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第24話 はじめてのおつかい③

時間が……時間がほしい……!

 魔力視は魔力を知覚する能力の一つであり、生まれ持った体質とも言えるものだ。魔力視に限らず、生まれつき何らかの技能を持つ者は、成長に従って自然とオンオフを切り替えることを覚えるのだが、ククルゥが自身に魔力視が備わっていることを知ったのは実質的につい最近のこと。幼少期に起こしてしまった事故のトラウマから、無意識に封印していた記憶を取り戻してからである。

 自覚してから日が浅く、十全に使いこなせているとは言えない状態であるが故に、まだ意識的に視界を切り替えるまでには至っていない。視界の端を影がよぎるとつい目で追ってしまうように、魔力を発するものを見かけると自動的に魔力視が発動する状態だ。

 そんなククルゥの目が、自身とマキオを取り囲んで高まっていく無数の魔力を捉えた。一つ一つは小さな反応だが、その総量はちょっとした魔法の発動に匹敵する程だ。


「マキオ先生、何かに囲まれています……!」

「はい、囲まれていますねぇ」


 ククルゥが反射的に腰を落として周囲を警戒したのは決して大袈裟な反応ではない。山奥で獣に遭遇した経験はあるだろうか。或いは暗い夜道で後ろから誰かの足音だけが聞こえた経験は。猛獣でないとしても、見えない位置に自分以外の生き物がいる、というのは恐怖だ。いわんや得体の知れない魔力に囲まれているとなれば。

 だが、気が付いたら魔力に囲まれていたククルゥと違い、<魔力探知>によって能動的に魔力反応を感知しているマキオは暢気なものだ。


「大丈夫ですよ、危険はありませんから」


 そう言い残して、マキオは周囲に点在する魔力反応の一つに近付いていく。全くの無警戒、無防備な様子はククルゥ一人が警戒しているのが馬鹿らしくなるほどだったが、その理由はすぐに判明した。

 しゃがみ込んだマキオが魔導書を左手に持ち替え、転移先の小屋から持ち出してきた小さなツルハシで地面を浅く掘り返すと、土にまみれながらもキラキラと魔力を漏れ放つ結晶が徐々に姿を現す。

 実際に見るのはこれが始めてだったが、ククルゥは一目でそれが何であるかを理解した。


「魔石……ですよね」

「ええ、これはまだ小さなものですが」


 なるほど、自ら動くこともない石を警戒する必要はない。先程からマキオが暢気に構えているのも当然というものだ。ククルゥも一旦警戒を解いてマキオの後ろからその手元を覗き込む。

 そうこうしている内に完全に掘り出された魔石は、ククルゥの掌よりも少し小さいくらいの大きさだった。これが原石の状態であり、魔石として利用するには整形、研磨などの加工が必要になることを考えると最終的なサイズは元の四分の一程度になるだろうか。


「ククルゥさんから見て、この魔石はどのくらい魔力が含まれていますか?」

「え? ええっと……ほんのり光って視えるくらいなので……多分、それほどは」


 魔力視と一口に言っても、視え方は人それぞれである。ククルゥにとって、魔力の多寡はその光の強さという形で視えているのだが、今掘り出された魔石の魔力含有量はお世辞にも豊富とは言い難かった。

 実際、仮にこの魔石を加工したとしても、その大きさと魔力の含有量からして等級は下から数えた方が早いものにしかならない。だが、魔石というだけで利用価値は高く、例えそれが小指の爪程の大きさであっても金貨数枚以上の値が付くのだ。

 とはいえ、今回の目的は小金を稼ぐことではない。


「なるほど、ではこの近くで一番魔力が強いのはどの辺でしょう?」

「そうですね……」


 立ち上がりながらマキオが問えば、ククルゥも体を起こして周囲を見渡し始めた。

 質問の形をとっているが、無論のこと<魔力探知>を発動しているマキオ自身も周辺の魔力反応は把握している。尋ねるまでもなく知っていることを敢えて尋ねたのは、あることを確認したかったからだ。


「あの窪地の真ん中くらいです」

「……そうですか、()()()()()()()()()()

「……?」


 ククルゥが指したのは窪地の中央付近。その答えはマキオが予め想定していた通りのものだった。複雑な計算の検算がぴったり合っていたときのような心地よさに自然と緩む頬を抑えきれず、そっと魔導書で口元を覆い隠すマキオと、それを見て首を傾げるククルゥ。

 魔導書屋さんでは割といつもの光景であるが、場所が変わってもそれは健在のようだ。


「いえいえ、こちらの話です。ではククルゥさん、コレでその魔石を掘り出してきてくれますか?」

「はい……あの、マキオ先生?」

「何でしょう」


 頭を振ると、マキオは一見普段と変わらない顔でククルゥへとツルハシを差し出した。頷きながら受け取ったククルゥは、しかし怪訝そうな顔のままで尋ねる。魔石を掘ることに否はないが、気になっていることがあったからだ。

 マキオとしても、生徒の質問に答えることは教える側の義務と考えている。このタイミングでククルゥが聞いてくるとすれば魔石を掘る際の注意事項などだろうか、そう考えていたのだが。


「なんでそんなに楽しそうなんですか?」


 ククルゥの質問はマキオの想定とは少しばかり異なるものだった。

 ペタリ、と頬に触れてみる。特に普段と変わらない。

 軽く指先で揉んでみる。表情筋もいつも通り――否、やや口角が上がっているかも?

 主観的な情報ではそう大きな違いはないように思えるのだが、ククルゥから見れば違ったらしい。念の為、客観的意見の収集を図ることにした。


「……そう見えましたか?」

「ええ、すごく」


 間髪入れずに断言された。

 これまでマキオは自分自身を、無表情というわけではないがどちらかと言えば表情が少ない方だと自認していた。事実、常に笑っているような顔、というのが大半の評価であり、それは主に客商売を営む上で概ね良い印象を与えてきたのだが、半月という短いとも長いとも言える期間で僅かな表情の変化に気付けるようになったのは師を除けばククルゥが初めてであった。

 十歳以上年下の少女に表情を読まれたことにか、それとも別の理由によるものか、ある種の気恥ずかしさを覚えつつも、マキオはその感情の動きをも利用して理由を誤魔化しにかかる。


「大きな魔石が採れるかも知れない、と年甲斐もなくつい浮かれてしまったようですね」

「………………」


 実際に感じている感情を絡めた欺瞞工作は、恐らく並の人間であれば通じたであろう。

 しかし、ククルゥには通じなかったようで無言のまま視線による圧力がかけられた。翼耳族の()を騙すのは至難の業。実にサプライズ泣かせな種族なのである。


「まあ、魔石を掘り終わったらちゃんとお答えしますよ」

「……わかりました。約束ですよ」

「ええ、もちろん。では、よろしくお願いしますね」


 早々に降参しながらも回答を先延ばしにするマキオの様子から、これ以上の追求ははぐらかされるだけと悟ったククルゥは、小さく頬を膨らませながらも斜面を下って行く。その背中に声をかけて見送り、十分に距離が開いたところで、マキオは<魔力感知>の魔導書から手を離して()()()()()すると、新たに茶褐色の表紙を持つ魔導書を呼び出した。


「――さて。ではこちらも始めますか」


 ▼


 マキオに見送られて、ククルゥは巨大なすり鉢の底へと駆け降りていく。厚手の作業着は少し動きづらかったが、その足取りに重さはない。

 背負った収納袋の紐を握りしめながらそれほどキツくはない斜面を一直線に抜けて、ほどなく穴の底に辿り着いた。


「ここだ……」


 ククルゥたちがやって来たのはすり鉢の南側だったが、魔石らしき反応はその中心から少し東にズレた場所にある。遠目にも分かるほど強い魔力の光は、近くに寄ると目が眩みそう――というのはあくまでも感覚であり、実際に目が眩んでしまうことはないのだが、まだ魔力視に慣れていないククルゥは無意識に目を細めてしまった。


「魔石を掘るのは初めてだけど……とりあえずやってみよう!」


 背中の収納袋を地面に下ろし、グッとツルハシを握る手に力を込めてひとりごちて、まずは見様見真似で、先程マキオがやったように地面を浅く掘ることにする。

 ツルハシを寝かせ、僅かに頭を出した魔石から外側に向けて地面をこそぐように。時折地面に対して垂直にツルハシを刺してみて、手応えで魔石の大きさを確かめていく。


「割らないように……慎重に……」


 ざく、ざく、じゃり、じゃり、としばらく土を掘る音だけが鳴り続け。


「採れた……!」


 初めての作業ということもあって効率は良くなかったが、十分程かけて握り拳よりやや大きいくらいの魔石を掘り出した。

 マキオがサンプルとして掘り出してみせたものよりも大きく、研磨前でいてなお透明度も高い。取引されることがあればかなり高い等級に分類されることは間違いないだろう。

 しかし、なによりもククルゥの目を引きつけたのはその輝きだった。掘っている内に目が慣れたのだろう。最初のように眩しさを感じることもなく、石の中から溢れてくる魔力は小さな星のように瞬いて視える。思わずほう、と溜息が溢れた。


 掌の中の星に目を奪われていたのはどれほどの時間だったのか。


「あっ、マキオ先生の所に戻らなきゃ」


 はっと我に返ったククルゥは掘り出したばかりの魔石をもう一度だけ、しっかりと目に焼き付けるように見つめてから収納袋へとしまい込むと、降りてきたときと同様一直線にマキオの待つすり鉢の縁へと駆け上がっていく。


「マキオ先生ー! 掘り終わりました――」


 そして戻ってきたククルゥの目に飛び込んできたのは


「何ですかこの穴!?」


 いつの間に出現したのか分からない大穴だった。


 ▼


 新たに手にした魔導書に魔力を流しながら、マキオは考える。

 同時発動中の<魔力探知>で分かっている強い魔力反応は深さ三メートル程度の位置。垂直に掘り進めるのが最も手っ取り早いのは確かだが、せっかくならこの周辺に埋まっている魔石も回収しておきたいところだ。

 ではどうするか。


 起動した魔導書に追加で魔力を注ぎ込めば、パラパラとページが捲れていき複数の補助魔法陣が起動する。魔法の効果範囲を強化するそれらを組み合わせて思い描く範囲と形を作り上げていく。


「いい感じですね。では<掘削>」


 高速で流れていく魔法陣の一つ一つを目で追い、必要な全てに魔力が満ちたタイミングで<掘削>の魔法を発動させると、マキオの足元から徐々に地面が削れていき、その範囲が広がり、比例して深さも増していく。

 そして数十秒後。

 手に収まる茶褐色の魔導書を閉じたマキオは、穴の底にいた。穴と言っても井戸のような垂直のものではなく、半球状に掘られたもので地表付近の最大経はおよそ六から七メートルといったところ。壁面には螺旋状に地上へと続く坂路が設けられている。


「やはり便利すぎませんかこの魔法……いや、そもそも魔法自体が便利すぎるので今更ですけど」


 実を言えば、この周辺で最も大きな魔力反応(勿論ククルゥやマキオ、案内役のゴーレムを除いてだが)はマキオ達の足元に埋まっていた。足元とは言っても先に掘り出したような浅い位置ではなく、その深さはおよそ三メートル前後。魔石の鉱脈としてはかなり浅いといえるが、人力で掘るにはそこそこ骨の折れる深さだ。

 そこでマキオが呼び出したのが<掘削>の魔導書である。『土を掘る』という非常に地味な効果の魔法で、その地味さ故に若手の魔法使いに使い手は少ないが、主に土木現場で活躍する為、これを習得すれば少なくとも食いっぱぐれる心配はなくなるとまで言われる影の実力者的魔法だ。


 この<掘削>、使用する魔力に比例して範囲や深さを調整でき、その調整の仕方によっては今マキオがいるような半球状の穴を作ったり、立法体を掘ることで地下室を作り出したりと応用範囲が広いのだが、魔石採掘において最も重要なのはそこではない。


 この魔法の効果は『土を掘る』ことだけ。では、()()()()()()はどうなるのか?

 その答えが穴の底に山積みになっている魔石の原石だ。


 土とは大雑把に言えば『微細な岩石や動植物の死骸と水、空気の混合物』である。言い換えれば()()()()()岩石その他は土に含まれない。よって、この魔法を使用した術者が土と認識しないものはその場に取り残されてしまうのだ。

 これは本来デメリットでしかない。トンネル工事や家の基礎を作ろうと穴を掘って、そこに石や岩が転がっていては一々それを片付ける手間が発生してしまう。

 しかし、その石や岩が魔石だったら?

 大量に掘った土の中から選り分ける作業も要らず、大きな原石を誤って砕いてしまうこともなく、高品質の魔石を簡単に入手できる夢のような魔法に早変わりという訳だ。

 因みに、この魔石採掘場が巨大なすり鉢状になっているのは過去にクロが採掘した名残である。大魔法使いは魔石採掘一つとってもスケールが違うのだ。


 少し広く掘りすぎたかと若干後悔しながらも、マキオが<魔法使いの腕>も駆使して掘り出された魔石を集めること十数分――「マキオ先生ー! 掘り終わりました……何ですかこの穴!?」――驚く声に少し遅れて穴の縁からククルゥが顔を覗かせた。


 ▼


 合流したククルゥはまず突然顕れた大穴に驚き、その底に転がる魔石の数と大きさと魔力含有量に驚き、最後にこれを数十秒で作ったという魔法に驚いて、驚き疲れたのか座り込んでしまった。


「わたしが見つけた魔石もすごいと思ったんですけど……」

「もちろん、間違いなく素晴らしい魔石ですよ。ククルゥさんに視えていた中では最上のものでした。迷いなくこれを選べるだけでも大したものです」


 当たり前といえば当たり前の話ではあるが、魔力視は視覚に大きく依存している。その性能は視力の良し悪し、視野の広さといった身体能力の個人差に大きく左右され、何よりもその効果を発揮できるのが目で見える範囲に限定されるという弱点を抱えている。ククルゥが地中の魔石を見つけられなかったのはその為だ。

 一方、魔力探知は自分を中心に魔力を広げることで、ソナーのように魔力を発するものを識別するという魔法だ。壁や地面といった無機物――自分から魔力を放出しないものを透過して魔力反応を探知できるのが強みである。

 厳密には魔法というよりも魔力放出の応用に近いのだが、定型化しておくことで使いやすくなるが故に魔法扱いで教えるのだという。


「まあ、魔力探知は魔力探知で弱点がない訳ではありませんが、魔力視を持っているなら覚えておくことで使い分けができますからね。なるべくなら早い内に覚えるに越したことはありません」

「……あれ? でも、クロ師匠はわたしの体の中の魔力を視ていたような……?」

「あれはですね、師匠が非常識なんです」

「ああ~……」


 ひどい言い草だったが、妙に納得してしまうククルゥであった。

ウソ予告:掘り出した魔石で億万長者となったククルゥ。これまでとは比較にならないほど豊かな生活を手に入れ、田舎の両親を王都に呼び寄せ生活の面倒を見られるまでに。だが、金という魔物は静かに心を蝕んでいく……。次回、『ガチの億万長者ならば、買えぬものなどあんまりない!』お楽しみに。


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