集合写真
パセは、首を傾けた。
「免疫?馬車の着く所?」
ルルカは首を振って、言葉を探しながら説明を続ける。
「病気にならないように、もしくは治すために働く力よ。全ての動物に備わってるわ。
ここへ来た時に調べた時よりも、それが落ちているの。あと、肝臓の数値や――とにかく、体が弱ってるし、疲れやすいし、疲れが取れないのね」
「ほわあ」
わかったらしい。
「原因として考えられるのは、メルベレにあってラクシーにない何かがパセには必要なもので、それが足りなくなったせい。もしくは反対に、メルベレになくてラクシーにあるものがパセに合わないせい。このどちらかじゃないかと思うのよ」
パセは困ったように唸った。
「あたしにはわからないし、どうしようもないですよねえ?」
ルルカも困ったように唸る。
「有害な物なら、取り除けばいい。でもそのその反対なら、調査すら不可能だわ。困った事に」
「あたしは、死ぬんですか」
「そうならないように、こちらも全力を尽くすから。約束する」
パセは、久しぶりに「心細い」と思った。
ドルメはルルカの前に座って、言葉を咀嚼した。
「ええっと、血の通っている所が塞がり易いという事であるか?」
「そうよ」
「塞がったらどうなるであるか?」
「マヒしたり、悪ければ死んでしまうのよ」
「何と」
ドルメは目を丸くした。
「そうならないように、血をサラサラにする薬を飲んで欲しいの」
「わかったである」
「一度に飲むんじゃなくて、毎日決まった分量をきっちり飲んでね」
「うむ。わかったである」
ドルメはしっかりと頷いてルルカのいる分析室を退室し、巾着袋から家族の絵を引っ張り出して語りかけた。
「お前達は無事であるか。吾輩も、しっかりと薬を飲むであるよ」
セレエは、平気そうにしながらも、内心でビクビクしていた。
「問題は見当たらないわね」
ルルカの軽い調子に、食い下がる。
「本当か?ラクシーの医療水準だと見付からないだけの何かがあったりしないか?」
「もしあっても、それだとわからないわね」
「ぐおおおお!そうだった!」
頭を抱えてのけぞるセレエを見物してから、
「まあ大丈夫でしょ。自覚症状も無いんでしょ?」
と訊く。
「前にも言ったが、体が時々痛い。出動や訓練の後」
「だからそれは筋肉痛。よっぽど動いてなかったのね。というわけで大丈夫よ」
セレエは疑いながら、立ち上がった。
そして廊下に出ると、
「デルザの検査なら安心できるのにな」
と呟いた。
ルルカは紗希のカルテを見た。
「健康優良児ねえ。見事だわ」
「えへへ」
「来た時は多少体脂肪が多めだったけど、今はそれも改善されているし」
「出動のおかげね!
あ、胸をもうちょっと大きくする方法ってあります?太らずに」
「さあ。結局は遺伝とかでしょ。ちょっと私にはわからないわ」
「そうですか」
紗希はがっかりして、廊下に出た。
「遺伝なら絶望的かも。うちの親類に、大きい人はいないわ……」
ルルカは篁文に向かって言った。
「問題なしね」
そして、身構える。
「そうですか。ありがとうございました」
篁文はそう言って軽く頭を下げ、立ち上がろうとし、ルルカは慌てて引き留めた。
「え。ちょっと!」
「はい?」
「あ、いえ、いいの?」
「何がです?」
「……」
「……」
「いえ、無いならいいのよ。でも皆、何かしら、その、色々と、ね」
篁文は何となく察した。ドルメとパセは説明が面倒そうだ。セレエは精度とかを突っ込んで何かいいそうだ。そして紗希は、身長とか体重とかを気にしているのではないか、と。
「苦労したみたいですね」
「まあねえ。ごめんなさい。このまま健康を維持してね」
「はい」
篁文は対策課に戻り、全員がどんよりとしているのに軽く目を見張ったのだった。
「ああ、篁文。おかえりなさい」
ヨウゼが苦笑する。
「はい。ただいま」
「はいはい皆さん!広報から皆さんに預かりものがありますよ」
ヨウゼは茶封筒を取り出し、皆がヨウゼの所に寄って行く。
「あ!この前の写真!」
出て来た写真に、紗希が明るい声を上げた。
「ううむ。本当にそっくりであるなあ」
「あたし本当に大丈夫?影とか無くなってない?」
各々言いながら、1枚ずつもらう。
「そうだ!皆、母国語で名前を書かないか?記念に」
セレエが言い出して、マジックで、写真の自分の下に変わった文字を書きつける。
「おお。それも面白いであるな!」
それで全員が、お互いの写真に名前を書いた。
「この大きな写真は、飾っておきましょうねえ」
ヨウゼはニコニコとしながら、額に入った大きな写真を壁に掛けた。
最初で最後の集合写真になるとは、誰も思わなかったのだった。
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