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第一話 『全面戦争』

 ご感想、誤字脱字の報告など、ございましたら遠慮なくお書き頂けると嬉しく思います。



 人族と魔族の全面戦争が幕を上げた。


「勇者ダッ! 潰せェ! 殺せェ! 手柄を上げロォ!」


 先陣を切った俺へと魔族達が殺到する。と同時、最も至近にいた十数体”全員の眼前に”俺が立っていた。全ての敵が同時にその首と胴体とを別離させられ、鮮血で銀の髪を真っ赤に染めた。


 刀を振り抜いた俺の隙を突かんと、そのさらに背後から鉤爪や牙が伸ばされる。だが、そこに俺の姿はなく、空を切るのみだった。俺は一人、未だなお先陣を切り駆け続けていた。


「惑わされるナッ! 今代の勇者は幻術の使い手ダッ! 断つべきハあの一体のミッ! 怯むナ! 進めェ、進メェええエエッ!」


 魔族達は怒濤のごとく俺へと殺到してくる。水を切っているかのように、どれだけ刀を振るおうとも一向に彼等の勢いは止まらない。どころか、同族の身体をも盾にし、さらに勢いを増して押し寄せてくる。


 俺の扱う刀に刃こぼれはない——勇者である俺の為に、魔法ギジュツの粋を集めて打たれた特注品だ。そして何よりも、俺の『刻字の右腕』が刀の刃こぼれを許さない。刀はまるで身体の一部のように、さらなる強靭さを得ていた。


 俺はその長短二本の刀を攻撃と防御に振り分け、敵の攻撃をいなしながら、隙を見せた敵を切り捨てながら進んでいた。が、ついに魔族の勢いに押され、足が止まりそうになってしまう。

 そこへ、


「——<重圧>」


 地面に亀裂が入る程の、超重力。近くにいた魔族のほとんどが膝を突き、力なき者は潰された。


「勇者様、力をお貸しいたします!」


「助かる」


 アイラは俺の隣に寄り添い立った。俺は彼女を守る事へ意識の多くを裂きながら、前へと進む。彼女は自身のみの守りを俺へと託し、魔法の発動へと集中する。大量の魔力を変質させ、巨大な魔法を次々と放つ。

 俺達の連携に、ミスや無駄は一切なかった。


 ——十年、か。


 早かった。俺達はもう、十年も一緒に戦い続けている。

 俺はこの戦いが終われば、彼女に告げたい言葉があった。この戦争を終えたなら、叶えたい望みがあった。


 ——俺と、一緒に。


 平和になった世界では勇者の活躍の場も、聖女の活躍の場も大きく減るだろう。そうすれば、少しくらいは休んでもいいだろう。アイラはいつも全力だ。民を守る為ならば、どれだけの困難だろうが躊躇わずに立ち向かう。


 彼女にも、休息があっていいはずだ。彼女にも、趣味とか……恋、とか。そんな普通の女性としての人生を送る権利があるはずだ。

 一度、彼女に問われた事がある。


『勇者様は、わたしの事……どう思いますか?』


 その時の彼女は、美しい微笑みを浮かべていた。共に夜空を見上げ、ふと問うて来た彼女の言葉を、俺は一生忘れられそうにない。

 俺は、


『好きだよ』


 と言った後に、


『も、もちろん! バカだけど性根はまっすぐなあの三人組や、ずっと幼い時から面倒見てくれてるメイド、今は亡きボクの命を救ってくれた少女、他にもボク達を支えてくれてる人族みんな。全員の事が、ボクは好きだよ』


 と日和ってしまったが、今度こそ、はっきりと、自分から、告げるのだ。


「道を開けぇええッ! 勇者様達を、魔王城へとお導きするのだぁあああああッ!」


 騎士達が、兵士達が雄叫びを上げ、一層の勢いで敵を押し返す。魔王城までの道が開ける。


「アイラ……行くぞ!」


「はい、勇者様!」


 俺達二人は、他数名の腕の立つ兵士や魔法使いのみを率い、砲弾の如き騎士達の魔法の連打で押し開かれた扉から、魔王城へと侵入した。


「行ってくだされ勇者殿ッ! 我々人族の、平和な未来の為にッ!」


 騎士が叫び、身を翻す。先程とは一転、門の前で魔族達の侵入を食い止める——長くは持たない。彼もまたそれをわかっている。もとより、魔族と人族では個々の戦力が違い過ぎるのだから。


「……ッ、任せた……!」


 俺は食いしばるようにその言葉を吐き出した。騎士はその言葉が何よりも嬉しかったかのように、笑みを浮かべた。覚悟を決めた男の目は、俺の意識に深く刻み付けられた。


 ——負けられない。


 彼等、彼女等の為にも、俺は一刻も早く魔王を打倒しなければならない。

 魔王城の広いエントランスを駆け抜ける。が、丁度その真ん中まで来た時、突然、全方位から魔法が一気に放たれた。


「——ッ! アイラッ!」


「はいッ!」


 彼女は即座に、待機させていた魔力を放出させ、魔法を実現させる。全方位へ魔力を運動エネルギーに似た性質へと変化させ放つ、<放射>の魔法が、迫っていた魔法と拮抗する。が、さしもの彼女もそれだけの魔法を迎撃しきれなかった。


「ぐッ——!」


「がぁ——!」


「ぎッ——!」


 供をしていた兵士達の一部が被弾する。反射的に止まりかける足。だが彼等は叫んだ。


「先へッ!」


「ここは我らが食い止めます!」


「ですから、どうか魔王を……!」


 兵士達が、俺達に再び魔法が放たれないよう、隠れていた魔族達へと牽制の魔法を放ち始める。俺に出来る事は、一刻も早く魔王を討つ事だけだった。

 皆が、ただ一つを願っていた。俺達を魔王の元へと届けるために、全てを掛けていた。


 俺とアイラは全力で駆け抜けた。エントランスの突き当たりには、巨大な扉。アイラがそこへ魔法を叩き付け、たわませる。俺が最後の一押しとばかりに蹴り開け、ついに、中へと侵入を果たす。


 ——瞬間、夜が訪れた。


 いや、そう錯覚する程の、濃密な闇の気配が扉の向こうに満ちていたのだ。

 赤い絨毯がまっすぐと伸びていた。その先には何十段と言う段差。頂点に鎮座するは王座。そして当然、そこにはある存在が腰掛けていた。


「——勇者、そして聖女よ。善くぞ此処まで辿り着いた」


 その存在が、ゆっくりと言葉を紡いだ。それだけで俺達にかかる重力が何十倍にもなったように錯覚した。

 俺達はついに、魔王と相見えていた——……


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