第7話
海岸線沿いの緩いカーブを滑る様に走り抜けながら、後方で戦う仲間の元に少しでも近づけるためにシルキーにスピードを落として走ってもらっているのだが、一向に視界に捉えることが出来なかった。どうやら此方との距離がだいぶ離れてしまっていた様である。早くしないと優秀な彼等が私の獲物を全部食べてしまうではないか、これは由々しき事態である。もういっそうの事停車して待つのはダメかしら?
はい!却下ね。解ってたわよ、ちょっと言ってみただけ・・・ちっ。
「ニーナ、結局後方の状況はどうなってるの?こっちらからじゃ全く見えないんだけど?」
『ちょっと待つっすよ・・・。見つけた!丁度カーブで見えなかったみたいっすね。もうじき見えてくると思うっすよ』
相棒が言った通り、待っているとすぐに戦闘しているであろう4台の車両は確認ができた。できたのだが・・・・
「ニーナ、あれちょっと遠すぎない?崖を挟んだ反対側じゃない。もういっそうの事Uターンして倒しに行ってもいいかしら?」
『勿論却下っす!どうやら前で戦っている姫っち達の方に行かせないようにスピードを落としてブロックして戦ってたみたいっすね。いやぁ、やっぱり結華さんのところは優秀な人が多いっすね』
「おかげで援護もできないんだけどね。流石にこの距離じゃアサルトだと無理よね。ねぇ、今回スナイパーライフル(SR)って持ってきてたっけ?」
『任せちゃってもいいと思うっすけど・・・・。はいはい、やるんすね。昨日使っていた対物ライフルでいいなら、私が整備して車に積んでおいたっすよ。姫っちが昨日リビングにそのまま置きっぱなしにしてたやつ。ちゃんと仕事が終わった時にすぐに手入れしないと、またおやっさんに怒られるっすよ』
「おぉ、道理でリビングに無いと思った。流石我が相棒、感謝感謝!」
『棒読みで言われても嬉しくないっす!それより本当に走ってる車の上から狙撃するんすか?』
「流石に動いてる車の上からじゃ私も狙ったところに当てるのは難しいわよ。ってな訳で、ニーナ。どこか狙撃できそうなポイント見つけて車を止めて頂戴」
『あはは、ですよねぇ、わかってましたよぉ。・・・・ちょちょいのちょいっと!シルキー今からポイントの情報を送るのでそこに急行して待機を頼むっす』
『了解しました。・・・データを受信いたしました。急行いたしますので、マスターは準備をお願いいたします』
「解ったわ。それじゃ、SRを組み立てながら待たせてもらうとするわね」
準備のために身体を引っ込めると、少しやつれたエリカが虚空を眺めながら座っていた。なんかうわ言の様に「弾が顔の正面にビシビシって・・・・」と呟いている。ほぉ、中々迫力のあるシーンを真近で体験できてたみたいね。10歳児にしてはませた経験ができたから、きっとこの話をすれば転校先の学校でも即人気者になれるんじゃないかしら?私だったら、きっと目を輝かせながら話に喰いつくと思うわよ。
さてSRだが、探してみるとアサルトライフル(AR)達の横にちゃんと設置されており、バレルを設置するだけですぐに使えるように整備もなされていた。さっきは適当に感謝を述べたが、やはりこういった丁寧な仕事ぶりにはほんと頭が下がる一方である。今度仕事の帰りに高い系のアイスでも買っていってやるとしよう。
相棒の出した地図によると、あと2分ほど進んだところに崖の反対側で狙撃ができる絶好の狙撃ポイントがあるみたいなので、もう暫くの辛抱である。おっと、そうだった!エリカに耳栓を渡しておかねば。SRの狙撃音はARよりも大きいので、鼓膜を痛めてしまったら可哀想だからね。
「エリカ。今からSRで狙撃をするから、これを耳にはめておきなさい。慣れていないと鼓膜を痛めやすいから」
「あ・・・ありがとう。随分変わった耳栓ね。金属製?」
「ハンドガンの予備弾よ。大きさが耳栓に丁度いいのよ」
「こんな危ない物を耳詰めるとか、あんた頭おかしいんじゃないの!!誰がこんな物つけるか!!!」
「そう?普段みんながこうやって使ってたから普通だと思っていたわ。それじゃ代わりにしっかり掌で耳を塞いでおきなさいね」
「あぁ、もう。何で私がこんなめに・・・・うぅ」
あらら、突き返されてしまった。最近の弾薬は結構しっかりした作りをしているから、早々暴発なんて起きないのだが説明しても聞き入れてはくれそうにないので、今はそっとしておこう。
こんなやり取りをしているうちに、どうやら目的に着いたらしく、シルキーが車を止めたので顔を出して狙撃体勢の準備をおこなう。本来なら車を降りて狙撃したいのだが、護衛中のためすぐに身動きが取れないのは致命的なので、このまま車の上から狙撃をすることにした。まぁ、身体を固定できれば反動で吹っ飛ぶ事も無いので、たぶん平気であろう。
ちなみに、先頭にいた2台の車は先行して他に敵がいないかを確認しに向ってくれている。ターゲットからここまでに特に迂回路などはなかったので、後は後方の警戒際していればまず平気なんだそうだ。
『姫っち、後1分ほどで射撃チャンスになると思うのでよろしくお願いするっすよ。対岸までの直線距離は約1500m、風は海から陸に向って弱めに吹いてる感じっすね。・・・風速でました、北北東1らしいっす』
「了解、右に1修正っと。後続の部隊に連絡は?」
『バッチリっす。丁度その周辺で速度を落として走ってくれるみたいっすよ』
どうやらお膳立ては済んでいるようなので、楽しいお仕事を開始させていただくとしますか。風速などのリアルタイムの情報を、相棒がその都度最新のものをデバイスに送ってきてくれるので、スコープを覗きながら必要に応じて修正を加えつつ、ターゲットの車が視界に入るのその瞬間を息を殺して暫し待つ。
それと、情報によると一般車両も丁度走っていないので誤射や巻き込んでしまう心配もなさそうだ。というか、先ほど近くを走っていた一般車両は殆ど路肩に放置され、ドライバーが逃げ惑う姿も確認できたのできていた。というか、あんな激しい銃撃戦の真っ只中を普通に走り抜けてドライブできる精神を持っている一般人の方が少ないであろう。もしいるとすれば、よっぽど鈍感か、命よりも大事な用事で急いでいる人、後はほんの一握りの馬鹿者だけだと思う。
さて、どうやらやっとお出ましのようだ。たった今、味方の軍用車両達が崖際のカーブから姿を現し、その後ろから2台のターゲットが楽しそうに弾を吐き出しながら後を追う姿が見て取れた。
「狙撃を開始する。まずは手前側のセダンタイプ」
予告とほぼ同時に射撃に必要な全ての情報を再確認し、問題なかったのでそのまま第1射目の狙撃を遂行した。雷鳴のような音を響かせ発射されたその弾丸は、途中少しだけ風に流されながらもほぼ真っ直ぐに進んでいき、偏差の狂いも全く感じさせずに見事に助手席の開いた窓から進入し、ドライバーの頭部に見事命中した。そして、どうやら助手席の彼にも当たっていたようなのだが・・・・、いやなんでもない、あの辺はモザイク案件という事で見なかったことにしよう。そもそも、何で私はまた対物ライフルで直接人を狙ってしまったのか・・・・
勿論ドライバーを失った車は制御を失い、縁石に衝突した衝撃で横倒しになり何度も転がる羽目になるのだが、後ろで窓から身を乗り出していた2人は車外に放り出され、鑢の様なアスファルトの上に何度も身体をこすり付けられボロ雑巾の様になって横たわっていたので、生きていたとしても医者が嫌がるほどの損傷を負っているにちがいない。まぁ、惨状からして殆ど絶望的だけどね。
第2射目は、今の映像があまりに悲惨だったので、趣向を変えて対物ライフルらしく車のエンジンを狙って狙撃をおこなうことにした。どうやらもう1台は仲間が運転を誤って事故を起こしたと勘違いしてくれたようで、そのままのスピードで此方の車両に喰らいついていたので、今度はちゃんとエンジンルームを狙って引き金を引き絞った。今度の車両は防弾仕様の軍用車だったの、やっと対物ライフルらしい仕事をさせてやれたと思ったのだが、運悪く先ほど以上の強い風が急に吹き込み、弾の軌道を変えてしまったおかげで、まるで初めから狙ったかのように運転席へ・・・・・
本当にごめんなさい。今のは流石に私が悪かったわ。
『2連続で二枚抜きっすか・・・・うっぷぅ。私モロに見ちゃったので、今日はゼリーと水だけにしとくっす・・・』
「・・・風がね。吹いたのよ・・・・」
勿論、2台目も他の車と似たような運命を辿ることになったことは言うまでもなく。どうやら、これで敵の最初の襲撃は終了したようだった。
やめて!私を無線で褒めるの、ほんとにやめて!
最後のは事故!お願いだからそんなに今のを褒めちぎらないで!!
SIDE: Unknown
時を同じくして、シャル達をギリギリ見渡せる高台に2人の男性が今起こった一部始終を目撃していた。
「おいおい、今回は小手調べのつもりの部隊派遣だったに・・・・。マジか、全部アイツに喰い殺されたぞ」
「マジ半端無いお嬢ちゃんでしたね。見ました?あの狙撃。俺でもあんな芸当できませんよ」
「お前でも無理なのか?距離的にはたいした事なかっただろ?」
「約時速80kmで走っている的にむかって、ピンポイントで連続二枚抜きですよ。それと、発砲音と弾速から考えて対物ライフルを使っての遠距離狙撃。しかも2射目は途中で軌道がずれて見えたので、きっと風に煽られたんだと思いますけどね、それでも的確に当てていましたよ、あのお嬢ちゃん。射撃の神様に愛されてるとしか思えませんね」
「装甲車をも貫通できる武器を所持しているようだし、車だけでの襲撃は難しそうか。俺だったらヘリを用意するか、もしくは次はどこかで白兵戦でも仕掛けてみるが・・・。どちらにせよ、今日は撤退だろうな」
「それが妥当でしょうね。そういえば、もう一つの道に行った部隊はどうなったんですか?」
「あっちもたいした被害も与えられずにやられたよ。襲撃するはずが、先に見つかって奇襲を仕掛けられて、手厚くボコられたみたいだな」
「あはは、馬鹿みたいっすね。それじゃ、きっと帰ったら大荒れでしょう」
「戦略担当の俺の進言を無視したあんな奴等の事なんぞ知ったことか!そもそも、何で現場指揮官だった俺が任を解かれて、お偉いさんのバカ息子の我が侭に付き合わされなきゃならんねぇんだよ。部隊を分けて逐次投入とかアホだろアイツ」
「まぁまぁ。そういう俺達も現在進行形でサボり中なんで、あんまり文句言えませんって」
「いいんだよ!なんてったって、俺達は命令されて現在“偵察任務中”だからな。そもそもアイツがワザとこんな重要性の欠片も無いポジションに派遣したんだから、黙って見てればいいんだよ。それとも、お前がそんなに仕事がしたいなら、ここから狙撃でもしてみるか?SRは持ってきてるんだろ?」
「距離的にも無理な上に、風の吹き込む海岸付近で防弾仕様の車内にいるターゲットを山の上から狙撃しろと?弾の無駄ですよ、アホらしい」
「結局、何の戦果も上げずに部隊全滅でゲームセットか。俺が指揮官だったら死んで詫びたいくらいだな。まっ、冗談はこれくらいにして。お嬢ちゃん達も行っちまったことだし、俺達も帰るか」
「そうですね。あぁ、眠かった」
「ちゃんと偵察ドローンも回収しとけよ。あのラジコン、無駄に高いんだから」
「へいへい」
そう言い残し、2人の男性達は最後まで誰にも気づかれることなく高台から姿を消したのであった。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
誠に申し訳ございませんが、この小説はこの話で一旦打ち切りにさせていただこうかと思います。
理由と致しましては、作者の現代戦での描写の勉強不足のため、想定以上にお話にボリュームを持たせることが困難であることです。一応続きも考えているので書けなくは無いのですが、「面白みの無い、ただ書いただけの小説」になってしまう可能性が高いので、もう少し現代戦の知識や銃の知識、キャラの躍動感が出せるようになってから再開させていただこうかと思います。
引き続き勉強を重ねて、皆様に楽しんでいただけるような話作りに励んでいきますので、暫くの間お待ちいただけすようご協力お願いいたします。