ラーメン
読んで戴けたら倖せです。
シンは、乱之助のバンドのベーシストである。
昼に、急に思い立って乱之助に借りていたナインインチネイルズを返しに乱之助のアパートに訪れ、不幸にも乱之助とアキのキスシーンを拝むことになる。
夕べ朝までやりまくっていた乱之助とアキは昼頃にやっと目を覚まし、服もきずにキッチンでアキが掛けてきたモーションに乱之助が応えている処だった。
シンは頭を抱え込んだ。
『真っ昼間からホモの生キスかよーぉ! 』
乱之助は玄関側に向いていたのでシンに気付いていたが無視してアキのキスに応えていた。
アキが呼吸を乱して本気モードで乱之助を求めてきたので、さすがに乱之助は言った。
「アキ、公開エッチ俺は構わないけどアキはヤバいんじゃない? 」
「え? 」
アキは何のことかわからず、ひたすら乱之助の顔を見詰めた。
「後ろ………………」
アキが振り返るとシンは笑顔で手を振った。
「ああああーーーーーっ!!
笑顔で!
笑顔で手、振ってるしーーーーぃっ!!」
アキは寝室に飛び込み、ベッドに飛び乗ると膝を抱えて落ち込んだ。
『あんなエロいとこ見られて、オレお婿に行けない
ぐすん……………………』
取り残された乱之助は顔色ひとつ変えずソファーに掛けてあったバスローブを引っ掛けた。
シンは言った。
「居候居るの忘れてた
前に借りていたナインインチ返そうと思って来ただけなんだけど」
「ちょっとは気を使ってよ
折角、いい処だったのに」
乱之助はタバコに火を点け、咥えタバコで冷蔵庫を開けて缶ビールをシンに放った。
シンは缶ビールをキャッチして言った。
「ペットとか言いながら結構マジじゃん
今度、ライヴに誘ったら? 」
乱之助はシンが言い終わらない内に振り返り怒鳴った。
「絶対ダメ!! 」
乱之助の剣幕にシンは引いた。
乱之助は目をひっつりあげ言った。
「ドレスアップした可愛い女の子がワンサと来るんだよ!
それでなくてもアイツ惚れっぽいのに!! 」
シンは思った。
『重症でいらっしゃる……………』
シンは話を逸らそうと室内を見回した。
テーブルにコンビニ弁当が置いてあるのに目を止めた。
夕べアキが食べ損ねた弁当である。
「ねえ、この放置プレイのコンビニ弁当貰っていい? 」
「いいんじゃない」
シンはコンビニ弁当を持ってさっさと帰って行った。
アキが服を着てリビングをドアの隙間から覗くと乱之助は咥えタバコでコーヒーを淹れていた。
「さっきの奴は? 」
「帰った」
アキは安心して出て来た。
「アイツだれーぇ? 」
乱之助はカップにコーヒーを注いでアキに渡した。
「仕事の同僚って処かな」
「同僚、勝手に入って来ちゃダメじゃん」
「別にいいじゃん
やってるとこでも俺平気だし、向こうも覚悟してるだろ」
「乱之助、オープン過ぎだって」
アキはコーヒーを飲みながらテーブルに目を留めた。
「ねえ、そこの弁当知らない? 」
「シンが持ってったんじゃない」
「なんで~ぇ! 」
アキは思い切り落胆して肩を落とした。
乱之助は溜め息をついて言った。
「この季節に一晩放置した弁当食べたら腹壊すだろ」
アキは素朴な疑問をぶつけた。
「アイツは壊さんのか? 」
乱之助はフッと笑って言った。
「アイツは大丈夫だろ
ヨーグルト状の牛乳飲んでも絶好調だったし」
アキは抗議した。
「今の見たよ
フッて笑ったよね
絶対、アンタが強制して飲ませたろ」
「そんな面倒なことしない
ちゃんとヨーグルトって言って食わせた」
アキは蒼くなって震え上がった。
アキの腹が盛大に鳴った。
「べんと~ぉ! 」
アキはテーブルにしがみついて泣いた。
見かねて乱之助は言った。
「ねえ、今からメシ食いに行こ
安くて美味しいイタリアンの店見つけたんだ」
「無理」
アキはソファーに飛び乗って胡座をかいた。
「オレ、住所不定無職
アルバイトで食いつないでいる貧乏人だよ」
「切実だな」
「悪かったな」
「俺が出すって」
アキはそっぽを向いた。
「ヤダ、オレにだってプライドある」
乱之助はアキの背中を見て優しく笑った。
ソファー越しにアキの顔を覗き込む。
「じゃあ、ラーメン」
「わっ、いきなり生活水準下げた
それはそれで傷付くう」
乱之助は呆れて言った。
「じゃあ、どうすりゃいいのさ」
またアキの腹が盛大に空腹を訴えた。
アキは俯いて呟く様に言った。
「行く」
ラーメン屋の前で乱之助が言った。
「知り合いの店で、バンドのメンバーもよく来るんだ」
「ふーん」
引き戸を開けて中に入ると、オールバックに口ひげを生やした店主らしい男が出迎えた。
店主は野太い声で言った。
「へい、らっしゃい」
『おっさん、しぶっ! 』
店主は乱之助を見ると態度を豹変させた。
「蘭ちゃーん、久し振りぃ
んもう、しばらく顔見せないからあ
心配するじゃなーい」
超ハイトーンで指を組み身体をくねくねさせて店主は言った。
『いかついオカマーッ!! 』
その破壊力はアキの意識を一瞬飛ばした。
「ママ、トイレ借りるよ」
「ど・う・ぞ❤」
硬直するアキを余所に乱之助はトイレに入って行った。
『ママ………なんだ………………………
この顔で………………………』
「処で、キミ…………………」
ママはカウンターから身を乗り出してアキに言った。
「新しい蘭ちゃんの恋人でしょ」
ママは組んだ手を乙女の様に頬につけ、身体を無駄にくねくねさせて話し始めた。
「良かったわーぁ
新しい恋を見付けてくれて
前の彼氏と別れてから三年もフリーだったの
初めての人だったから、忘れられなかったのね」
『前の彼氏…………………
三年……………………
初めての人…………………………』
ママはアキの反応を気にも留めず続けた。
「その彼氏とここの二階で暮らしてたんだけど、そいつ女に乗り換えてね
蘭ちゃんがギター弾きになったのはそいつの影響で、彼氏が出て行った後哀しいメロディーばかり弾いてて、可哀想だった…………」
アキは佇んだ。
『なんか……………………
ムカつく…………………………』
読んで戴き有り難うございます。
今、次に何を書こうかと悩んでます。
この間、書き損ねた暗ーい作品にしようか、それともシリーズ化してしまった月の恋人にしようか。
しばらくBLが続いていてノーマル書いてないので、と色々悩んでます。