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第三話 『冒険者登録』


「がっはっは、そうだったのか! これから冒険者になぁ……実はオレも、前は冒険者として働いてた事があるんだよ! でも今は膝に矢を受けてしまってな」


 雇ったガイドの男性は、おおざっぱな性格をしていた。隻腕隻眼の男とまだ幼い少女という明らかに不審だろう組み合わせの俺達についても、言った事そのまま——『魔物に襲われた』という事を『そうかそうか。そりゃー大変だったな! がっはっは!』とあっさり信じてくれている。

 案外、そういう所を買われて、案内所でも彼を雇っているのかもしれない。


「へぇ、そうだったんですか。おめでとうございます!」


「……?」


 俺が笑顔で返したその答えに、イブは首を傾げる。が、ガイドは気付かなかったようだ。


「よせやいよせやい! オレぁ冒険者も気に入ってたんだがよぉ、どーしてもコレが心配だって言うからよぉ! がっはっはっは!」


 小指を立てたガイドが笑う。というか常に笑っている。


「っと、着いた着いた。ここがオススメの宿だ。うちの案内所とも契約してる——きちんと審査を通ってる、信頼のおける宿だ。……女将さーん、失礼するぜー!」


 ガイドの後に付いて中に入ると、対応してくれたのは女将さんだった。事前に空きは確認していたのだろう、ガイドと二三言交わすと、俺達に尋ねてくる。


「いらっしゃい、坊や、お嬢ちゃん。2人部屋が1つで良いかな。何泊の希望だい?」


「ええ。泊数は——」


 書庫や図書館での知識を思い起こしながら受け答えを行った——が、旅慣れていない事がすぐにわかったのだろう、女将さんは部屋を案内してくれた後、「わからない事があったらすぐ聞きなよ」と笑って去っていった。


「荷物を置いたらすぐに出るぞ。目的地は——」


 俺は女将さんのテキパキと小気味良い仕事っぷりに満足すると、時間がない、とすぐに荷物を置いて、次の目的地へと移動を開始する。

 回らなければならない店が、いくつもあるのだ——……


   *  *  *


 俺達はガイドの案内で、冒険者として活動する為の準備を行った。


 とは言っても、ガイドの指摘により不必要なもの、逆に足りていないものが多く判明し、予定とは全然違ってしまっていたのだけれど。

 資金もあっという間にカツカツになってしまった上、時間が足りずに、一番のメインイベントである冒険者登録も出来なかった。


 が、きっとこのガイドがいなければ、俺達はもっと大量に余計な出費などをしてしまっていたのは間違いなかった。感謝こそすれ、不満などあるまい。


「今日はありがとうございました。また何かあった時は、よろしく御願いします」


「いいって事よ! ……遅れちまったが、そんなあんたらにこの言葉を送ろう」


 彼はこれまででもとびきりに豪快な笑顔を見せて、言った。



「——ようこそ! 栄転街”イナダワカシハ・シティ”へ!」



 俺は、風に乗って流れて来た潮の香りに、新たな生活の始まりを感じた——……


   *  *  *


 翌日、俺達は冒険者組合を訪れていた。昨日は色々と予定が狂ってしまったが、その分、冒険者登録以外はきっちりと全て済ませる事が出来ていた。

 本音を言えば、折角の元冒険者だったガイドさん——今日こそ一緒に居てもらいたかったのだが……金がなかったのだからどうしようもない。


「次の方、どうぞー!」


 窓口が空き、後ろに並んでいた俺達が呼ばれる。横目でイブが『大丈夫なんでしょうね?』と疑わし気に視線を向けているが、多分いけるはずだ。昨日の内に、ガイドに重要な部分については確認を終えているのだ。


「登録されるのはお二人とも、でよろしいですかー?」


「はい」


「では冒険者について説明させて頂きますねー」


 そういって職員の女性は説明を始める。何十回、何百回と説明を繰り返しているのだろう、その語りに淀みはない。


「まず、冒険者という職業についてのご説明ですー。冒険者になりますと、基本的には街外での多種多様な仕事を請け負う事となりますー。もし街内の仕事がご希望の場合は、傭兵組合の方へ御願いいたしますねー」


 俺は職員の案内に首を振り、続きを促した。


「冒険者となる方にはきちんと審査を受けて頂きますー。その結果によっては、受けられる仕事が大幅に制限されてしまったり、あるいは今回はご縁がなかったとお断りさせて頂く事がございますのを、ご了承くださいー」


 大体、事前に知っていた通りだ。成績については頑張る、としか言いようがない。

 職員に俺達は揃って首を縦に振る。


「基本的にお仕事は、窓口でお尋ねくださいー。その時にご提示しますお仕事の中から、受けるものを選んで頂く形になりますー。この街——イナダワカシハ・シティ内でも冒険者組合は複数ございますー。ご提示出来るお仕事の内容も変わって来ますので、もしこちらに希望の仕事がない場合は、そちらへも足を運んで頂く事も可能ですー。冒険者証は共通となっておりますのでー」


 職員の手の先を追うと、そこには街の地図。その数カ所には赤い印が付けられている。


「お二人は冒険者になられた後は、ご一緒に依頼を受けていくおつもりですかー? それとも、個人で受けられる事が多くなるでしょうかー?」


「一緒に受けていくつもりです」


「他にも一緒に依頼をこなすメンバーはございますでしょうかー?」


「いえ、二人です」


 俺達は事情が大き過ぎる。軽々に他の人物を仲間に引き入れ、行動を共にするのは危険だ。

 と、そこで職員が顎に手を当てる。


「ですかー。でしたら、試験の結果に問題がなければ、その後はお二人で受けられる依頼を優先してご紹介させて頂きます。ですが、基本的には他の方とのご一緒の依頼となってしまいますが、よろしいですかー?」


 ……しまった。そうなってしまうのか。

 だが確かに、言われてみればその通りだ。二人で出来る仕事など限られているし、ましてや俺達は信用0のニュービーもニュービー。何かをやらせるにしても、簡単なものか、あるいは他の経験者に従わせる形で——というのは妥当だ。

 受け入れるしかない。


「ありがとうございますー。共通語の読み書きは出来ますかー? ではこちらの注意点をお読みください。開始時刻や参加料はこちらに書いてある通りになりますー」


 俺は報酬の支払い方法や、試験中や依頼中に事故が起きた際の責任所在、冒険者として働く際のルール、そのルールを破った場合の罰則などを読み終える。


「では、こちらの書類に記入して、あちらの窓口へお願いしますー」


 俺達は差し出された書類を受け取ると、開いているテーブルへと移動した。テーブルに紐で繋がれたあしペン?で記入を始める。名前に種族、性別、年齢、経歴、得手不得手に職種の希望など。


 隣でイブも同じように記入を行っている。文字にはいくつもの種類があるが、中でも共通語は少し特殊だ。


 現在、人族は人間を中心にエルフやドワーフなどがごちゃまぜになって暮らしている。彼等の中には『人族』という共通意識があり、そう敵対する事はない。が、それよりも昔の時代。彼等の間にまだ交友がなかった頃。

 それぞれが人間語、エルフ語、ドワーフ語と異なる言語を用いており、意思の疎通が出来ていなかった。


 ——そんな時に生まれたのが、共通語だ。


 元々は商人や、彼等から商品を購入しようとする者が好んで使っていた言葉だった。簡単に商品の値段や根切りなどを表現するだけだったのだが、次第にその商品の用途を説明できるまでになり、いつしか日常会話にまで用いられる程となった。

 そしてそれは、人族の間に留まらなかった。人間と魔族がまだお互いの存在も認識出来ておらぬ頃、エルフ達——亜人族を経由して魔族達にまで広まったのだ。


 書き終えたそれを俺は見る。


 『ユウ・ヒエイ』

 種族:人間

 性別:男

 年齢:16

 経歴:ラムダ村出身。怪我がきっかけで村の仕事ができなくなり、村を出た。冒険者には生活費を稼ぐと共に、こんな自分でも誰かの役に立ちたい、と思い就職を希望した。

 得手不得手:知識を問われる問題は得意。以前は武術も身につけていたが、現在は怪我を負っているため戦闘行為には不安がある。

 希望:薬草などに関する知識もあるため、採取系の仕事。


 まあ、こんな所だろう。ラムダ村はここからそれなりに離れた場所にある、そこそこ大きな村の名前だ。一度、勇者として付近に出現した魔族の討伐のため訪れた事があり少し知っていたため、ここにした。

 その村の出身者に出会う可能性が低く、また、同じ村の出身でも顔を合わせた事がない、という状況がありえる丁度いい村だ。


 見直しを終えると丁度、イブも記入を終えていた。



 『イブニング・ヒエイ』

 種族:人間

 性別:女

 年齢:8

 経歴:ラムダ村から来た。両親が殺され、一人では村で生きていくだけのお金を稼げなくなった。生活費を得ると同時に、自身を鍛えたいと思い冒険者になる事を希望した。

 得手不得手:知識には自身がある。護身術は学んだが、得意ではない。また、魔法が”使えない”。

 希望:薬草などに関する知識もあるため、採取系の仕事。


「おい、ちょっと待て」


「何か問題でも?」


 魔法が使えない——それに関しては事前に打ち合わせた通りだ。イブが魔法を使えば、赤い魔力が漏れて魔族だとバレてしまう。問題は——


「なんで、同じファミリーネームになってんだよ!?」


 俺は小声でイブを問いただす。


「別にいいでしょ? だって、組合のルールに『偽名を使うな』なんてなかったんだから」


「……それはそうだが」


 だが、『虚偽の報告が目立った場合、罰則の対象となり得る』という一文はあった。まあ要するに、”バレなきゃいい”のだが。

 イブはさっさと自分の紙を持って、窓口まで歩いていってしまう。


「駄目だったら、その時はこう言えばいいのよ——」


 彼女はくるりと振り返り、上目遣いで言った。


「——アタシ、ユウのお嫁さんになるの!」


 子供の戯言たわごと。なんとも彼女は、俺達が——というか彼女が持つ、この場で唯一と言って良い武器の扱い方を心得ているのだった。


   *  *  *


「それで、ユウ・ヒエイ君。君はなんで傭兵じゃなくて冒険者になりたいのかな? 経歴を見る限り、傭兵の方が向いているんじゃないかな?」


「え」


 6人程が小部屋に集められ、始まった面接。俺は早くも不採用の憂き目を見ていた——……


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