蒼羽のつぶやき:残り香
気象予報士第3部、本部に行った後の蒼羽。
シャワーを浴びようと、シャツを脱いで。
洗面台に備えられている無駄に大きな鏡、それに自分が映りこんだ。別に何てことはない、いつもならば、ただ視界に入るだけの見慣れた姿。まじまじと鏡を見る癖も目的もないのに、ぴたりと止まってじっと一点を見つめる自分がいた。
淡く色付いた、左鎖骨の少し下。
小さな薄赤い、その痕は。
緋天がつけたいと言って、肌を吸い上げた行為の。
その、証。
彼女の力が弱いせいで、三日が経過しただけなのに、かなり色が薄まってしまっていて。それを確認して、体の奥から鈍い痛みが湧き上がる。自分が緋天につけた痕は、まだ色濃く残っているだろうけれど。どちらも消えて欲しくないのに、結局は離れていなければいけない時間の、半分も経たない内に失われてしまうのだ。
そして。
まだ三日しか離れていない、それなのに焦りだけは先へと進む。
三日間緋天に触れていない、それが全身に澱みを生んでいく。
夢想する時間が増えて、本物ではないと我に返った瞬間の虚無感を。埋められないまま、ただ無為に時間を過ごしているように感じてしまう。
少しでも緋天を感じることのできる、この痕は。
甘さと苦さが同居する、彼女の残り香。
鏡の中のそれにもう一度目をやってから。
消えるなと念じて、浴室に足を進めた。
なんのこっちゃ?と思った方は、気象予報士夜の部をご参照ください。




