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第四話 流星SOS(前編)

 その日、オーランド班は第9に宿泊していた。当直任務の真似事である。

「この警戒態勢の訓練、お泊り会みたいで楽しいですね」

「気を抜きすぎですよ」

「これぐらいでいいんじゃないか。気を張りすぎても、それはそれでもたないって」

「それは、まあ……」

 彼らは一応待機ということで部屋に詰めていたが、予想される指示はほぼ全て終えていた。本来の任務ではなく訓練なので何が起こるかわかるのだ。

 だからといって解散というわけにもいかない。待つことも訓練のうちなのである。

「おう? 最近ミチはフェネクに甘くなったなー」

「甘くなったというか、弱くなりましたよね。フェネクさんが来てからまだそんな経ってないのに、なにしたんですか?」

「俺? なにもしてないって」

「そうです。妙な言いがかりはよしてください。だいたい、そんな感情持つはずがありません」

 二人して否定しているが、ミチはフェネクに対して甘くなった部分がある。

 ミチのそれは、フェネクのことを考えることが多くなったせいもある。

 例えば『内』乱入や幽霊騒ぎの時の『勘』。ミチの恩師やゼイガンなど、ミチが認める人間が注目していることも大きい。

 しかし、それだけではなく、フェネクの語る理想が『不快ではない青臭さ』であるとミチが思い始めたからだ。

 フェネクは誠実だった。はじめにミチが予想したように、秩序を乱しかねない部分はある。しかし、それは周囲で補える。そして、フェネク自身も仲間を信用している。

 努力し、かつそれなりに結果を出す者にあけっぴろげに信用されれば好感も持とうものである。

「どうしてですか?」

「私はターミナスに入り、始祖虫から人々を守るという重要な使命がありますので」

「それはフェネクも同じだぜ?」

「使命に殉じる孤高の戦士。いつ命を落とすともわからない過酷な日々の中、ふと隣を見ると、自分を支えてくれる幼馴染の男がいる。否定しても否定しても自分の中に湧き上がる感情を消すことができず、やがて二人は……ああ、素敵です」

「本音は?」

「クソ喰らえです。命あっての物種、任務は遂行し、そして生き残る。そうサモリ教官から教わったじゃないですか。ミチさん、恋愛も普通に行えばいいんです。そうですよね、フェネクさん?」

「ん? ああ、そうだな」

 珍しくフェネクが照れたような表情を見せた。ミチはそれを見て、なぜか自分も恥ずかしくなった。

「そんな大それた話にしないの。私の人生観の話ですから」

「このイズイトにはゼイガン・エイオンが既にいて、さらにそこにミチが加わる。なんだか知らんが軍隊までいるんだぜ? 始祖虫なんて絶滅しちまうんじゃねえか。そんな戦力でいったい何から市民を守るんだ? 宇宙人からか?」

「始祖虫はイズイトだけの問題じゃないですよ、どこのレジデンスでも起こっている問題です。必要なら、私はどこへでも出向きます」

「そうだ、それで思い出した……みなさんは『敗北したレジデンス』って知ってますか?」

 話を遮るとうにフロランスが話しだした。

「敗北、ですか?」

「戦争とか?」

 ミチもオーランドも聞いたことがなさそうである。フェネクは少し考えこんでいるようだ。

「この宇宙のどこかに、始祖虫に支配されてしまったレジデンスがあるらしいんですよ。そこでは人間が始祖虫の奴隷にされ、始祖虫を養殖しては宇宙に放出してるというんです」

「そんな噂があるのか? かなり無理のある話だな」

「まさか怪談話じゃないでしょうね……」

「違いますよー。そりゃ噂にすぎませんけど、地球だと最近それが見つかったってなってるんですよー」

「地球はそういう無責任なこと言うんだよ」

「だいだい、始祖虫にそんな洗脳するような能力や、人間を支配できる知能なんてありませんよ」

「いや、待てよ、俺、それ聞いたことあるかもしれない。廃棄レジデンスにまつわる陰謀論からきた噂だったような……」

「どこで聞いたのです?」

「えーと……ああ、前のオスカータイプの試験の時だ。教官からだよ」

「サモリ教官からですか?」

「ああ、テストの後の見学中に色々聞かれてな、なんでも何か調べ物している時にそんな話にぶち当たったらしい」

「そう、ですか……」

 ミチは少しひっかかるものがあった。ターミナスでのゼイガンとの話である。前後は逆転しているが、やはりサモリはフェネクに注目している。

 フェネクの転校には裏がある。ミチはそう確信した。どの話がどう繋がるかは考えていない。細かくは違和感もある。しかし、全体像としてである。

――大げさか、それに……――

 ミチは自分の考えをそう評価した。なにより詮索したところで意味のあるものではない。

「それでですね、このイズイト、確認されたコース的には一番危険らしいんですよ」

「おいおい勘弁してくれよ」

「大型の始祖虫が来る日も近いなんて予想してる人もいるんです」

「あ、話のオチわかった。あれだろ? イズイトが第二の『敗北したレジデンス』になるっていうんだろ?」

「そうです! イズイトは狙われている!」

 フロランスが興奮して立ち上がったところ、ゼイガンが敷地内に入ってくるのが窓から見えた。

「あ、あれ? まだ何か予定ってありましたか?」

 フロランスの様子を見てみなも窓の外を見た。

「いや……」

 ゼイガンは外からミチ達のいる教室の方を見ている。おそらくはミチに来いと言っているのだろう。

「ターミナスから入電。校舎内にいる学生は指示があるまで待機せよ。オーランド班は訓練を終了し、解散せよ」

 スピーカーがけたたましく吠える。オーランド達は見合わせる。

「俺達を名指しかよ。それになんでターミナスが第9に口を出す?」

 そうこうしているうちに敷地内にぞろぞろと本職のターミナスの一群が入り込んできた。

 指揮車両、ネクチサイド、投光器……完全に任務での出動である。

 フェネクは妙な表情をしていた。心配するような顔をして辺りをせわしなく見回している。ミチがそれに気付く。ミチだけではなく、オーランドもフロランスもフェネクの様子に気付き、何かあるとわかった。

「フェネク、何かわかるんだな?」

「フェネクさん、教えてください」

「ターミナスじゃない」

 眉間に皺を寄せたフェネクが呟く。

「……とにかく何かは来てるみたいですね。ほら、外」

「なんだいありゃ、もの凄い装備だな」

「少なくともあれは『内』用ネクチサイドですね」

 部屋から外を見てみると、車両が校庭に入り込んでいるのがわかった。それもかなりの数である。

「おい、全員帰宅だ」

 サモリが部屋に入ってきた。

「教官、なにがあったんです?」

「さあ。とにかく指示があるまで全員自宅待機だ。外出も禁止ね」

「……『内』の装備ながら、当班ではあれが通常のターミナスではないという推定となりましたが、いかがですか?」

 オーランドがフェネクとミチの意見をまとめてサモリにぶつける。正誤は関係ない、揺さぶりである。

 オーランドがこのような態度をとるのは珍しい。しかし、サモリの性格を良く知るオーランドだかからこそこうした行動に出たのである。

 それを証拠に、サモリはオーランドの問いに沈黙で答えた。オーランドにはそれでサモリの考えがわかった。

「とにかく解散。さあ、帰った帰った」

 サモリはそう言いながら全員を部屋から追い出す。

「ああ、ミチ、ゼイガンが呼んでいたよ」

「私だけですか?」

「うん」

「会いにいってもいいので?」

「お前が指導員として動くなら、僕にはお前を止める権限はないからね」

 サモリがオーランドの目を見る。

「学生は外出禁止、でしたね? 学生として、は」

 確認するようにオーランドがサモリに聞く。サモリは首肯した。そして、わずかにフェネクに視線が向いたのをオーランドは見逃さなかった。

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