第4話
GW期間内6本目、本日もよろしくお願いいたします。
「それじゃ、ちゃっちゃと引継ぎを終わらせて出発するとしますか。結姉もご苦労様、なんか大変だったみたいね」
「姫、よろしくお願いします。どうも私は子供が苦手でして・・・」
「知ってるわ。それじゃ、この後の私達のサポートよろしくね」
「はい!そちらはお任せください!!」
彼女は、結華・F・ガーランド。東方の島国の出身で、幼い頃にとある国での戦争に巻き込まれて孤児になってしまった経験を持つ女性だ。その後、我が社に勤める上級軍事顧問のヴォルター・ガーランド氏の養子に迎えられ、本当の娘の様に大切に育てられていた。ちなみに名前のFは元の名字から取ったものらしく、新しい父親になった彼が「元の家族の事も忘れないように」と彼女の名前に残してくれたものらしい。確か旧姓は「藤宮 結華」と言う名前だったと結姉から聞いたことがある。
見ず知らずの自分を本当の娘の様に可愛がってくれた養父のことをとても尊敬している彼女は、彼等夫婦の『健やかな人生をおくって欲しい』という思いとは裏腹に、彼の様な立派な戦士になるべく義務教育を卒業後に即我が社に入社してメキメキとその頭角を現し、現在は誰もが認める素晴らしい仕官へと成長していった。
ちなみに、随分前にヴォルターさんがパパと一緒に家でお酒を飲んでいた時に『俺は娘の育て方を間違えたのだろうか?』と嘆いていたが、あれだけ立派な士官を育てた人が育て方を間違えてるとは思えなかったんだけど、あれはどういう意味だったのかしら?
また、元々の真面目な性格と軍人の家庭に養子に入ったおかげで、上司や年長者に無礼を働く者が兎に角許せず。特に、我がままに振舞う子供などは相性最悪の相手になるらしい。
それと、なぜか昔から私のことを本当の姫であるかの様に敬っている節があり、私にとってはやたらと世話を焼いてくれる実にいい姉貴分なのだ。
そして、そんな結姉に真正面から喧嘩を吹っかけ、今は私の前で大人しく俯いているこの子が今回の護衛対象のエリカ・マーガレット。あ、正式に保護者が決まったのでエリカ・ラグフォードが今現在の彼女の正式な名前になるのかな?今年で10歳になったばかりの女の子だ。
資料によると、両親が亡くなったのは2週間前。3人で買い物に出かけていた最中に交通事故に巻き込まれ両親が揃ってお亡くなりに。多額の慰謝料と保険金が彼女には支払われることになったのだが、肝心の保護者が見つからずにお役所さんも困り果ててしまい。そこで、なんとか血縁者を探すために遺伝子の簡易検査をしてみたところ、なんと大企業の会長さんの孫娘であることが発覚して大慌てしいたらしい。
取り敢えず、間違いであっては困るからと今いるこの施設でもう一度念入り検査をおこない、昨日その結果が間違いなかったことが判明したので、私達に正式な護衛件、護送のお仕事が舞い込んできたっていうのがここまでの流れらしい。
ちなみに、結姉達のチームは簡易検査の結果が判明した数日後には本社から派遣されて来ていたので、今日ですでに一週間は経過しているそうだ。結姉、子供嫌いなのに相当我慢していたんだろうな・・・。上司の命令に忠実な結姉だが、そりゃ直談判もしたくなるわけだ。
流石に、こんな開けた場所で作戦会議をする訳にはいかないので、一旦施設に入り借りている会議室にてブリーフィングをおこなうことにした。
「そういえば、エリカちゃん。あなたってコンタクトつけたことある?」
「えっ!別に眼は悪くないからつけたことないけど・・・・」
「っそ。じゃあ、私がつけてあげるからこっちを向いてジッとしててね」
「っ!!」
「はい、終了。どう、違和感はないかしら?護衛任務中はそれをつけててもらうから、擦って取っちゃダメよ?それと、このイヤリングもつけたままにしててね。」
「・・・わかったわ。あっ、ネコさん!」
勿論、医療施設なので敷地内に突然ネコが現れたわけではなく、今しがたつけたコンタクト型のデバイスにニーナが映像を流しただけだ。まったく何時の間に作ったのかしら、そこにはデフォルメされた可愛らしいネコのシュシュ隊員が兵隊の格好をして現れた。
『どうもっす!私は今回皆さんのサポートをします、にゃんこのニーナです!結華さん達もおひさっす♪』
「今回のアバターはシュシュなのね」
『そうっすよ、姫っちが寂しがるかと思いまして。可愛いにゃんこのシュシュ隊員を用意したっす』
「ニーナ久しぶりだな、相変わらず元気そうで何よりだ。今回は私達までサポートしてくれるらしいから期待しているぞ」
『お任せあれ!エリカちゃんもよろしくっすよ!』
「よ・・・よろしく・・・」
『それじゃ、ブリーフィングを始めさせてもらうっすね。今映像を出すので、皆様目の前の机にご注目くださいっす』
ニーナがそう言うと、なんの変哲もない大きな会議室の机の上に、街のミニチュアの様な映像が現れた。
『現在私達がいるのは、ここ“シャロン”の北に位置する“シャロン遺伝子学研究所”という場所になるっす。それで、私達が目指すのはここからずっと北東方向に位置するこの国の首都“リーシャン”になります。ここの“ラグフォード産業株式会社”の本社ビルにいる会長さんの元まで、エリカちゃんを無事護送すれば任務完了っすね。ここからだと大体車で3日ほど、今日が月曜日なので順調にいけば会議のある金曜の昼までには余裕で到着できる計算になるっすよ。おっと、フラグを立ててしまったぜ!』
「まっ、何も妨害が無いって事はないんでしょ?」
『そうっすね、相手さんもなんか気合が入っているらしく、結構大手のとこに依頼したみたいっすよ。これが敵対勢力のザックリとした資料になるっすね』
「へぇ、これはまた・・・。レオ兄が飛行機を薦めなかったわけだ」
「現役の戦争屋じゃないか。どうして奴等がこんな殺し屋みたいな仕事を・・・」
『どうも相手側の報酬がかなり良かったみたいっすよ。対戦相手はPMCデザートウルフ。好戦的なならず者の集まりのところっすね。どうやら、アチラさん中東で暴れすぎちゃってお金がないらしくて、大口のスポンサーを探していたところみたいなんすよ。それで、後がない反会長派の皆様が本気で金をかき集めて雇ったみたいっすね。いやぁ、人間形振り構っていられなくなるとおっかないっす。自分はネコでよかったにゃん♪』
「はいはい。それで、あなたのプランは?」
『そんなわけで、アチラさんが戦闘ヘリに対空ミサイルなんかも持っているので、安全のため飛行機での旅は断念して陸路を使って首都を目指します。同じ理由で逃げ場がなくなる船と列車もNGっすね。それで、なるべく襲撃予測ポイントは避けて通りたいんっすけど、どのルートを使っても3箇所くらいは危ないところを通ることになると思うので、皆さんの腕に期待しているっすよ』
「了解したわ」
『それで結姉さん達のチームは何組か先行して襲撃予測ポイントに先回りしてもらって、かち合ったらそのまま敵の排除を。無理そうだったら姫っちがポイントを通過するまで相手を引きつけておいてほしいっす』
「了解だ、後で詳しい座標を寄越してくれ。隊の選出は私の方でやっておこう」
『それは助かるっす。ついでに戦術データもいくつか送っておいたので確認をお願いするっすよ。姫っちはいつも通り私の方で随時補足するっすね』
「他に注意することあるかしら?」
『あぁ・・・姫っちはさっきみたいに護衛をぶっちぎらない様にお願いするっす。さっきは追っかけるの大変だったんすから』
「えぇ・・・」
『えぇじゃないっす。お願いするっすよ!』
「了解したわ。なるべく安全運転を心がけるわ・・・」
流石相棒、私の考えを先読みして潰してくるとは・・・。とほほ、お巡りさんとの追っかけっこは私の楽しみの一つなのに。まぁ、でも今回は他にも面白そうな事が起きそうだし、そっちの方で我慢するとしますか。
「そういえば、さっきからずっと静かだけど。エリカちゃんも何か聞いておきたいことってあるかしら?」
「・・・・なんで」
「うん?」
「なんでそんなに落ち着いていられるの!?相手は本物の殺し屋なんでしょ!」
『殺し屋じゃなくて戦争屋っすね。国の軍隊の代わりに戦闘を受け負って戦う“戦争のプロ”ってやつっすよ』
「どっちにしても同じことでしょ!なんでそんなに平然としてるのよ、恐くないの?」
「いや?寧ろ楽しみなくらいかしら」
「はぁ??」
『うちに、この程度の相手でひよっちゃう人なんていないっすよ。寧ろ・・・』
「同業者とはいえ、敵になった以上狩るのはこちら側になるだろうからな。自分達がいったい何に喧嘩を売ったのかをその身を持って後悔させてやる・・・」
『こんな人ばっかっすからね。それに今回、チームに姫っちがいるっすから』
「なっ・・・!!」
「私の分もちゃんと残しておいてよ?お預けは嫌いなんだからね」
「勿論ですとも。姫には期待していますよ!」
『ね?エリカちゃんは安心して運ばれるだけで大丈夫っすよ。みんなやる気(殺意)マンマンっすからね』
「普通じゃない、こいつ等もやっぱり普通じゃない・・・」とぼそぼそ呟きながら、エリカちゃんはまた俯いてしまった。今のどこにおかしな所があったかしら?
さて、それじゃブリーフィングも終わったことだし、楽しいお仕事(狩り)の幕開けよ!!
次回は明日、5月3日水曜日を予定しております。
同時連載中【アルカディア ~転生職人奮闘記~】
ゲーム“ハイジン”の職人系主人公が異世界に転生するどうなるのか!
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