29:犯人ー③
どうすべきか分からずに横目で窺うと、
「おれもそれ、なんとなく聞いたことがあるな。最近の話だから興味がある」
と、直人がとぼけた。
「へえ。あ、そういうえばチャーたちって『のいず川のドクロネズミ』とか探してたりしてたんだろ。だったらさ、その謎の女の幽霊も探してみれば?」
「う、うん、分かった」
なんとか話をはぐらかしながら、「その女の幽霊は、実は奈緒子なんだよ」と言いたい衝動に駆られかけた慎吾は、ひとつ咳払いをして、直人に、
「ねえ、早く用事をすませようよ」
と、額の汗を拭いながら言った。
「うん、そうだな」
直人がおもむろに、ゲームコントローラーを手にテレビ画面を食い入るように見つめる次郎の肩を掴んだ。
それに驚いた次郎が操作を誤って、ゲームオーバーになってしまった。
「な、なんだよ、ビックリするだろ」
異常に慌てふためく次郎に、
「お前が書いたんだろ?」
と、唐突に言った直人が、なにを思ったのか、そのまま次郎の胸ぐらを掴んだ。
急なことに唖然とする周りを一瞥した直人は、口の端を歪めて、
「お前が書いたんだろ!」
と、もう一度、今度はさっきよりも語気を強めて言った。
「な、なに言ってるんだよ?」
「いいの、ここでぜんぶ言って? 恥ずかしいのはお前だぜ」
「……」
直人から目をそらして黙り込む次郎。
その光景を目の当たりにしながらも、まだ次郎が犯人だなんて信じられなかった。
「そとで話そうか?」
有無を言わさず次郎を立ち上がらせ、慎吾に松葉杖を持ってくるように指示した直人は、そのまま顔のこわばる次郎を連れて、部屋を出ていった。
ポカンと口を開く学たちに、「ごめん」とだけ言って、慎吾もそのあとを追う。
玄関を出ると、車イスに座らされた次郎が、眼前でこれ見よがしに仁王立ちする直人を見上げながら、なにやら抗弁をしていた。
「意味が分かんねえよ。なんなんだよ!」
「だからさ、書いたのはお前だろって言ってんの」
「ね、ねえ直人、なんで次郎なの?」
「おれじゃねえよ! 名前を書く理由なんてないもん!」
次郎が叫び、今にも泣き出しそうな顔になった。
「おれ、お前に『名前を書いただろ』って一言も言ってねえよ。名前ってなに?」
直人がいつものイヤな直人に戻っていた。
その加虐的な笑みに、まだ友だちとして付き合い出す前の嫌悪感がよみがえる。
「そ、それは……」
言葉に窮した次郎が、助けを乞うように目を走らせてきたが、さっきからからもう何が何やら分からなくなっている慎吾は、無情にも目を背けてしまった。
「しょ、証拠は? 証拠が無いだろ!」
「なんだっけ、それ。ああ、そうそう開き直りって言うんだぜ、それ」
「開き直ってねえよ!」
「ま、行こうぜ。そこに証拠もあるし」
次郎が座る車イスを押した直人が、ふと慎吾に笑顔を向けて、神社へと歩き出した。
松葉杖を抱えた慎吾も、あわててそのあとを追った。




