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気象予報士 【番外編】  作者: 235
はじめましてのごあいさつ
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はじめましてのごあいさつ8

「だからさ、地味なやつは地味なグループで集まってろ、ってこと」

「うちらとキョーコが集まったらイケてるじゃん? でもそこにあんたみたいなの混じったら変じゃん?」

「明らかにおかしいよね、わかるよね?」


 ちょっと話があるんだけどこっち来て、と見覚えのない女子三人に声をかけられた。同じクラスだっただろうか、とその着崩したジャージの上下をまとった彼女たちの顔に目をやるが、やはりはっきりと思い出せない。そんなことをぼんやりと思っている間に、キャンプファイヤーをやっていた広場から離れ、いつの間にか炊事場へと辿り着いていた。

 そして始まった話は、耳に入っては来るのだが、何となく頭の内側にとどまってくれない。


「ねえ、聞いてる? なんで固まってるわけ?」

 最初は言い聞かせようというものに近かった声音に、苛立ちが混ざっていた。

「えっと、」

「ぼーっとしすぎじゃね? なんでそんなに暗いんだよ」

「キョーコの迷惑になってるってわかんないの?」

 彼女たちの言葉の意味を聞き返そうとしたところで、声を重ねられてしまった。そして、更に続いた言葉に、ようやくその本意を理解した。


「・・・言いたいことは分かるよ」

 最後にかけられた言葉は真実だ。

 最近、自分のことを気にかけてくれる京子に、迷惑をかけている、というのは客観的な事実であると思う。また、今の自分が暗いと評されるのも事実だと思う。

 だから、そう声に出した。

 ただ、その前に言われたことについては。


「いやぁ、わかんないね!」

「うん、悪いけど分かんないわー」


 底抜けに明るい声が横から飛んできた。

 次いで、あははと笑い交じりに続く別の声も。


「っ、キョーコ!」

「だいたいさー、イケてるって何? 学校指定ジャージをわざと大きめのやつにして、ズボンの裾に切り込み入れることがイケてるってこと?オシャレな私にはちょっと許容できないわぁ」

「走りにくいしねぇ」

「そうそう、それに体育の原田先生に間違いなく怒られるしねー」


 三人の女子の中心にいた、茶色の髪の先をくるりと巻いていた彼女の表情に、焦りが浮かんだのが見えた。左右の二人は、完全に狼狽えた顔をしている中、明るい声がぽんぽんと飛んでくる。


 つやつやした黒髪をなびかせて、右側から京子が顔をのぞかせた。

 その後ろには、副委員長。

 二人とも、その顔に満面の笑みを浮かべていて。


「明らかに弱い子を連れだして囲んでさ、悪口浴びせることがイケてるの? 私はそういうのイケてるって言わないと思うよ。むしろダサいわ!」

 すっとその笑みを消した京子の口元から、背筋がヒヤリとするような厳しい声が発せられていて。

「入学早々、処分受けたい? チクられたくなかったら、もう私に付きまとうのやめてよ」

「ちょ、違うんだってば! こんな子いたらキョーコの評判落ちると思って!!」


 怒らせた、と思ったのは。

 京子の双眸に、光が宿ったように感じたからだった。

 薄暗いのに、彼女の両目が生命力に溢れているように感じた。その源が、怒りであったとしても。


「・・・私の評判って? 可愛いとか、可愛いけどノリがいいとか、彼女にしたいとか、そういうのでしょ」

 勢いの良かった女子は、愛想笑いのようなものをその顔に浮かべていたけれど、完全に京子の怒気に押されている。

「そういうのってさ。嬉しくはあるけど、外野の声なんだよね。私は仲の良い子たちと楽しい高校生活を送りたいわけ。外野の声なんかいちいち気にしてたら、楽しめないんだよ」


 何故だろうか。

 どうしてか、京子の声に、疲れとは違う、しょんぼりとしたような気持ちが混じっている気がした。


「だいたいね、人を苛めるようなあんたらとは、仲良くなんかできない」


 しん、と静まり返った炊事場に、殊更冷たい彼女の声が響く。

「さっさと帰りなよ。もう話しかけないで」

「っ、なんなの、マジでムカつく」


 先ほども聞いた、苛立ちを含んだ声を出して。中心にいた彼女が踵を返した。それを追いかけるように左右の二人も続いて。



「・・・ふぅ、びっくりしたねぇ。緋天ちゃん、大丈夫?」

 のんびりした副委員長の声が、そろりと暗闇に溶けだした。

「ムカついたのはこっちだっての。一昨日きやがれー」

「京ちゃん、それなんか違うよ」

「え? そうかな。まいっか。とりあえず先生にチクっとくか」

「そうだねぇ、今後のためにもちょっと言っておいた方がいいかもね」


 現れた時と同じように、二人が楽しそうに言葉を交わすものだから。

 たった今起きたことが、まるで夢だったように思えてしまう。


「おーい緋天、大丈夫?」

 目の前で、京子の手が揺れて。

「う、ん。だいじょうぶ」

「怖かった? ごめん、一人にして」

「っ、ううん、大丈夫だよ」


 迷惑をかけているのは、本当のことなのに。

 どうして彼女が謝るのだろう。


「ほんとに平気。ごめんね」

「帰ろっか。みんなでお菓子食べようよ」

「いいね! そろそろキャンプファイヤーも終わるし、部屋に戻ってお菓子パーティしよう」


 目の前に、うっすらと膜が張りそうになって。

 叔母のこと以外でこうなるのは、随分久しぶりだと、そう思った。


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