始動
「あのぅ・・・」
鈴を転がしたようなか細く、澄んだ声で目を開いた。
「ここ、・・・その、うちの倉庫なんです。・・・えっと・・・」
白色に近い金髪は、緩くウェーブがかかっており、肩までの長さ。髪の同じ色の瞳は大きく、睫は長く、気品が漂っていた。
つんと尖った小さく高い鼻、僅かに湿った小さく薄い唇、新雪のような白い肌に、朱を一滴落としたような僅かに赤いほっぺ。
言うまでもなく、美しい少女だった。歳は10代前半くらいか。細すぎるその身体を、白いワンピースで飾っている。
「大丈夫・・・ですか?」
尚、心配そうに僕へ語りかける少女。柔らかな風に乗り、初春に咲く花のような、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
しかし、僕はどうしてこんなところで座り込んでいるんだ。
身体は重たく、二日酔いの朝のように意識がぼうっとして、胃の辺りがむかむかする。途切れ途切れの記憶は、"今までの12年間"と、"死ぬまでの25年間"の二つが混雑し、脳みそが破裂しそうだ。
「あっ、・・・私、アイラって言います。アイラ・シスルコットですっ。・・・えっと、貴方は・・・?」
僕はカーチス。・・・いや有坂?どっちだろうか。どっちでもいいか。
思いながら僕は名前を名乗ろうとして、声が出ないことに気がついた。声帯がなくなってしまったかのように、空気だけが漏れる。思春期の真っ只中でさえ、こんなことは無かったのに。
「あのぅ・・・。あ、あれっ、・・・大丈夫?!」
急激に意識レベルが下がり始め、僕は目を閉じた。瞬間、体中の力が抜けて、体重が二倍にも三倍にもなったような錯覚を覚えた。
真っ暗な視界はぐるぐると回り始め、思考をするのでさえ、億劫になってしまう。
五感はもう遠くに行って、アイラと名乗った少女の声さえ聞こえなくなってしまい、抵抗しようにもどうにもならないので、僕は睡魔に意識を預けることにした。
どうして、こんな場所で──。
最後の思考を手放すと、僕の意識は深く暗い泥の中に沈んでいった。
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