はじめましてのごあいさつ8
「だからさ、地味なやつは地味なグループで集まってろ、ってこと」
「うちらとキョーコが集まったらイケてるじゃん? でもそこにあんたみたいなの混じったら変じゃん?」
「明らかにおかしいよね、わかるよね?」
ちょっと話があるんだけどこっち来て、と見覚えのない女子三人に声をかけられた。同じクラスだっただろうか、とその着崩したジャージの上下をまとった彼女たちの顔に目をやるが、やはりはっきりと思い出せない。そんなことをぼんやりと思っている間に、キャンプファイヤーをやっていた広場から離れ、いつの間にか炊事場へと辿り着いていた。
そして始まった話は、耳に入っては来るのだが、何となく頭の内側にとどまってくれない。
「ねえ、聞いてる? なんで固まってるわけ?」
最初は言い聞かせようというものに近かった声音に、苛立ちが混ざっていた。
「えっと、」
「ぼーっとしすぎじゃね? なんでそんなに暗いんだよ」
「キョーコの迷惑になってるってわかんないの?」
彼女たちの言葉の意味を聞き返そうとしたところで、声を重ねられてしまった。そして、更に続いた言葉に、ようやくその本意を理解した。
「・・・言いたいことは分かるよ」
最後にかけられた言葉は真実だ。
最近、自分のことを気にかけてくれる京子に、迷惑をかけている、というのは客観的な事実であると思う。また、今の自分が暗いと評されるのも事実だと思う。
だから、そう声に出した。
ただ、その前に言われたことについては。
「いやぁ、わかんないね!」
「うん、悪いけど分かんないわー」
底抜けに明るい声が横から飛んできた。
次いで、あははと笑い交じりに続く別の声も。
「っ、キョーコ!」
「だいたいさー、イケてるって何? 学校指定ジャージをわざと大きめのやつにして、ズボンの裾に切り込み入れることがイケてるってこと?オシャレな私にはちょっと許容できないわぁ」
「走りにくいしねぇ」
「そうそう、それに体育の原田先生に間違いなく怒られるしねー」
三人の女子の中心にいた、茶色の髪の先をくるりと巻いていた彼女の表情に、焦りが浮かんだのが見えた。左右の二人は、完全に狼狽えた顔をしている中、明るい声がぽんぽんと飛んでくる。
つやつやした黒髪をなびかせて、右側から京子が顔をのぞかせた。
その後ろには、副委員長。
二人とも、その顔に満面の笑みを浮かべていて。
「明らかに弱い子を連れだして囲んでさ、悪口浴びせることがイケてるの? 私はそういうのイケてるって言わないと思うよ。むしろダサいわ!」
すっとその笑みを消した京子の口元から、背筋がヒヤリとするような厳しい声が発せられていて。
「入学早々、処分受けたい? チクられたくなかったら、もう私に付きまとうのやめてよ」
「ちょ、違うんだってば! こんな子いたらキョーコの評判落ちると思って!!」
怒らせた、と思ったのは。
京子の双眸に、光が宿ったように感じたからだった。
薄暗いのに、彼女の両目が生命力に溢れているように感じた。その源が、怒りであったとしても。
「・・・私の評判って? 可愛いとか、可愛いけどノリがいいとか、彼女にしたいとか、そういうのでしょ」
勢いの良かった女子は、愛想笑いのようなものをその顔に浮かべていたけれど、完全に京子の怒気に押されている。
「そういうのってさ。嬉しくはあるけど、外野の声なんだよね。私は仲の良い子たちと楽しい高校生活を送りたいわけ。外野の声なんかいちいち気にしてたら、楽しめないんだよ」
何故だろうか。
どうしてか、京子の声に、疲れとは違う、しょんぼりとしたような気持ちが混じっている気がした。
「だいたいね、人を苛めるようなあんたらとは、仲良くなんかできない」
しん、と静まり返った炊事場に、殊更冷たい彼女の声が響く。
「さっさと帰りなよ。もう話しかけないで」
「っ、なんなの、マジでムカつく」
先ほども聞いた、苛立ちを含んだ声を出して。中心にいた彼女が踵を返した。それを追いかけるように左右の二人も続いて。
「・・・ふぅ、びっくりしたねぇ。緋天ちゃん、大丈夫?」
のんびりした副委員長の声が、そろりと暗闇に溶けだした。
「ムカついたのはこっちだっての。一昨日きやがれー」
「京ちゃん、それなんか違うよ」
「え? そうかな。まいっか。とりあえず先生にチクっとくか」
「そうだねぇ、今後のためにもちょっと言っておいた方がいいかもね」
現れた時と同じように、二人が楽しそうに言葉を交わすものだから。
たった今起きたことが、まるで夢だったように思えてしまう。
「おーい緋天、大丈夫?」
目の前で、京子の手が揺れて。
「う、ん。だいじょうぶ」
「怖かった? ごめん、一人にして」
「っ、ううん、大丈夫だよ」
迷惑をかけているのは、本当のことなのに。
どうして彼女が謝るのだろう。
「ほんとに平気。ごめんね」
「帰ろっか。みんなでお菓子食べようよ」
「いいね! そろそろキャンプファイヤーも終わるし、部屋に戻ってお菓子パーティしよう」
目の前に、うっすらと膜が張りそうになって。
叔母のこと以外でこうなるのは、随分久しぶりだと、そう思った。




