山先生の明るい言葉が、世界崩壊を告げる鐘の音にしか聞こえなかった。
クラクラとする頭を抱えながら、バカの一つ覚えみたいに「やったー!」と叫ぶ次郎に心をかき乱された慎吾は、思わず、
「せ、先生」
と、そのあとに続ける言葉を考えもせず、町山先生に呼びかけた。
「なに、宮瀬君?」
めずらしく発言した慎吾に驚きながらも、いつもとおなじ優しい声できく町山先生。
集まるみんなの視線に胸を締めつけられ、
「うう……」
と、ノドの奥から漏れ出るつぶれたカエルのような声を恨みながら、慎吾は二の句を継げずにいた。
とてもじゃないけど、「席替えなんてイヤだ」なんて言えない。九九すら知らない一年生だって、そんな自分勝手なワガママが通じないなんてことは分かるはずだ。それも理由が「山下奈緒子がとなりじゃなきゃ、イヤだ」なんだから、なおさら言えるわけがない。
「……トイレ、行ってきてもいいですか?」
首を引っこ抜いて死んでしまいたかった。あまりにもバカで底抜けにマヌケな言葉。顔が火を噴いてしまうんじゃないかと思うほど、熱くなっていた。久々の自己嫌悪。ただひたすらに恥ずかしい。
「いいわよ。早く戻ってきてね」
「はい」
慎吾は、行きたくもないのにトイレへと走り、個室に入って、トイレットペーパーをメチャクチャに引きちぎり、そのうちの何枚かを重ね合わせて、思いきり鼻をかんだ。
ブビーブビーとこだまする、壊れたラッパみたいな音を聞きながら「諦めるな、つぎも山下さんのとなりの席を引けばいいだけじゃないか。確率は十五分の一だ」と言い聞かせ、慎吾は背筋をピンと張って教室に戻った。




