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最終話 『最後の戦い』

 俺はイブから、あの後何が起きたのかを聞いた。

 聖女が大量のゆうしゃを引き連れ、現れた事。俺が殺されかけた事。イブが魔王としての力を目覚めさせた事。その状況に不利を感じた聖女達が撤退した事。


 俺はイブの話を聞きながら、どこか納得をしていた。彼女から感じる魔力は、以前とは比べ物にならない。まるで、魔力が回復すれば、その分だけ上限が上がっているような——魔結晶の容量に限界がなくなっているような、底知れなさを感じていた。


 イブはこれまでの事を話し終えると、これからの事を話した。

 間違いなく、近いうちに大規模な戦争が起きるだろう事。魔族達、亜人達の全てがこの魔王城や、城下街に集結しつつある事。同時に、ニンゲン達が戦の準備を始めている事。


 ——5年前の再来。


 あるいはそれ以上の規模になる、と彼女は言った。

 その話を聞きながら思った——身の振り方を決める時が来たのだ、と。俺は彼女に告げた。


「イブ、俺はここを出ようと思う」


「……ぇ?」


 まるで俺が意味の通じない冗談でも言ったかの様に、固まる。その表情がぎこちなく動き、そして、俺を睨んだ。


「逃げる、気?」


「いや、戦う。でも……ここには、いられないだろ」


 話から今居るここが、魔王城の一室だとはわかっていた。だが、これからニンゲンと魔族達との全面戦争が始まるというのに、俺がここに居ては——魔王となったイブの側に居ては、不利に働いてしまう。不要なトラブルを招いてしまう。


 俺はゆうしゃとの戦いで、自分がニンゲンであった事を明かしてしまった——ローブを取っ払ってしまった。冷静に戦っていたつもりだったのに、怒りで視野狭窄になっていたらしい。

 だが。


「今ね、情報収集から戻ってきたバートが、皆を説得して回ってくれてるの。ユウがここで一緒に戦えるように、って」


「……あいつ、が?」


 イブは「今はカリナって名前らしいんだけどね」なんて笑うが……まさか、あいつが俺のため——いや、正確にはイブのためだろうが、それでも、そこまでやってくれるだなんて。俺は想像もしていなかった。

 こうまでなってしまってはいっそ、俺を切り捨てた方がずっとイブのためになる、と彼なら考えそうなものなのに。


「だから、大丈夫だよ。ここにいていいの。……ユウ、アタシと一緒に戦って。アタシの背中を守って。これまでと同じように、これからも」


 そう告げたイブは、真剣なものから、おどけたものへと表情を変え、


「とにかく今は、しっかり休まなきゃ。最後の最後で力を出し切れなかった、なんて許さないわよ?」


 と言い残し、が部屋を去った。

 俺は……受け入れるしかない。ここまでバートにさせておいて、それを無駄にするような事は流石に出来なかった。


 と、イブと入れ替わるように来客。ノックに答えれば、現れたのは男装の麗人。燕尾服にモノグラス。ちょうど燕尾の部分の真ん中からは、先端が返しの付いた棘状の、細い尻尾が生えていた。のだが、


「……誰だ?」


 ——全然知らない相手だった。


「……チッ」


 そいつは舌打ちをすると、その姿がぐにゃりと歪んだ。見覚えのある冒険者——バートや、侍従——メイアの姿になり、そしてまた男装の麗人へと姿が戻る。俺はようやく理解した。


「なんだ、バ——」


「今はカリナだ」


 名前を呼ぼうとした所を先回りされ、出かかった言葉を飲み込む。改めて声をかけ直した。


「カリナ、久しぶりだな。それこそ、5年振りになるか」


 俺はずっと情報収集のために潜伏していた彼? 彼女? ——カリナへと、久方ぶりの挨拶を投げる。そして、先程の話もあった事だし、と礼を述べる。


「俺のために動いてくれているみたいで……ありがとう」


 だがカリナは、忌々しそうにさらに大きな舌打ちをして答える。


「お嬢様——いや、魔王様のためだ」


 全く予想通りの答え。さらに付け加えるように、カリナは「お嬢様に感謝するんだな、ニンゲン」と言った。結局カリナはそれだけを告げると、部屋を去っていった。

 ……何をしに来たんだ。怪訝さに眉が寄ってしまう。「ともかく」と、俺は一人になった部屋で、一つだけ訂正を加えた。


「感謝なら5年前から、ずっとしてるさ」


 その会話が、落ち着いて話の出来る最後の機会となった——……


   *  *  *


 状況はめまぐるしく変化し、時間はあっという間に流れた。それらは全てある一つの出来事へと収束していく。すなわち、全面戦争へと。


 最初は俺に対して警戒が強かった魔族達も、カリナの説得のお陰だろう、打ち解ける、ということはなかったがイブの側にいる事については目を瞑ってくれるようになった。最終決戦でも、彼女の側に立つ事を許された。

 とはいえ、ニンゲンの容姿は色々とトラウマや憎悪を引き起こす——俺はフードを被って生活をし、戦争にもその格好での参加だが。


 イブは成長し続けた。魔力量も”先代魔王”デイビッドに迫るまでとなっていた。ほぼ全ての魔族が彼女を崇拝する——例外が生まれてしまったのは、俺の存在に対する反感故だ。


 だからこそ俺は、ますます彼女に尽くさなければならない。命を掛けて、この戦いに貢献する。そして、魔族達へと平穏を齎したその時こそが——俺の最後だ。

 俺はその時こそ、勇者として彼女の前に現れる。そして、勇者として、魔王であるイブの復讐を、憎悪を、全て受け入れる。


 ——長かった。


 ようやく、俺は後悔から解放される。ようやく、イブは復讐から解放される。全てはその時のために、あった。

 全ての終わりが、目前にまで迫っていた。


   *  *  *


 —Side Other—


 鉄の臭い。汗の臭い。土の臭い。金属音。風の音。荒い息の音。恐怖。憎悪。憤怒。眼下を、鎧を身に着け、武器を携えた異形の者達が埋め尽くしていた。

 アタシは、城のテラスからそれを見ていた。脇には、巨大な魔力を有する四の魔族と、フード付きのローブを纏った青年が立っている。


 遠方には、地平線を掻き消す程の——万単位のニンゲンの兵。その軍隊の中央に存在するは、豪奢な鎧を纏い男と、錫杖を持った女。さらに、二人を囲むように数百の白い者達が居た。


 アタシは息を吸い込んだ。口を開くまでには時間が掛かった。この一言ほど、重い言葉はないと思った。アタシの命令で、数千、数万という命が失われる事になるのだ。

 でもそれでも、命じないわけにはいかない。アタシ達が、アタシ達の生きる世界と尊厳を守る為に。

 アタシはその言葉を告げる。



「——突撃ィイイイイイイイイッ!」



 今、ニンゲンと魔族。その生き残りを掛けた戦いの幕が、切って落とされた——……

 

 おおおおっ! 1万PV突破……ありがとうございます!

 そして、次の章『全面戦争編』が物語の最終局面となります。最後までお付き合い頂ければ、幸いです。



 ……と、言いましたが、もしかしたらその前に一話だけ『閑話』を挿入するかもです。筆のノリ、そして読者さんからの希望の有無にも依りますが……。

 内容は、ユウとイブが二人で冒険者をしていた時の話になります。ラブコメ成分が多めになります。


 それでは改めまして、最後までどうぞ、よろしくお願い致します!

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