晴天の霹靂 Ⅵ
「シッ、シッ!!」
クロは屋上でシャドーボクシングの様な訓練をしていた。
(…クソッ、どうすりゃあ良いってんだよ……)
クロは悩む、というより諦めていた。
これまでの戦績を見ると実に中途半端だが、クロ本人は弱くない。むしろ歳の割には強い部類だろう、というのがクロも含めた周りの評価だった。
しかし、先程の男はそれを凌駕する強さだった。ともすれば本気のヒカドラやアクルスに匹敵するかもしれない、クロがそう思うほどには。
ただ、クロが諦めている理由はそこではない。
(何であいつが俺の攻撃を見ずに避けられるのかも、どうやって蹴り飛ばされたのかも全く分からなかった……!)
クロは歯を強く噛み締める。
男の……ライザの強さがクロには分からなかった。これがクロを諦めの気持ちにさせていた。
蚊が人の血を吸おうと近づいて手のひらで潰されるように、あまりにも強さに差があると、お互いにその強さを正確に測れなくなる。
クロはライザの強さが分からなかった。そして負けた。
それはつまり、クロにとってライザは途方もなく強いという事だった。
さながら、普段のクロとヤンキーの関係性と同じ様に。
「だからって数時間じゃどうにもなんねぇだろうが……!」
自分で言いながらクロは悔しさで涙が出る。そんな事はクロが一番よくわかっていた。
「……ふむ、筋は…プロボクサーではないので分かりませんが、打つ姿に迷いがありますね。それくらいなら私でも受けられそうです」
「……あ?」
気がつくと、屋上の入り口に少女が立っていた。
見覚えのない制服に身を包み、綺麗な栗色の髪に短めの髪を両サイドに束ねたツインテールという髪型は、スレンダーな体型と相まって少女を幼く見せた。
「ふむ……丁度良いです、悩みなら私が聞きましょう。後腐れなく終わって欲しいですし」
少女はそう言いながら休憩の為に座っていたクロの隣に座り込む。
「おいアンタ」
「私は姫乃双葉と言います。あなたは?」
少女……双葉はクロの言葉を遮って、勝手にお悩み相談を始める。
「……竜野黒だけど」
「そうですか、ではクロさん。あなたのお悩みは何でしょうか?」
「いやだから…」
クロは双葉を突っぱねようとするが…
(な、なんだか罪悪感が……)
双葉の純真な瞳にあてられ、クロは言葉に詰まる。
綺麗な青色の瞳がクロを捉えて離さない。
「私の顔、何か変でしょうか?」
「ああいや、すまねぇ」
クロは少し距離をとって、ありのままを話した。
「あー、そのー、何というか……申し訳ありません」
「何でアンタが謝んだよ」
クロの話を聞いた双葉が謝罪する。
「私もその馬鹿と同じ高校の者なので」
「!?」
クロは双葉の言葉を聞くや否や、警戒を最大限に強める。
「あ、私のことは気にしないでください。ここにお詫びに来たついでですので」
「いや無理だろ」
クロは殺気とは言わないまでも、敵意は剥き出しにしていた。
が、双葉に警戒の様子はない。
「……」
「……チッ」
クロはしばらく睨んだ後、大人しく座り込む。
「…何で座るんですか?」
双葉はクロに問いかけた。
「あ?」
「あなたは警戒を解いていません。今、そうして座っている時でもです。だとしたら座るのはむしろ不利ではないですか?そんな体勢でわざわざ話を聞く理由が分からないです」
「……」
双葉はクロに追い討ちをかけるように続ける。
「私の実力なんてあなたが殴り飛ばしてきた馬鹿な方達と大差ありません。何をそんなに怖がっているんです?」
「ッ……」
図星だった。
クロは目の前のただの少女に、不気味な感覚を覚えていた。
強いわけではない。なのに勝てる気がしない。何を怖がる事があるのか、少女の問いは、クロに深々と刺さっていた。
「……なるほど、そういう事ですか。いいでしょう」
双葉はそう言って何かに納得すると立ち上がる。
「少し打ち合いましょうか」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今日こそは20時に投稿できたでしょうか?不安ですがきっと大丈夫でしょう。
さて、明日で今回の集中投稿は終わりです。お盆前に投稿できて良かった反面、またお待たせすることが申し訳ないですが気長にお待ちください。
それではまた!




