緋天の日記帳:朝日
時間軸は、気象予報士3.5部、「卑怯な大人の攻防戦」の直後。
パジャマを身につけた記憶がないのだけれど。
肌を覆うのは、確かに自分のそれだった。
今まで同じような状況に陥った時は、いつも裸だったのに。
晴れ間が広がれば過ごしやすいが。朝晩は肌寒さを覚える季節を迎えている。それを気にしてくれたのだろうか、それとも無意識下で自分が寒さを訴えたのだろうか。とにかく、この寝間着を蒼羽が着せてくれた事は間違いない。
彼の腕の中で目が覚めて、脈絡なく、そんな事を思った。
もし自分で服を着たなら、絶対に下着を身につけているはずだから。慣れない感覚に戸惑いつつも、目を開けて薄明るい光を確認する。まだ早い時間に起きた事に少々驚いて、更に蒼羽が寝息を立てている事に驚いた。
暖かくて心地良い理由が、眠っている蒼羽の腕に囲われているからだと気付く。尚且つ上掛けごと抱き込むように包まれていた。それをしている当人は、どう見ても上半身に何も身につけていない。寒くないのだろうかと心配になったけれど、そっと触れたむきだしの肩は、同じように暖かかった。
眠る蒼羽は、意思を伝えない。
閉じられた双眸からは、何の感情も読み取る事はできなかった。
それなのに、こうやって眺める事は苦痛でもなく、退屈でもなく、むしろとても貴重な時間に思えてしまう。これだけ近くで休養を得ている彼を見ると、胸の奥底がじわりと何かで満たされていく気がした。
ああ、これは。
幸せだ、と。
それを見つけた途端、目の奥が熱くなる。
何故蒼羽と離れていられたのか、今更それを不思議に思った。与えられた愛情に浸っていられる、今のこの空間に。代替できるものなど、どこにも存在しないのだとかみしめる。
流れ落ちる涙を拭おうと、身じろいで。
パジャマの袖を目に当てた。
「・・・緋天」
掠れたような低い声で名前を呼ばれ、額に落とされたキス。
起こしてしまった、と焦る前に、驚く彼の表情が目に映る。
自然とこぼれた笑みが、先に蒼羽を安心させたようで。これは嬉しくて目が潤んだのだと、恥ずかしくなりながら釈明した。目の端を啄む彼に、熱をかき立てられる。
喉の奥で響くような彼の小さな笑い声が、それを煽って。
「おはよう」
口付けられ、首筋を撫でられ、朝の挨拶を向けられた。
とても嬉しそうな蒼羽と、その笑顔に心拍数を上げる自分。
寝間着を身につけていても、何ら変わりはないのだと。
それを、悟った。




