29:犯人ー⑤
「な、なんでワチコまでいるんだよ?」
目を白黒させながら、次郎が慎吾を見た。
慎吾もその理由が分からずに、首を振った。
「ごめんな次郎、その松葉杖の跡、あたしがつけたんだよ」
「なっ…?」
「いやあ、たしかに縁日の時にはあったんだけどさ、消えてたらイヤじゃん。だから先にワチコに行ってもらって、つけさせたんだ」
「ず、ずるいぞ!」
「まあ、でも認めたじゃんお前。それに悪いのは、おれたちじゃなくてお前だろ?」
次郎の逃げ場をどんどんと潰していく直人に、慎吾は戦慄していた。
「でもさ、卑怯っちゃ卑怯だからさ、お前がなんでおれの名前を書いたのかとかは聞かないよ。×印さえつけてもらえば、もうこのことは誰にも言わないし」
「はい」
ワチコが、五寸釘を素早く次郎の手に握らせた。
その冷淡な行為にも戦慄を覚える。
すっかり観念した次郎が無言で失恋大樹に近寄り、ハッとした顔で直人を見た。
「なんだよ、早くつけろよ」
「いや、コレ……」
そう呟いた次郎が、目顔でそこを見るように促した。
三人も失恋大樹に近寄り、その意外すぎる光景に、慎吾は愕然とした。
《林直人》の文字の横に、新たな名前が書きこまれていた。
「お、おれじゃないぞ」
次郎の力ない言葉が、蝉時雨にかき消される。
そこには、《宮瀨慎吾》という、最も馴染み深い名前が刻み込まれていた。




