表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/53

第14話 魔法学基礎~魔力放出編~

しばらく修行パートが続く予定です。が、魔法の修行なんてしたことないのでどうやったらいいものやら……読者様の中に魔法使いの方がいらっしゃいましたらご教授ください……

 マキオとクロによる方針会議の後に開かれた昼食の席。そこには弟子に向かって深々と頭を下げる黒猫の姿があった。


「この度は私の個人的な興味から不適切な訓練を実施し、伴って精神的負担をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした。今後このようなことのないよう、十分に配慮し再発防止に全力を尽くす所存です」


 口調まで完全に大真面目である。彼女なりに誠意を見せる意味があってのことだったのだが、謝られた少女の反応はといえば、


「く、クローネ師匠……!?」


 ドン引きだった。

 顔には「誰ですかこれ?」と書いてある。短い付き合いではあるが、彼女にとってのクロ――クローネといえば、ナチュラルに尊大で、我儘で、しかしそれに見合うだけの実力を併せ持った尊敬する師匠でもある。

 助けを求めるように兄弟子たるマキオを見れば、楽しそうに、実に愉しそうに笑っていたが、ククルゥからの視線に気が付くと一転して真面目な顔を作ってみせた。


「師匠なりに反省してのことなんです。ククルゥさん、ご両親のことで気に病んだりしていませんか?」

「あ、はい……いえ、勿論全然、という訳ではありませんけど……!」


 どうせ聞かなければならないことを誤魔化しても仕方ないとばかり、直截的(ちょくせつてき)過ぎるほど率直に尋ねるマキオだったが、特に気負うこともない――途中で気負わなすぎたと思い直したのか誰に対するものとも知れない言い訳すら混じった答えが返る。

 人によってはこれで余計に負担をかけることとなるだろうが、マキオとて何も考えていないわけではない。むしろククルゥならばそうはならないと半ば確信を持っていた。

 その根拠は二つ。

 一つは、記憶遡行を行なったときの反応。当然のことだが、術者であったクロとマキオはククルゥ本人の反応も含めてその一部始終を見ている。

 記憶遡行の最後に、彼女は両親に向けてて「ごめんなさい」と言った。

 当初はそれを「傷付けてしまったこと」或いは「忘れてしまっていたこと」への謝罪だと思っていたが、その直後に聞いた彼女の意思。子供の我儘のようなそれは、どこまでも自分本位で――だからこそクローネの琴線に触れたのだが――しでかしたことの大きさから考えても親不孝のそしりを免れないだろう。

 それ故の、謝罪。謝れば全てが許されるなどということはないが、それでも前に進むという決意表明。

 そんなことをする人物が、突発的とはいえ訓練中の事故、しかも未遂のそれで折れるはずもないという信頼。

 もう一つは、昼食の支度を頼んだとき、つまりは師匠の無茶振りによってトラウマを刺激された際の反応。

 あそこで取り乱したり動けなくなっているようであれば、前述の判断は間違っていたことになるが、彼女の様子を見るにそれもない。勿論、顔色を悪くしていたことから全く動じていない訳ではないだろうが、それで潰れてしまうようなこともなく、きちんと依頼を果たしている。

 食卓に並んでいるのは朝のスープを温め直したものと、作り置きしておいたパン、そしてメインには焼いた塩漬け肉。

 シンプルな内容なのは想定外のことに時間を取られた分を取り戻す意図だろう。

 ククルゥ本人は午後も訓練をするつもりであることが覗える。

 長々と言ってみたところで、結局はただの勘だと言われてしまえばそれまでなのだが。魔法使いにとってはそういった勘も大切な要素なのだ。


「だそうですよ師匠。寛大なククルゥさんに感謝して自分の行動を反省してくださいね」

「はい。重ね重ねこの度は誠に……え、もういい? そうかの?」


 未だに頭を下げ続ける黒猫にそう水を向ければ、一度顔を上げはしたものの尚も(本人としては)真面目な口調を崩さずに応じようとしていたが、当事者であるククルゥが視線で語る「お願いだからもう止めてください」との要請――むしろ懇願――にあっさりと態度を戻した。


「大丈夫です。わたし、ちゃんと覚悟しましたから。あ、でも……」


 あからさまにホッとした様子のククルゥは苦笑していたが、ふと思いついたように言葉を切ると無言で席を立ち、黒猫の後ろへと移動する。クロもマキオも突然の行動の理由が掴めず、ただ見送るだけだ。


「お詫びにこのくらいはさせてもらっても、いいですよね!」


 そう言って、少女は黒猫を胸に抱き上げてその毛並みに顔を埋め、一片の曇りもない笑顔を浮かべた。


 ▼


 結局、今回の暴走事件への補償はクロが一週間のおやつ抜きと、同期間、訓練中以外はククルゥのペット扱いということで決着した。


「大魔法使いを愛玩動物扱いとは……恐れ知らずもいいところじゃぞ……」


 とは本猫の弁だが、撫でられている最中の緩みすぎてスライムになっている様を見れば照れ隠し若しくは強がりであることは明白だ。恐るべし、ククルゥの撫でスキル。


「さて、初日からちょっとしたトラブルがありましたが……改めて、魔力覚醒おめでとうございます」

「ありがとうございます……ところで、魔力覚醒……? ってなんですか?」


 昼休みを済ませたマキオとククルゥは、魔導書屋さんの裏庭へとやってきた。マキオは平服の上に魔法使いらしい紺色のローブを、ククルゥの方はここへ来てからクロに譲られた深緑のローブをそれぞれ纏っている。

 小さな畑にはいくつかの野菜が育ち始め、濃淡鮮やかな緑が目に優しい。


「魔力覚醒というのは、簡単に言うと人に内在する魔力を目覚めさせることですね。魔法使いになる為に最初に通過するいくつかの段階の一つです。」

「なるほど、今日のやつですね!」


 マキオの説明になっているような、いないような答えでも、言わんとする所は伝わったらしい。優秀な生徒である。


「そうです。厳密に言うとククルゥさんは『魔力知覚』と『魔力覚醒』の両方とも子供の頃にできていたので、やり方を思い出したと言うべきかもしれませんが」

「あはは……お手数をおかけします……」


 元々できていたことを今更やり直している、という事実が気恥ずかしく、ククルゥは頬を掻きつつ小さく耳をはためかせる。

 そんな妹弟子兼生徒を微笑ましく思いながらも、マキオは手の上に一冊の魔導書を取り出す。


「そんな訳で、午後は『魔力放出』の制御を覚えていただきます」

「はい!」

「因みに『魔力放出』はそのまま、魔力を体の外に放出する技術です」

「はい!」


 テンポよく、やる気に満ちた返事が返ってくる。その流れを、


「そしてククルゥさんは今の所それがド下手です」


 マキオの容赦ない一言がぶった切った。いい笑顔で。

 歯に衣着せぬどころではない。刃である。名刀もかくやの切れ味だ。


「ド下手……」


 初心者ゆえ当然の事実ではあっても、改めて口にされるとやはり堪えるものがあるのだ。目に見えて落ち込むククルゥに苦笑しつつ、マキオはフォローを入れることにする。


「ですが、伸び代があるとも言えますよ。上手くなる為にこれから練習を重ねる訳ですから」

「そ、そうですよね!」


 それだけで「ふんす!」と音がしそうなほどに気合を充実させるククルゥ。単純というべきか純粋というべきか。いずれにせよ、それが彼女の魅力の一つであることは疑いようがない。


「それでは、早速訓練に……と言いたいところですが」

「……?」

「その前にククルゥさんに現状をもう少し理解してもらいます」


 にこりと笑って言うマキオ。手にした魔道書の表紙を撫でているのは無意識だろう。ローブを翻して畑の端にある井戸へと足を進め、その後ろをやや小さな歩幅で追うククルゥは、井戸を見て、マキオを見て、首を傾げる。


「あの、マキオさん……?」


 問いかけるククルゥには応えず、マキオは井戸の横に立て掛けられたままの大きな木製のタライを地面に置くと、手押しポンプを操作して水を汲み始めた。ざぶざぶと勢いよく量を増していく水をマジマジと見つめる少女は、不思議そうに目を瞬かせ、その作業を見守る。

 タライの縁ギリギリまで水が溜まったところで、ようやく水汲みを止めたマキオは、更に柄杓を一本タライの中に沈めると背後のククルゥへ振り返った。


「お待たせしました」

「ええと、これは……?」

「見ての通りタライと水です」


 あまりにも情報が増えない回答。そんなことは言われるまでもなく見ればわかるのだ。

 こういうときに一度とぼけてみせるのは師匠譲りなのだろうか、とジトッとした目を向ければ笑って誤魔化すマキオである。


「魔力放出を視覚的にわかりやすく説明しようかと思いまして。まずはですね、このタライと水が僕ら魔法使いです」

「は、はあ……」


 続けて、困惑するククルゥをよそに説明に入る。タライが魔法使い、と言われても今ひとつピンとこないククルゥの反応は鈍い。それはそうだ。タライは人ではない。


「タライを体、水を魔力だと思ってください」

「は、はい」

「魔力放出というのはタライの外に魔力(みず)を出すことを言います」


 追加の説明でようやく飲み込めたククルゥがコクコクと頷きながら続きを促す。


「魔法を使うためには当然魔力が必要ですが、魔力は無尽蔵ではありません。人によって魔力量に違いはありますが、有限であるという点は同じです」


 柄杓で掬った水をタライの外に撒きながら、マキオが言う。撒かれた水は地面に黒い染みを作っては吸い込まれていく。


「因みに今のククルゥさんはこんな感じです」


 そう言って、しゃがみ込んだマキオは唐突にタライを傾けて水を盛大にぶちまけ始めた。地面が吸いきれなかった水が小さな流れを生み、畑に向けて流れ始める。

 それはつまりククルゥに向かって流れているということでもあり、ククルゥはその水流を横に避けて見送った。


「ええっと……つまり?」

「制御ができていない為、一度に出せる魔力の量は多いのですがその分枯渇するのも早い、ということです」

「なるほど……」


 言われてみれば道理である。水が有限である以上、考えなしに使えばすぐに枯れる。今の僅かな時間で半分以下になったタライの水を見れば、よく理解できる。


「あれ、でもそれだと……一生の内で使える魔法には限りがあるってことですか? そんな話は聞いたことがないですけど……」


 素朴な疑問だ。魔法というものについて知識のない状態だからこそ湧いた疑問ともいえる。或いは、タライと水の喩えが影響しているのかもしれない。

 生徒の鋭い質問に思わず感嘆の声を溢し、マキオは疑問の答えを実演してみせる。


「そうですね。確かに、使い過ぎればいずれタライは空になります。ですが、魔力は休んでいれば自然と回復してくるんです。ちょうどこの井戸から水を注ぎ足すように」


 キコキコと金属の擦れる音が響き、再びタライに水が注ぎ込まれていき、光を反射する透き通った井戸水は、空の青を映している。


「ああ、勿論これは喩えですから、誰かが魔力を注いでいるという訳ではないですよ」


 そういう方法もなくはないですが、と付け加えて言葉を結んだマキオは、ククルゥの理解度を確かめるように視線を投げかけた。


「分かりました。それじゃあ、わたしはこれから柄杓を手に入れればいいんですね!」


 概念的なものを目で見える形に喩える、というのは理解に繋がりやすい。だが、マキオはククルゥの辿り着いた答えに是とも否とも告げずに、ニンマリと笑みを浮かべた。


「では、問題です。柄杓はどうやったら手に入るでしょうか?」


 教師役ということでなりきっているのか、人差し指を立ててククルゥへ問うマキオ。

 問われたククルゥは考える。普通の柄杓であれば、店で買う、材料を加工して作るなどの方法がある。しかし、この場合の柄杓とは喩えであり、概念的なもの。実際に作ることはできないだろう。

 うんうん唸ってみても、妙案は浮かばない。


「ククルゥさん、魔力放出とはどういう事だったか、きちんと覚えていますか?」


 笑顔のマキオが、更に問いを重ねた。流石にこの短時間で忘れてしまうほど、少女の記憶力は低くない。

 魔力放出はタライの外に水を出すことに喩えられた。だが、それがどうしたというのだろうか。


「……あ、もしかして」


 ふと気が付いた。タライの外に、水を出すこと。そう、何も柄杓に拘る必要はないのだ。

 手で汲んでも、タライを傾けても、水はタライの外に出るのだから。


「大切なのは、柄杓じゃなくて……」


 そう呟きながら、ククルゥは自分の中に溜められている筈の『水』を意識する。川原で触れた、温かいもの。形のないそれを液体のようにイメージし直す。自分という器にたっぷりと詰まった、魔力という水を、体の外へと少しづつ流す。

 気が付けば自然と右手を前に出して、目を瞑っていた。その右手の先に向けて、魔力をゆっくりと流し込むが、中々魔力が出ていかない。

 ジリジリと、焦れったい感覚がある。一瞬、一気に放出してしまいたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢。


「少しづつ、少しづつ……タライを傾ける……」


 自分にい言い聞かせるように呟きながら、脳裏には先程のタライを傾けているマキオを思い浮かべる。ただし、タライを一気に傾けるのではなく、慎重に慎重に、水がチョロチョロと溢れ始める位置をしっかりと見極めて。


「あ……」


 ある一点を超えたところで、右手に集まる魔力量が少し増えた気がして、ククルゥは反射的にそれを引っ込めてしまった。同時に集中が切れてしまい、魔力の感覚は潮が引くように遠のいてしまう。


「ああ……」

「残念、ですが惜しいところまで行きましたね」


 それまで邪魔をしないよう沈黙を守っていたマキオが声をかけるが、言葉とは裏腹にさほど残念そうではない。どちらかといえば驚きだろうか。


「難しいですね……ちょっと傾けるとドバっと出てしまいそうですし、かといって傾けないと出てこないですし」

「そうですね。ですが、自力で魔力放出の量を制御できるようになればできることの幅が広がりますから、これからも訓練は続けましょう」

「はい」

「それはそれとして、ククルゥさんには()()をお貸ししますね」

「はい……はい?」


 会話の流れで言われた為、一瞬聞き流してしまいそうになったが、看過できない言葉があった。


「え? あの、マキオさん……柄杓を貸す、というのは?」

「勿論、これではありませんよ」


 そう言ってマキオが掲げてみせるのは水撒きに使った柄杓。それをなんの未練もなくタライに落として、代わりに掲げ直したのは先程から持っているだけになっていた魔道書だ。


「簡単に……とは言いませんが、きっと感覚を掴む手助けになるはずです」


 そう告げる魔法使いの兄弟子の笑顔は、いつもよりも頼もしく見えた。

ウソ予告:身体の動きに魔力放出を合わせることで運動能力が通常の三倍となったククルゥは、真紅の魔力を纏って戦場を駆ける。赤い流星の二つ名は伊達じゃない! 次回、『仮面を付けたくらいで正体がバレない訳がない』お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ