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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
103/159

29:犯人ー④

◆◆◆



 神社の石段を無理矢理にのぼらされた次郎は、もうすっかり抵抗する気も失せてうなだれていた。


 そのうしろ姿に、なにを言って良いものか分からない。


「行くぞ」


 直人に尻を蹴り上げられ、ギプスに邪魔されて左足の曲がらない次郎が、よろめく。咄嗟に体を支えた慎吾の手を振り払い、悲しみとも怒りともつかない表情で睨みつけてきた次郎は、すぐに目を逸らして、その足を気にかけながら歩き出した。


「お、どこに行くのか分かってるの?」


 直人が、チクリと次郎を刺す。


「うるせえよ、証拠が無かったら帰るからな」

「はいはい」


 直人がわざとらしくため息を吐いて、次郎の横に並ぶ。


 もはや完全に開き直った次郎が、失恋大樹の前で直人と対峙した。


「で、証拠は?」

「まあ、今さら証拠なんか出さなくてもいいとは思うけど、一応ね。チャー、松葉杖」

「あ、うん」


 言われるがまま直人に松葉杖を渡すと、次郎はその意味が分からないという表情を作った。


 慎吾にも、その意味は分からなかった。


「この松葉杖が証拠。お前さ、知ってるかどうか分かんないけど、おれたち、あの日にはもう名前が書かれてるのに気づいてるんだよ」

「な、なんでだよ?」

「まあ、色々とあってね。ワチコが毎日ここに来て名前を確認してたんだよ」

「なんだよ、それ……」

「でさ、あの縁日のときも、まあその時はおれも一緒にいたんだけど、ここに来て名前を確認したんだよ。そしたら名前があった」

「だから、なんでおれが犯人なんだよ、お前の名前を書く理由なんてねえよ!」

「おれの名前とは言ってねえよ、チャーのかもしれないじゃん。まあ、いいや。でさ、あの日ってさ、夕方くらいまで雨が降ってただろ。だから、ここらへんの土が湿ってたんだよ」

「そ、それがなんなんだよ」

「最後まで聞けって。湿ってたからさ、足跡とかがつきやすかったんだな、あの日は。そんでさ、地面をよーく見て気づいたんだけど、土にさ、丸い穴が点々とついてたんだ。たぶん、この松葉杖の跡だと思うんだ」

「バ、バカじゃねえの。そんなのもう残ってないだろ。証拠に無んねえよ」

「でもさ、その跡って、まだ残ってるんだよ」

「え?」


 直人が地面を指さした。


 そこには確かに小さな丸いくぼみが点々とついている。


「これと、この松葉杖の先っぽがピッタリ合ったら、お前が犯人なんじゃねえかな。まあそんなことしなくても、もうお前、いっぱい変なこと言ってるから無駄だけど。どうする? ダメ押しで合わせた方がいい?」


 直人が次郎に詰め寄った。


 追いつめられた次郎は、ついに観念したらしく、深いため息を吐いた。


「……おれが書いたよ、認める」

「やっと認めたかー。ああ、疲れた。ワチコ、もう出てきていいぞ!」


 顔を緩めた直人が、うしろの生け垣に向かって呼びかけ、その声に応えるようにしてワチコが穴から這い出てきた。


 その手には、松葉杖。


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