Epilogue
「司月、そんなに引っ張るなって」
安定した天気が続いた、この一週間。
相変わらずうるさい道路を横目に見ながら、暖かな日差しを受ける。
「はーやーくー。ひてんが、かぜひいちゃうもん」
不機嫌そうな子供の声につられて。顔を右手に向けた。
「しーちゃん、ご機嫌ねぇ」
「君はどこをどう見て、これをご機嫌って言うの?」
白壁の病院から出てきた彼らは、先週、同じようにこの歩道で見かけた親子で。父親らしき男が、真っ白な布にくるまれた塊を大事そうに持っていた。そのすぐ横を歩くのは、通常の体に戻った女性。どうやら、無事に子供が生まれたらしい。その下にいるのはまたしても跳ねるようにして歩く子供。今日はその小さな手で父親の上着の裾を引っ張っていて。
「だって、緋天ちゃんがいるのが嬉しいんでしょ?」
「え? じゃあ、なんでこんな膨れっ面してるの?」
「ふふ。裕一さんが抱っこしてる緋天ちゃんを早く車の中に連れていかないと、自分が見れないからよ」
「ああ、なるほど」
笑いあう夫婦と、その長男。
彼らを見て、ある考えが浮かぶ。
もしかしたら、自分の息子も。兄弟ができれば、今の子供のようにそちらに夢中になって。親にべたべたしなくなるかもしれない。ついでに母親もそんなに手をかけないかもしれない。
何だかとても良いアイデアを貰ったような気がして。
心の中で彼らに感謝を捧げる。
早速実践しよう、と。
家へ帰る為に足を速めた。