物語の始まり Ⅵ
前の投稿から随分間が開いてしまい申し訳ありません。賞に応募する小説の製作などでこちらが止まってしまっていました。
ゆっくりとではありますが再開していくつもりなのでよろしくお願いします。
「さて、お前は田中太郎を見ることができたわけだがあれであってるか?」
アクルスを囮に、公園から少し離れたところで歩きながら、ヒカドラは紗希を見る。
紗希は色々なことに困惑しているようだった。
「あ、あの!さっきの人…マコトさん、でしたっけ?置いてきちゃって大丈夫なんですか?それに今ってどこに向かって」
「ストップだ紗希さん、ヒカルのアニキ。敵がいる。」
前を歩いていたクロが2人を手で制す。
するとクロの目の前から黒いスーツに身を包んだ輩…先程ヒカドラたちを襲撃したであろうヤクザの仲間たちが現れる。
「ほう、今度は奇襲はしないのか?」
腕を鳴らしながらヒカドラは口角を上げる。
「必要ねぇさ…俺たちの方が強いからなぁ!」
直後、クロとヒカルの後ろを風が横切る。
紗希の姿が消えていた。
「アニキ、索敵だ!」
「チッ、すでにかなり離れている!追いかけるぞ!」
ヒカルは遠くに離れた紗希と紗希をさらった敵の方向を的確に睨みつけ、クロとそちらに向かって走り出す。
「させるかよ!」
その目の前に獣が飛び出してくる。
「こりゃあまさか…」
クロとヒカドラは走り出した勢いを消して足を止める。
「ハイビーストだろうな」
ヤクザたちはハイビーストを服用していた。獣となったその体はたくましく、ちょっとやそっとでは倒れないだろう。先ほどの男性とは違い、理性も保っていた。その頭数は10を超えている。
「…仕方ない。」
ヒカドラは右手のひらを走ろうとしていた方向に向ける。
「任せるぞクロ。おそらく方角からして湾岸の倉庫だ。」
「オーケーだアニキ!さっさと片付けて追ってこいよ!」
直後、ヒカルの手から光が飛び出す。
それは正に大砲。あたりを眩く照らす太い閃光がヒカドラの眼前に放たれた。その勢いに驚いたヤクザたちは進路上から飛び退く。
高速の光の衝撃波が、進路上にいた敵をどかすと同時、クロはそのすぐ横をピッタリと駆け抜けて行った。
「くそっ、追え!」
リーダーらしき人物の指示で何人かがクロを追いかけようとする。
しかし、それより速くヒカドラは彼らの前に回り込んだ。
「行かせるかバカども」
ヒカドラはスーツを脱ぎ捨てる。
「さぁ、蹂躙するとしようか!」
刹那、周囲は光に包まれた。
「……んー!んー!」
湾岸の倉庫、そこには大勢のヤクザであろう男たちと紗希を連れてきた一体の獣、口に布をかまされ獣に腕を後ろで押さえつけられた紗希、そして奥には得体の知れない大きな影があった。
「おい、外せ」
「はっ」
ヤクザのボスであろう、帽子を被り髭を蓄えた男が獣となった男に命令する。
「はぁ、はぁ、何するんですか!?」
紗希はボスを睨みつける。
「はっはっは、何をする?決まっているだろう、尋問だよ。ちょっとばかり痛い、ね」
ボスはその狂気に満ちた眼差しを紗希に返す。紗希は怯み、少し後ずさる。
「…ハイビーストの事は話しませんよ。あなたたちみたいな人たちになんか絶対に」
それでも負けじと紗希は食って掛かる。
「ハイビースト…?あぁ、あの薬のことか。あんなものはどうでもいい。もう完成しているからな」
「何ですって…?」
ボスの言葉は紗希を困惑させた。
紗希は今まで彼らの目的は薬だと考えていた。自分たちが薬で儲けるために求めていると。だからハイビーストの入ったバッグはヒカドラに預けていた。
しかし、彼らの目的はそうではなかった。
「痛い目に遭いたくなければ答えろ…"研究素体No.03/metamonium"はどこにいる。お前は知っているはずだ」
ボスは今までとは違う、本気の殺意を紗希に向け問い質した。