第一話 南の国の港でチンパンジーと出会う
ジャンという船乗りがいました。ジャンは子供の頃から船に乗ってました。なぜかというと、ジャンの父親も船乗りだったからです。ジャンは大人になる前から船乗りになるのだと決めていました。そして船に乗り、たくさんの国の港に行きました。
そんな航海の中で楽しかったことや驚いたこと等いろいろな経験をしました。そんなジャンが一番心に残っている南の島で起きたお話しです。
南方の港に来た船は、運んできた荷物を降ろしました。翌日の朝の出港まで自由時間が船員たちに与えられました。ここに着くまで半月の間、船の中で過ごしてきた船員たちにとっては束の間の休憩です。ジャンは荷物を降ろし終えると、仲間たちと今夜の宿を探しに行きました。宿が決まると荷物を置き出掛けました。港の近くの商店はたくさんあり大勢の人で賑わっています。ジャンは軽い食事をしようと一軒の店に入りました。店の入り口に檻に入ったチンパンジーがいます。食事をしながら「店の前にいるチンパンジーはどうしたんだい?」と店主に聞きました。この猿は昨日突然港に現れたと思うと、店の物を盗んで食べるので皆で捕まえて檻に入れたというのです。ジャンはチンパンジーが港町にいる事はないので首をかしげました。
一晩宿に泊まった船員たちが、船に戻ると点呼を終えて船は港を出発しました。次に行く先はもっと南の島です。四方を海に囲まれた小さな島に様々な物を届けます。海は穏やかで気持ちの良い航海です。すると突然船の厨房から怒声が聞こえました。見るとチンパンジーがあちらこちら跳びはねて、船員たちは大騒ぎで捕まえました。チンパンジーを海に投げ込むことも出来ず、そのまま南の島まで航海を続けました。ジャンは捕らえられたチンパンジーに、厨房で分けてもらった果物や野菜等をやりながら「お前は港町にいたチンパンジーかい?」と話しかけました。何日か過ぎるとチンパンジーはジャンになつき、手を出して甘える仕草も見せるようになっていました。
船は南の小さな島に到着しました。ジャンはチンパンジーの好きな食べ物を買おうと店の前にきました。「バナナとオレンジ、そうだなチンパンジーは何が好きかな」と見ていると店主が「チンパンジーだって?!」と驚いて言いました。「ああ、船の中に紛れ込んで入ってきたらしいが、チンパンジーがどうかしたのかい?」とジャンが聞くと、店の前に貼ってある大きなポスターを店主は指差して「王様の大切にしているチンパンジーが行方がわからなくなったのだ、もしかすると王様のチンパンジーかもしれない。王様に連絡してみるから、ここで待っていてくれ」と慌てて店の小僧を王様のもとへ向かわせました。