物語の始まり Ⅱ
夕飯時。あたりが静まり返る中で黒達の家のインターホンが鳴らされた。
「…おかえりー。今日の夕飯は?」
クロはドアを開けると、目の前に立っていた男に質問した。
男は紺色の髪で耳にはピアスをしている。虹彩は水色であり、容姿はそれなりに美形だった。
「カレーだ!野菜切るから手伝え!今日は量が増えるぞ!」
声をかけられた男…"アクルス"は意気揚々とキッチンに向かう。その後ろには一つの影があった。
「……ん?おっ、これは奇妙な巡り合わせだな?」
目の前にいたのは神奈川紗希だった。紗希は目を合わせずにお辞儀をすると靴を脱ぎ、パタパタとキッチンへと駆けて行く。
「…なんなんだ?」
クロは紗希に続いてキッチンへと歩いていった。
しばらくするとリビングの机にカレーが並べられた。4人分である。
「………」
1人は黙々とカレーを食べ。
「………」
1人は紗希と青年の顔を交互に見ながら状況を確認しつつ。
「………」
1人はただひたすらに俯いていた。
「………なぁ?」
重苦しい空気に耐えきれずアクルスが口を開く。
「何で誰も喋らねぇの⁈おかしくねぇ⁈通夜じゃねぇんだからよ!」
「…まぁ"マコト"のアニキは知らんだろうから事情を説明するとだな…」
クロがかいつまんでさっきまでのことを話す。
「……おいヒカドラ。どうしてだよ?」
アクルスは白髪の青年を睨みつける。
「最低だとでも言いたそうだな"マコト"。なら貴様の食事代は明日からゼロでいいな。あと俺のことは"ヒカル"と呼べと言っただろう?」
「おまっ、それとこれとは話が別だろうが!ずるいぞ!」
アクルスとヒカドラ…もといマコトとヒカルが言い争いを始める。
「………」
紗希はそんな中で1人でまだ俯いていた。
「あー…その、だな。さっきの非礼は詫びるよ。アニキはああ言ってたけど、正直俺たちとしては受けたいとは思ってんだよ。面白そうだし。ただちょっと前の依頼で結構やばめのゴタゴタがあってな。その後だから気が立ってるだけなんだ。」
クロは俯く紗希にそっと話しかける。
「だからもう一回だけ教えてくれねぇか?"田中太郎"の事。勘とは言ってもそう感じるまでには何か過程があると思うんだよ。その部分を教えて欲しいんだ。馬鹿みたいな話でもいい。科学的、論理的じゃなくてもいいんだ。あんたの中にあるその根拠を示して欲しい」
クロは紗希に頭を下げた。
「…!」
紗希は驚くように目を開いた後、
「……嫌です!」
よく通る声で拒否した。
「さっきあれだけ私の考えを否定しておいてよくそんなことが言えますね!神経を疑います!」
紗希は目に涙を溜めながらそっぽを向く。
「…まぁそりゃそうだわな」
クロは人差し指で少し頭をかきながら、どうしたものかと悩む。
「…紗希ちゃんよぉ、確かにこいつらの言ったことに怒るのはわかるがここは一度落ちつかねぇか?ほら、カレーだってあるし。食わなきゃ冷めるぞ?それと…こんな言い方したかねぇがよ、さっきのことに対して恩を感じてるならここは折れてくれねぇか?」
アクルスが頼み込むように手を合わせ紗希を見る。紗希はピクッと体を震わせ、
「…本当にひどい言い方ですね。」
アクルスを少し睨んだ後、クロの方に向き直るのだった。
キャラの名前がややこしいですが、基本的にアクルスはナレーションではアクルス、セリフ内ではマコトになります。ヒカドラもナレーションではヒカドラでセリフ内ではヒカルになります。二つ名前がある理由は次の章で明かされるので今しばらくお付き合いください。