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第28話 はじめてのおつかい⑦

だいぶ長いおつかいですが、はじめてのおつかいは買い物の前後が一番尺を取るので……(言い訳)

まだもうちょっとだけ続くんじゃ


2021/7/2追記:少々仕事のスケジュールが厳しい為、次回更新は一週空いて2021/7/14の予定です。

 人類史上、魔石の性質は幾つかの段階を経て発見されてきた。


 最初に発見されたのは外部からの魔力的刺激に反応して魔力を放出する性質。

 古代においては魔法の源が魔力であることは経験則的に認知されていたが、魔法自体が誰にでも扱える代物ではなかった為に神に選ばれた証とする風潮があった。とりわけ大きな魔力を内包する魔石は即ち神の力を宿す神聖な物として時には偶像崇拝の対象ともなっていた。


 続いて発見されたのは魔石には蓄えられる魔力に限りがあるという事実。

 古い口伝を書き起こした文献には度々、『神の石による奇跡に頼りすぎてはいけない。それが神の御心である(意訳)』という戒めの言葉が登場する。当初は道徳教育、或いは魔法の陳腐化による権威の失墜を防ぐためのプロパガンダと考えられていたが、魔力容量の存在が判明してからは単にこれも経験則的に使いすぎることで魔力が枯渇すること、ひいては魔力消失により崩壊してしまうことを知っていたというだけの話であると結論付けられた。


 さらに、魔石毎に個体差が存在すること。

 これは蓄積容量とほぼ同時期に発見されたのだが、外見上ほぼ同じ大きさの物を使用していたにも関わらず魔力が切れるまでに時間差があったことから偶然発見された。


 そこから暫く時間を置いて確認されたのが、魔石も魔力を自然回復するという性質。

 現存する『大魔石』――古くは神の石とも呼ばれた多量の魔力を内包していたそれらは沈黙を保って久しく、前述の文献には『力を失った神の石は時を経て再びその力を取り戻す(意訳)』とあることから、一部研究者の間では魔石は再利用可能であるという説が根強くあったものの、肝心の『力を取り戻した魔石』が長らく確認されなかった為に魔石とは使い捨ての資源であるという説が長い間有力視されていた。

 特に、時折宝石に混じって産出される程度の魔石では使用した際に崩れてしまうのが常であったのも使い捨て説を補強する要因となっていただろう。

 結局この問題を解決したのは、とある貴族家出身の研究者が供出した(当時は家宝とされていた)魔石だった。長年その観察を継続することでようやく、口伝が正しいものであると確認できたのだ。


「ということを踏まえて話を続けますね」

「よろしくお願いします」

「魔石を研究する上で、我々人間を含む生物と魔石とでは魔力を蓄える仕組みが違うのではないかという仮説が立てられました」


 魔石には時間とともに周囲の魔力を吸収して蓄積し徐々にその容量を拡大する性質と、外部からの魔力的な刺激を受けることで蓄積した魔力を放出するという性質がある。初めて魔力を放出した時点で魔石の容量――ランクが確定し、それ以降は魔力を吸収・蓄積しても容量が増えることはない。

 また、魔力を使い切った――魔力欠乏により物質的に崩壊しないギリギリまで魔力を放出した魔石は、格の高さに比例した時間をかけて再び魔力を蓄積していくが、短くとも数年、長ければ数十年以上かかることもある。

 対して、生物の場合は単純な時間経過で魔力の大きさが変動することはないが、能動的に魔力を使うことで成長することが分かっており、外部的要因でその最大値が固定されることはなく、使用した魔力は休眠することで回復する。


「そこで魔力の蓄積を早める為に様々な実験が行なわれました。採掘元の地面に埋め直してみたり、人為的に魔力を与えてみたり、そして……生物に魔石を埋め込んでみたり」

「埋め込む……?」

「言葉通りですよ。生物の体を切り開いてその中に魔石を埋め込んだのです」

「ひっ……」

「と言っても、実際に使われたのは小さな動物や駆除する際に捕獲してきた魔物ですが」


 動物実験。マキオの元いた世界においてもネズミや犬、うさぎなどを使って薬品や外科手術の治験を行なうのは一般的な手法だが、愛護団体などの反対があることからも分かる通り、倫理的な忌避感を持つ者もいる。

 かつては犯罪者や奴隷などの『社会的に人権を認められていない』人間を対象に人体実験さえも行なわれていた事実がある他、心理学や生理学の分野においては小児や学生に対してわざとストレスを与えて行動の変化や知能の発達、能力の上昇に影響があるのか実験をした例もあるが、いずれも現在では人権の侵害に当たるとして禁止されている。


「どうして、そんなことを?」

「生物が魔力を補充する働きによって魔石の魔力充填を早められないか、という発想ですね。実験では表皮に近い場所、筋肉の中、内臓に近い場所、体の中心、末端といった部位ごとに魔石を埋め込み、一定期間を置いてそれぞれの魔力の貯蓄量を調べました。その結果、動物では体の中心に近く、内臓に近い場所ほど魔力の貯蓄量が多い傾向が見られたものの、自然蓄積と比べてもその差は僅かという結果でした。しかし、魔物の場合は一部に例外がありました。体の一部分、魔物の特徴ともいえる最も発育した部分に埋め込んだ魔石では蓄積量が倍以上多くなったのです。しかし、この実験には問題もありました」

「問題?」

「魔物の凶暴化と強化です」

「それって、危なくないですか?」

「もちろん大変危険です。ですから現在では魔物を使った魔石の研究は()()()禁止されています」


 マキオがわざわざ注釈を付けた意味を、ククルゥは正確に読み取った。どんな規則にも抜け穴はあり、抜け穴がなければ地下に潜るというのは既定路線である。『魔法使いには研究の為ならなんでもする奇人変人しかいない』とは師匠であるクロの言だが、研究者というものも同じ穴の狢ということだろう。


「これ以降、魔石の研究は二つの道を行くことになります。一つは従来通り魔力の蓄積を早める方法を模索する道。もう一つは容量の大きな魔石を探す道。こちらは使い切るまでの時間を伸ばそうという発想ですね。おとぎ話では島一つを何百年も空に浮かべる程の魔石が登場しますが――」

「実在するんですか!?」


 食い気味に目を輝かせるククルゥ。何しろここに来る際には<転移>、そしてマキオの魔導書という形ではあるが<空間収納>という伝説級の魔法を目にし、実際に体験しているのだ。空想上の産物とされている空に浮かぶ島の実在に期待するなと言う方が酷というものだ――が。


「残念ながら見たことはありませんねえ」

「………………そうですか…………………」


 期待が大きかった分だけ反動も大きかったのだろう。花が萎れたようにしゅんとするククルゥを見かねて、マキオは思わず言葉を重ねた。


「見たことはありませんが、実在しないとも証明されていません。<転移>の魔法が実在したように、ひょっとしたらどこかで見つかるかもしれませんよ」

「そうですよね! 世界中を探した人がいる訳じゃないですもんね!」


 一転して元気を取り戻したククルゥの目は陽光を反射する海面のようだった。

 咄嗟に口をついて出た言葉ではあったが、元々マキオ自身『空想上のもの』という言葉に対して非常に懐疑的である。元の世界においては当然、実在性の否定という意味であったが、こちらに来てからというもの非現実の代名詞であった『魔法』が当たり前に存在し、あたかも空想小説か何かに迷い込んだかのような経験を重ねた今となっては、むしろ()実在性の否定という意味に変わった。

 目の前に実在するものは、どれほど信じ難かったとしても実在するということを痛感するにはそう長い時間を必要としなかったから。


「話を戻しますが、容量の大きな魔石を求めた研究者達は産出される場所による違い、石毎の容量の差、そういった個体差が何故生まれるのか、ということを調べ始めました。それこそおとぎ話にしかないような存在も視野に入れてです。一方で、充填を早める方向では魔物の素材を使用することに着目しました」

「魔物の素材は冒険者の間で人気ですね」

「ええ、魔物素材は武器や防具に加工した際の耐久性の高さはもちろんのこと、魔力との親和性が非常に高く、魔法使いの間でも薬品や魔道具の素材としての評価が非常に高いですよ」

「もしかしなくてもあの袋の素材って……」

「とある魔物の革です」

「やっぱり……難しいんですか?」


 魔物とは野生動物が魔力に当てられて変化したものを指す。その変化が魔力の濃い土地で起こりやすいことから環境に適応した結果の進化、若しくは突然変異と考えられるが、多くの場合は好戦的な性質となり、時に人里に被害をもたらすこともある為、積極的な討伐が推奨されている。

 一口に魔物素材と言ってもピンキリではあるが、強力な魔物であるほど比例して魔力も強くなる傾向があり、自然、有用な素材ほど入手が難しくなる。

 討伐が難しいというのもそうだが、生息数の少なさも理由の一つだ。


「そうですね……僕は直接この素材を取りに行った訳ではないので又聞きになりますが、師匠曰く『これを大量に? やれるもんならやっとるわい……』だそうで」

「あのクロ師匠が…………何の素材なのか気になりますね」


 その昔、マキオがこの革袋がもっとあれば、という話をした際には、本当に珍しいことに苦虫を噛み潰したような顔でそう宣ったものだ。だが、その魔物の正体を聞いて、まだこの世界に染まりきっていない当時のマキオでさえ納得せざるを得なかった。何故なら――


「ドラゴンの喉袋だそうですよ」

「ど、ドラっ、ドラゴン――!?」


 ドラゴン。ファンタジーでは最早お馴染みの生物最強種である。

 ご多分に漏れず、この世界にもドラゴンは存在する。翼持つ巨大なトカゲというテンプレートな見た目ながらも、鋭い歯牙や爪、硬い鱗に頑強な骨格で構成されるその巨体はそれだけで脅威であり、さらに人の手が届かぬ上空を高速で飛び回り、棲家を構える広大な縄張りへの侵入を決して許さない性質と相まって、知らずに踏み込めば命の保証はない。

 素材としての優秀さは言うに及ばず、爪、牙、皮、鱗、飛膜、骨、血液、内蔵とほぼ捨てる所がない万能ぶりを見せる――手に入れられればだが。


「ドラゴンといえばブレスですが、あれは体内の魔力ではなく、周囲の魔力を吸収して放っているらしいのです。喉袋はブレスを撃つための魔力を吸収して溜め込む器官ですね」

「そうなんですね――じゃなくて! クロ師匠、ドラゴン倒したことあるんですか!?」


 冒険者にとって、強力な魔物を討伐したという実績は替え難い名誉である。狼、熊などの猛獣をベースとした魔物を討伐すれば冒険者としての名声は約束されたようなもの。いわんやドラゴンともなれば。

 所謂いわゆる伝説の英雄がドラゴンを討伐するなどといえば、数多くの吟遊詩人や語り部が十八番オハコにするほどにありふれた題材――換言すれば分かりやすい英雄的行為であり、冒険者ならずとも手放しでその偉業を讃えるレベルだ。


「流石に一人ではないですし、正確にはドラゴンの幼体……かなり若い個体だったそうですが……まあ、やっぱり師匠は非常識だなと思いましたよ」

「なんでそんなに落ち着いてるんですか!? ドラゴンですよ!?」

「いやあ、長年師匠と暮らしていると一々驚いていられなくなりますから……」

「何があったらそうなるんですか……」


 遠い目をして虚空を見つめるマキオの様子に、ククルゥは戦慄しつつもどこか納得を感じていた。自分などはまだその片鱗しか見ていないが、<魔法使いの腕>などという聞いたこともない技を使い、伝説級の魔法を再現し、そして幼体とはいえドラゴンを討伐したことすらある、そんな師匠がそれ以外にまともなことしかしていないなどということがあり得るだろうか?

 具体的に何があったのか聞いてみたいような怖いから聞きたくないような、二律背反を抱えながらククルゥは自分のせいで逸れてしまった話を元の方向へ修正する。


「つまり、素材が貴重すぎて大量生産できないんですね」

「そうですね、一番の理由はそこです。細かい話をすると他にも幾つかありますが」

「例えばどんな理由が?」


 ククルゥ自身は現時点でどのような魔法使いになるかの明確なイメージを持っている訳ではないが、最も身近にいるのがクロとマキオであるが故か、魔法使いというものは何でもできるのが当たり前という感覚を持っている。現実には全くそのようなことはなく、殆どの魔法使いは魔法というものを便利な技術だとは思っていても、各自の用途に必要な幾つかの魔法が使えればそれで十分だと考えているのだ。

 クロのように生活に便利な魔法から戦闘や探索といった冒険者稼業に向く魔法を満遍なく使える者等数える程しかおらず、言うまでもないが伝説級の魔法を独自に復元している者などいるはずもない。マキオはマキオで出自からして一般人とは言い難く、その身に宿した固有技能は特殊という言葉ですら生ぬるい。

 刷り込みに近い形で特殊な事例を見ている弊害とも言えるが、最大の原因はその特殊な師匠の課す訓練を()()()()()()ククルゥ本人とも言える。


「そうですね、ククルゥさんは動物の皮をなめした経験はありますか?」

「自分ではやったことないですね……」

「皮の鞣し方は煙でいぶしたり、塩や油に漬け込んだり、植物由来の成分に漬けたりと色々あるのですが、ドラゴンの喉袋は半分内蔵のような物なので普通の皮と同じようにはできないんですよ」

「へえー……やっぱり魔法を使うんですか?」


 改めてしげしげと覗き込むように小袋を見るククルゥ。どこにでもありそうな茶色い革にしか見えないそれが、特別な品だと聞いてしまうと少し見え方が変わる――ということもなく、じっくり見たところでやはり小さな革袋である。

 とはいえ、魔物素材――しかもドラゴンの素材などそうそうお目にかかれるものではない。じっくり見ておきたいと思うのは冒険者としての性か、それとも魔法使い見習いとしての学習意欲か。


「魔法は使いましたが、使えなくてもお金でなんとかなりますよ」

「……ちなみにどれくらいかかるんですか?」

「この袋の場合ですと、ザッと金貨四百から五百枚といったところでしょうか」

「なんともならない金額じゃないですか!!」


 なお、金貨一枚は独身ならば王都で一月慎ましく生活できる程度――マキオの体感としては凡そ二十万円程――の金額だ。

 八千万から一億円といえば文句なしの大金であるが、王族や上位貴族であればなんとか支払いも可能だろう。支払った後に遺恨が残らないかどうかは別として。


「まあ自前で魔法を使ったとしても、肝心の素材を入手できないとどのみち高く付くんですけどね」

「一体何が使われてるんですか……」


 そんな高額な物とは無縁の生活をしてきたククルゥには最早想像の外であるが、魔法の触媒や魔道具の素材は基本的に高額になりやすい。必要なだけの魔力を宿した物質が手に入るかどうかというのは時の運に依るところが大きく、数少ない素材を複数人が求めれば需要と供給の関係により値段が高騰するのは必然なのである。そう、例えば――


「鞣しには魔力を込めた水、それと()()()()を使ってるんですよ」


 産出量自体が極僅かな魔法金属などは、その最たる物の一つだ。

ウソ予告:夏だ! 海だ! 水着回だ! 年々暑くなるのが早くなっているし気温もどんどん上がっている! その原因は「薄着で歩く女性を見たい」ただそれだけのために星一つの環境を変えようとしている極悪非道にして迷惑千万の男だった! 自ら邪神を名乗るヤツを倒すことが出来るのか! 次回、『ゴスロリ少女の前で邪神を名乗るのはやめておけ』お楽しみに。

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