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第44話 商工ギルドにて

無断で2週間もお休みしてしまって申し訳ありません。ちょっと迷子になったモチベくんを探しに次元を超えて旅をしていました……。

 クローネとククルゥが王都魔法学校で校長と話をしているのと同じ頃、マキオとミカは第三城壁内でも一際目立つ建物の前にいた。

 建物自体の大きさもさることながら、それ以上に万人の目を引くのは屋根の中央に据え付けられた巨大な飾りであろう。

 その造形は優美な曲線を描き、磨き上げられた滑らかな表面は無機物でありながら妖しい艶かしさを感じさせる。何よりも、陽光を浴びて燦然と輝く黄金色が見る者を魅了してやまない。


「な……、ねえマキオさん……あれ、なに?」


 度肝を抜かれた様子でぽっかりと口を開けたミカが、隣に立つマキオに尋ねた。目線は巨大な黄金の塊に向けられたままだ。


「商工ギルドの看板ですよ」


 少女よりは()()を見慣れている細目の青年はこともなげに答えた。


「あんなバケモノが……?」


 商工ギルドの看板、それは黄金で出来た巨大な怪魚の像だ。

 人など丸呑みにできそうなほど大きな口中には鋭い牙が並び、魚類に共通の感情を感じさせない目でありながら獰猛さを想起させる顔つき。そんな怪魚が屋根の上で腹這いの状態から目一杯背中を反らせている。


「その昔、一介の商人に過ぎなかった商工ギルドの創始者が莫大な富を手にするきっかけになったのが、冒険者の持ち込んだ一匹の怪魚を売買したことだったそうです。それを象ったのがあの像であり、商工ギルドの紋章という訳ですね」


 人目を引く、というのは商売において非常に大切な要素である。どれほど良い品だったとしても知られなければ買われることはない。そういう意味で、一度見たら忘れようのないこの黄金像はこれ以上無いほどにその役割を果たしていると言えよう。

 実際、出入管理の厳重な王都でも比較的容易に入ることが出来る第三城壁内には、遠方からの旅人がよく立ち寄る定番の観光スポットというものが幾つか存在するが、ここ商工ギルドの建物もその一つとして挙げられるのである。


「ふーん……でもアレはないと思う」


 いつまでも趣味の悪い金ピカの魚モドキなんかに構っていられないのだとばかりに黄金像に対して辛辣な評価を下して、少女はその話題を打ち切った。


 今日ここへ来たのは王都観光の為ではない――実際のところ一部そういう側面があったことは否定できないが、これから行なわれるのは海千山千の商人達を相手にした取引。しかもその規模は下手を打てば一流の商家でさえ破産を免れないほどの金額を扱うもの。

 身分は平民とはいえ、元開拓村の貧しい農村出。それも父親が個人で管理する規模の畑しか持っていなかったミカが知っている商談など、精々が行商人相手に野菜の束を売る程度のもの。それとて自分が売買に携わったのではなく、横から見ていたに過ぎない。

 そんな自分がこの商談に付いてくることになるとは予想もしていなかったし、いるだけで何が出来る訳でもないのに何故こんなことに、というのが偽らざる本音である。

 もっとも、事の起こりを思い返してみても、半ば事故のようなものだったので回避のしようがなかったと諦めることしか出来そうにないが。


 ▼


 夕方に王都入りしてすぐ、ミカの為の買い物を済ませた一行は宿の近くにある公衆浴場で旅の疲れを癒やし、早々に夕食を済ませた。

 明日の予定としてはクローネとククルゥは朝から魔法学校へ短期編入の手続きへ。簡単な試験がある為午前中一杯くらいはかかるものと思っておく方がよい。一方マキオとミカは靴屋へ赴いて足型の合わせを行なう予定だがこれは夕方からで構わない筈であり、日中はぽっかりと空白になっている。


「ならばマキオ、観光がてら王都の案内でもしてやるのはどうじゃ」

「そうですね、滞在は一月ほどとはいえ地理を把握しておくのは必要かもしれません」

「王都は広いですからね……わたしも最初のうちは何回も迷いましたし」


 勿論ミカ自身に否やがある筈もなく、初めての王都観光に胸を弾ませながら眠りについたのだが。


「師匠、早速返事が来ましたよ」

「うむ……」


 早朝、まだ日が昇り始めた頃に届いた一通の手紙を手に、マキオはクローネの眠るベッドに声をかけた。頭まで布団を被ったクローネからはうめき声が返ってきたものの、それきり動きがないところを見ると返事をしたというよりも起こされたことに対する抗議の意だったのかもしれない。


 どうしたものか、と思案することしばし、少々の心苦しさを覚えながらマキオはまだ眠っていたククルゥに声をかけ、クローネを起こして貰うことにした。

 いつものように無理やり起こすことも考えたが、『秘技・死者の目覚め』は周囲への配慮から不採用、布団を剥ぎ取るのも付き合いの浅いミカにあらぬ誤解を受けそうなので却下、消去法で迂遠な手段を取らざるを得なかったのであった。


「ふむ……連中、予め日程調整を進めておったらしい。今日にも動けるそうじゃ」

「大量仕入れできる機会ですから気合が入るのは分かりますが、今回は特に動きが早いですね」


 商売人が仕入れを急ぐのにはどんな理由があるか。それを知らないほどクローネは世間知らずではない。

 恐らく普段よりも割高な値を付けたとしても飛ぶように売れるだろう。


「うむ、まあその辺りの事情は儂らにはあまり関係がないがの。数も質もいつも通り、ならば金額も基本的にはいつも通りとするのがよかろう」

「わかりました。ですが、相手側から値段交渉があった場合は僕の一存で判断してよろしいですね?」

「そうじゃな……それで問題なかろう」


 クローネにとって、王都で魔石を売るのは副業というよりも小遣い稼ぎに近い。何しろ発掘権は自身が持っており、そもそも鉱山の位置を知っているのも極少数。利益を脅かされる心配は殆どない。

 その上で、掘り出した魔石の大半は自宅兼店舗に使っている為、極論すれば自給自足生活をする分さえ確保できればそれで充分なのである。

 纏まった現金収入という意味では貴重と言えなくもないが、魔石の需要は王都だけに――もっと言えばこの王国だけにあるものでもない。

 人の一生が左右されるレベルの大金が動くというのに、二人のやり取りはあまりにも暢気のんきだった。


「なあククルゥさん、二人ともなんの話をしてるんだ?」

「えーと……」


 魔石の取引を行なうことをミカに話してしまってよいものか、判断に迷ったククルゥは視線で助けを求めた。


「ふむ……こうなれば仕方あるまい。確かあそこは観光地にもなっておったな」

「ミカさんも連れて行けと?」

「特に問題なかろ?」

「観光がてら商談に行く商人はいません」

「なら大丈夫じゃ、儂らは商人ではないからな! という訳でミカ、今日は王都観光をするつもりじゃったが、少々予定変更じゃ。まあマキオに付いていくだけじゃからやることはあまり変わらんが」

「え、は、はい」


 あれよあれよと言う間に纏まったらしい話に置いてけぼりをくらうミカだったが、どのみち一人で動き回れるほど王都に精通しているわけでも、何かしたいことがあるわけでもない。従うことに否はなかった。


「ククルゥは予定通り魔法学校にゆくぞ。マキオ、商人達には『今日の午前中でよい』と返事を」

「わかりました」

「では、そのように」


 クローネの指示でそれぞれが動き出す。窓の外では徐々に明るくなる王都の街並みが一日の始まりを知らせていた。


 ▼


 商工ギルドの二階、ゆうに二十人以上は入れそうな広間にマキオ達はいた。中央に置かれた大きな円卓を七人の商人が囲み、その一角にマキオとミカが座っている。


「皆様には早くからお集まりいただきまして恐縮でございます。『時は金に替えられぬ』と申しますゆえ、早速本題に入らせていただきましょう」

「そうですな。とはいえこうして魔石を買い取るのも毎年のこと。例年通りで問題ないのでは?」


 商人の中でも一番年嵩の男が商談の口火を切ると、横に座る別の商人が大きな腹を揺らしながら続いた。

 『黒猫印の魔導書屋さん』から――厳密にはクローネ・ノワコルツ個人から――魔石を買い取るのは、王都で魔石を扱うことを許された宝石商達にとって年に一度の大商戦として半ば恒例となっている。

 その量・質は極めて安定しており、他の町村に比べて魔道具の普及率が高い王都のインフラを支える重要な供給元なのだ。


「毎年同じというのも芸がない。少しは色を付けてもよいのではありませんか? 我が商会としては末永くお付き合いいただきたいですからな」

「おっと、抜け駆けはいけませんぞ」


 鷲鼻の商人が買取価格の上方修正をほのめかしたのは、それを提案することで取り入ろうという下心によるものだが、すぐに他の商人によって掣肘される。

 かつてクローネが資金を得るために幾つか魔石を売却した際、噂を聞きつけた宝石商達がそれぞれに専属契約をと迫り、辟易した彼女は接触してきた宝石商のみならず魔石販売許可を持つ全員を集めて「どこかと専属契約するつもりはない。どうしても欲しければ全員で価格を決めて一纏めで来い」と宣言したのだ。

 クローネとしてはバラバラにやって来られて何度も価格交渉だの契約書の確認だのをするのが面倒だっただけなのだが、商人達にとっては全員に平等な機会を与えてくれた女神のように思われているらしく、現在も良好な関係が続いている。


「では価格については昨年と同じということで……」


 最初に発言した老商人が締めに入ろうとしたそのとき。


 ――ドゴンッ!


 と重い音を立てて会議室の扉が吹っ飛んだ。

ウソ予告:開拓村の朝は早い。日が昇る前に起きて周辺警戒、罠の確認。開墾地の安全は毎日の地道な見回りが作る。人の領域は浅く脆く、獣の領域は深く強い。それでも彼らは諦めない。手に聖剣は持たずとも、鍬を振るうことはできるのだから。次回、『地面に埋まった大きな石を掘り出す時はギックリ腰に気をつけろ(実話)』お楽しみに。

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