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気象予報士 【番外編】  作者: 235
いろんな隙間話
24/41

蒼羽のつぶやき:空に届くのはどちらの想い?

気象予報士第2部と2.5部の間くらい。

梅雨に忙殺される蒼羽の身もだえ。

「緋天」

 ガラス扉の外の曇り空を見上げて溜息を吐く彼女の背中に声をかけた。

 振り返った緋天が困ったような顔で小さく笑って、それからようやくソファへと戻ってくる。腕の中に彼女を入れて、空調の風が彼女には強いのか、冷たさを残す両手を右手で包み込んだ。


「・・・晴れない、よね?」

「ん? ああ・・・そうだな」


 梅雨も明けず、曇りと雨の繰り返し、おまけに不快な湿気の多いここ数日。忙しい時期である事は承知している。あちこちと移動することが多く、緋天と顔を合わせられるのなら、その日はついている、というような日が続いていた。

 小康状態のような曇りの今日、ベースに戻れば緋天がいた。高揚する心身を押さえつつ、ひとしきりその唇を貪った後、赤く染まった頬で膝の上から降りた彼女が、その勢いのまま外の天気を見る為に立ち上がったのだ。

 確実に晴れではないから、自分と一緒にいられない。そう思って溜息をこぼしてくれているのだとしたら、嬉しい事この上ないのに。そうだとは言い切れないものを、彼女の様子が物語っていた。事実、自分から離れて外を見ようという余裕があるのだから。


「どうした?」

 どことなく上の空の緋天に問う。とにかく彼女の頭の中から、自分以外の余計なものを排除しなければ、どうにも集中してくれそうにない。苦笑しながら買い物へと出かけたベリルの時間すら闇に葬られるのだろう。

「・・・あのね?」

 目の端に唇を寄せたところで、ようやく彼女が自分を見上げる。唐突なそれに、思わず自分を呪った。この距離は、今夜彼女を手元に置けない自分には、近すぎるものだったから。こんな風に至近距離で見上げられて、我慢など到底できない。


「今日、七夕だから」


 それだけ口にして、残念そうにする彼女の顔を見て。ああ、と一拍置いて理解する。頭の片隅から、この国の一種のイベントとでも位置付けるべき風習と、その神話を思い出した。


「緋天は何か願いがあるのか?」

「あ、・・・うん」


 驚いた顔を一瞬見せてから頬を染めて頷いた緋天に、何もかもがどうでも良いような気分にまで陥った。俯く彼女の頬にかかる髪を掬い上げる。赤くなったそこへ口付けて、それは何だと耳にもキスを落として先を促して。

 

 緋天の願いは自分が全て叶えてやりたい。

 

 それを言葉にすれば、遠慮が走って何も言わなくなるだろうと見越しての、シンプルな問い。小さく体を竦ませる緋天を更に腕の中に抱き込んで、口を開くまで半分拷問を受けているような感覚で待った。


「笑わない・・・?」


 それが緋天の望みなら、例え世間一般が言う下らない事でも全力で叶える。笑う訳がないと首を振って、じっと待つ事でようやく安堵したのか。小さな口が動いた。


「・・・きれいに晴れますように」


 殊更恥ずかしそうにそう言って、顔を隠すように肩先に押し当てた彼女。何故そうまでするのかと訝りつつ、理由を聞いた。


 聞かなければ良かった。


 そう思った時には後の祭。

 ぶつける相手のいなくなったベースで、ただただ熱を持て余した。


 ――― だって、晴れたら蒼羽さんと一緒にいられるもん。


 小さく。本当に小さく響いた声は、抑え続けた情欲を一気に解放した。

 それなのに、時計をちらりと見上げた彼女はあっさりと腕の中を抜け出した。


 家の短冊に書いてきたから早く叶えて欲しい、と完全に神を当てにした言葉を残して。

 今の緋天の願いは、確かに自分が叶えられないものではあるけれど。

 神と言えど彼女が他人を頼った歯痒さと、その望みが自分へと直結している事実が、複雑な心境。


 曇り空の向こうを睨む。

 緋天の願いが届いているなら、早く叶えろと念を送った。

 それが自分の私欲の入ったもので膨れ上がっているのは、承知している。


 厚く重なり合っていた雲が、少しだけ。

 薄くなったような気がした。

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