全員共通 憧れ、悪魔、三天使、天使と悪魔と堕天使と、分岐点
Ⅰ憧れ
『フロマージェ』
私を呼ぶのは誰だろう。
『君の翼は透明に近い程白く美しい』
ああそうだ彼は私の愛しい天使様――――――――――――――――
それは空の光が眩いある日の事だった。
灰色の翼を持つ少女は白き翼を持つ天使の青年を眺めていた。
「ああ星天使様、今日も素敵」
堕天使マーベルには想いを寄せる天使がいる。
ただの憧れだと同僚の男子達には馬鹿にされるけれど
それは一応自分でも自覚している。
なぜなら薄めの金髪や美しく整っている容姿、落ち着いた立ち振舞いなど天界の女性だけでなく魔界、もちろん堕天界でも有名。
そして要人の警護を行う部隊を纏める星天使の立場にありながら人柄が良い。
傲った態度はなく、男性天使からも慕われる頼りになる方である。
私も天界に使える一人として彼とは言葉を交わしてはいないこそすれ、尊敬せずにはいられない。
堕天使マーベルが暫く彼の様子を眺めていると、彼は彼女を見つめ返した。
「嘘…星天使様と目が…」
それだけで堕天使の少女は幸せな気持ちになる。
本来ならば姿を拝むのも憚れる立場の自分を瞳に捉えてくれたのだから。
彼は天使でマーベルは堕天使という事は赦されざる恋なのだから。
天使の住まうこの天界だけでなく魔王が統治する魔界や天使・悪魔の間に生まれた堕天使が住む堕天界がある
ついでに他の3つのエリアとは異なる人間界もあるという噂だ。
その4つ全てを世界をたった一人の創造主が造り上げた伝説がある。
ただし、創造主や人間界は噂や伝説程度の話なので信憑性がなく詳細も不明だが少しだけ気になったりならなかったり。
2悪魔
「ようマーベル」
どこからか愚弟の声が聞こえた。
「チェルザー!!また壁に落書きしに来たのね!?」
「うるさいなまだ何もしてねえよ馬…なんでもない」
何を言いかけたのか大方予想は出来る。
「誰がハバアですって?」
目の前の弟に半ば脅す形で聞き返す。
「待て待て!馬鹿って言おうとしたんだよ!」
彼女の予想と反しギリギリ許容出来る範囲だった。
「ふうん…まあよろしい」
首筋にちらつかせたサソリの尻尾を除ける。
「よろしいのかよ!?」簡単に許されるとは思わなかったのか間抜けな顔をしつつ
用事はもう無いと言ってチェルザーは去った。『…マー…』
ふと誰かに呼び止められたような気がして、反射的に声のした方を振り返ってみてもそこには誰もいなかった。
「久しいな」
彼女がこの世で二番目に会いたくない男の声が聴こえる。
気のせいであってほしいと願うマーベルだが現実は甘くなかった。
「マーベル、いや元天使」
名を呼んでから種族を言い直す彼。
「…なんで言い直したんですかゴード・ブラッディ殿下」
否定せずとも彼は名を間違えてなどいなかったというのに。
「勿論深い意味はない」
と言う悪魔、彼はただ格好をつけたかっただけらしい。
それにしても今日はやたらと声をかけられる。
厄日に違いない、堕天界に行って占い師に厄払いをしてもらおう。
「…占い師とやらは厄払いが出来るのか?」
《読心術でも使えるのだろうかこの悪魔》
とマーベルは不思議に思う。
「ああ使えるぞ」
《え!?嘘…もしかして今まで話してきた悪魔に心の声が聞こえてるの!?》
「いや、読心術を使うのは俺だけだよ」
悪魔全員が力を使えるわけではないのか彼だけなら…いやまったく良くないけど全員よりマシなのでほんの少し安堵した。
「そうなのですか」
なんとなく不本意だが彼はすごい。
「普段は制御できるんだが気を抜くとな、君の前だからだろうか」
「用事があるので失礼します!!」
そんな事をサラりと言われてしまい。
耐えきれなくなってドクドクする胸を押さえながら逃げ出していた。
ああいう事が何度もあるから彼には会いたくなかったのだ。
願わくば顔が赤くなっている事が彼に気がつかれていませんように
三天使
逃げて来たのはいいけど、此処はどこだろう
「お嬢ちゃん、お顔が真っ赤だぜ」
背後から突然声をかけられて平然と流せるほど気丈ではない。
「うわあああああ」
私は驚きのあまり大きな声で叫んでしまった。
「なんで貴方がここにいるのよ!?」
彼はザン、近所に住む堕天使だ。
「マーベルちゃんひでぇなあそんなに驚くなよ」
彼は特に不快に思った様子はなく、後頭部を掻いて笑い飛ばす。
「ちゃん付けは止めて、いくら見た目が老けてると言っても貴方より私の方が●●歳も年上よ」
堕天使は悪魔や天使よりも更に寿命が長く容姿も自由に変えられる。
彼だって堕天使なのだからその筈。
「それ未だに信じられねーんだけど事実なんだよなあ」
「ザンが叔父さんっぽい容姿に調節してるんでしょ?別に悪くないけど」
彼は黙っていれば、見た目だけならハンサム、汚い印象はない。
「いいや、不思議だなあ…でさっき顔が赤かったが熱でもあるのか」
ザンがにやにやしながら訪ねている。
ということはわかっているくせに遠回しにカマをかけようとしているのだろう。
「色男に口説かれただけよじゃあね!」
「…堕天使」
「レラーモ…」
会いたくない男その1――――
そう半分はこの悪魔のせいだ。
天使が悪魔と悪魔が天使と婚約し堕天使となるのは天界でよくある話だが
私の場合婚約などしていないのである。
彼ともう一人の悪魔を初めて見掛けた日、ただ近くに寄っただけでそうなってしまった。
でもあの日堕天使の翼を持ったのは彼のせいだと決めつけてしまったのだが、もしかしたら彼は関係ない可能性も否めない。
「どうにかして天使に戻らないと」
せめて天使に戻れたら師匠に会えるかな。
「別にこのままでも…いい」
聞こえるか聴こえないかくらいの小さな声で呟いた。
「レラーモ?」 一体どうしたのだろうか
「悪魔でも天使でもない君という…」
「いいわけがない!」
彼の話を遮るように怒号が響く。
④堕天使
「どうしたのよ狛天使くん」
声を張り上げたのは狛天使、険しい表情でレラーモを睨む。
彼は私と同じ天使を師とした姉弟弟子、幼い頃から一緒に勉強したり話したりしていた。
仲が良い、といっても正確な名前は知っておらずいつも役職名で呼んでいる。
「なぜ睨むんだ…何か気に触るような事を言ったのなら侘びよう」
レラーモは申し訳なさそうな声で狛天使に歩み寄る。
顔に出ていないが彼は少し悲しんでいるようだ。「いらぬ世話だ…僕は貴様が気にくわん」
眼鏡中心をクイッと上げて、険しい表情で対応する。
私と話す時は少し意地を張っているだけのいい子だ。
彼が悪魔嫌いなのだろうか
「狛天使くん、悪魔が嫌いなの?」
恐る恐る尋ねてみたところ、機嫌が直ったのか彼の眉間から皺が取れた。
「悪魔?嫌いというかむしろ好きですが」
微笑みながらそう答える狛天使。
けれど彼はいかにも真面目そうな優等生だ。
野蛮なイメージのある種族と鼻で笑われるかと思った。
そして天使が悪魔を好意的に見るのは珍しい。
レラーモは目を見開いて驚く、私も同様に意外だと思った。
「それよりあの日、エルメンタルの涙で何が起こったのか詳しく話せ!」
狛天使が先程と同じく鋭い剣幕で凄む
せっかく取れた眉間の皺は復活した。
それにしてもエルメンタルの涙の日など聞いた事がない話だ。
「なーに俺様のいねぇトコで喧嘩なんてしてんだ?」
会いたくない男その3兼堕天使化の原因2分の1であるグロズドーが来た。
相変わらず乱暴者だが自分より倍近い年下なのでまだ可愛いものである。
「おい!!」
怒りの矛先がレラーモからグロズドー
「なんだ眼鏡野郎」
「小僧、彼女を堕天使にしたのは貴様だな!」
見た目に差は無いが彼もグロズドーより年上だ。
「ああそうだけど悪いかよ?」
どうやら彼が私を堕天使化させた原因だったのは本当らしい。
しかし悪びれた様子すらなくいつも通り自信に満ちた顔をしていた。
「我等の同胞の翼を灰で穢すとは野蛮な輩だ僕が退治してやろう」
「ナマ言ってじゃねえ!オレサマが相手になってやる」
「その薄穢い口を封じてやろう!小僧」
相性が悪い二人の口論はますますヒートアップする。
最終的には武器使用の乱闘に発展していった。
「ちょっと二人ともやめて!」
二人の争いを止めるべく距離を縮めようとした。
「危ない!マーベルさん!」
「後ろだ避けろ!!」
振り向かなくてもわかる頭の後ろへ垂直に、ギリギリの距離で刃物が迫っていた。
「はーい」
「そこまでだ」
5天使と悪魔と堕天使と
「し…聖天使様に星天使様!!」
師匠であり位の高い聖天使、そして憧れの星天使の二人が堕天使となってしまった自身を助けてくれた事が嬉しい。
その安心から脚の力が抜け、その場に座り込んでしまった。
「げっブロンズにプラチナブロンドの天使」
二人の登場に不快そうな顔で翼をバタつかせるグロズドー
その翼がレラーモと狛天使に当たりグサグサと刺さっている。
狛天使はとてつもなくキレる寸前なのだが上官の手前、必死に堪えている。
「マーベル、怪我はありませんか」
穏やかな笑みを湛えた天使がマーベルの手を取って立たせた。
「…はい」
穢れなき天使であり天界を統治する彼が一介の堕天使に躊躇なく触れる事に驚きつつ返事をする。
「し…大清天使様まで!!」
「ヘッドのプラチナクリスタルまできやがった…」
グロズドー、狛天使の二人は驚愕している。
「あなた方は…魔王の甥っ子ですか?」
大清天使はレラーモ、グロズドーに問う。
「…如何にも。お初にお目にかかります…大清天使殿、レラーモ・ブラッディです…」
たどたどしいが礼儀正しく挨拶をするレラーモは魔王の甥だと肯定する。
「アンタは…いいのか天界のトップ様が下等悪魔と口なんて聞いて」
そして相変わらず態度が悪いグロズドーは肯定も否定もしない。
「否定しないという事はそうなのですね」流石は清き天界を統べる御方、大清天使は笑顔を絶さない。
「まあな」
「って…ちょっと待って!?魔王が身内なんて聞いてないわ!?」
彼等が悪魔だと云うのは理解していた。
というか羽を見ればすぐわかるしあまり種族は気にした事がない
冷静に状況を飲み込んでいつのまにやら流していたけれど
魔王の親戚とは聞いた覚えがなくまったくの初耳である。
すると急に空気が変わった。
禍々しいオーラというより高位者の威圧感がある。
「我の甥がソナタ等に何やら無礼を働いたらしいな」
立派なツノ、黒い髪、マントを装備している彼は正しく魔王だ。
もしや、噂をしていたから現れたのだろうか。
「久しいな大清天使よ」
「そうですね魔王、一年ぶりですね」
長年会わずにいた旧友との感動再開、の割りには期間が短い。
(というかこの二人知り合いだったんだ…)
マーベルはヒソヒソと話す
(知らないのか堕天使、ここらでは有名な話だぞ)
天界に住む物で知らなかったのはマーベルだけだと星天使が言う。
(確か嘗て一人の女性を取り合って仲違いしたとかなんとか聞いたなあ…)
何か知っていそうな聖天使が笑いを堪えている。
(おい大清天使様がそんな俗な真似をするものか)
大清天使に確固たるイメージを持つ星天使は俗に現を抜かずような真似はしないと主張する。
(わからないよ、どっかの厳しいエリアとは別にこの天界は恋愛禁止じゃあない昔はきっとスケコマシだったんだろう)
疑問系なのがわざとらしい。
6分岐点
聖天使は大清天使と同期らしく、大清天使がどういう性格なのか理解している様だ。
(まさかあの方の性根が腐っているなんて言わないだろうな)
(まあ彼は天然だよ実は腹が黒いわけでも病んでいるわけでもないからね)
星天使はそれを聞いてほっとしている。
「其処の灰羽の娘、近くへ参れ」
「は…はい!?」
魔王に近づいたら灰羽が更に真っ黒になりそうで正直嫌である。
「そこの馬鹿と違って羽が黒くなったりはせん」
何故わかったのだろう魔王はゴードの弟なのでもしかしたら読心術に近い技を持っているのかもしれない。
「…やはり彼女に似ているな」
魔王はマーベルと他人を重て見ている。
彼女とは一体誰の事なのだろうと疑問を抱く
「そう…とても可愛い私の物、貴方だけにはあげませんよ」
にこにことしながら言う。
「フッ我というより他の誰にも譲る気はなさそうだがな?」
魔王は楽しげに笑う。
“よくもまあキザな台詞サラッと吐けるぜ”
グロズドーが嫌そうに呟く。
「娘、天使に戻りたいのだろう?」
本当に魔王が表れたのは旧友に会いにとか、親戚の子が迷惑をかけたお詫びではなく、何かを伝えに来たのだろう。
「ええ…戻りたいです!」
気が付けば相手が魔王だというのも忘れ、身を乗り出していた。
「簡単な方法があるぞ」
「なんですか!?」
簡単な方法などあるのだろうか、少し不安になってくる。
「堕天使を天使に戻すには天使のパートナーに浄化して貰うしかない」
―――――――――
side1
パーティーは毎年、一般市民の為に解放された城で行われる。
それはあくまで目眩ましであり、本来の目的は
大清天使、魔王、大老の御三方だけで開かれる
天使と悪魔、堕天使の用心が集まる総合的な集会だ。
『すまない、俺の相手として参加してほしいんだ』
まさかあの星天使からパーティーへ誘われるとはマーベルはどう返事をしたものかと目を泳がせた。
『なななぜ私なんでしょうか!?』
他にも女の天使はいる筈だ。
おそらくそこにいたから声をかけただけだろう。
『君は俺同様、パーティーの企画側だろう?』
なるほど、期待をしなくて正解だった。
『星天使、私の弟子をパーティーに誘おうなんて一万年早いよ』
癖のある茶髪の天使は星天使の肩をポンと叩く。
砕けた口調、星天使にフレンドリーな態度が取れるのはマーベルの師である聖天使くらいだ。
年は聖天使のほうが上だが、星天使は5位、聖天使は6位の偉さなので、本来は許されない事である。
彼等は付き合いの長い友人らしく、元々は聖天使が5位であったのだが、星天使と位を置換したので今に至る。
立場が逆転したとは言え聖天使に対しての対応や友人関係は置換前と変わらずそのままである。
パーティー当日、結局狛天使と同伴する事になった。
何はともあれ入ってしまえば誰と踊ろうと自由だ。
会場を念入りにチェックしていると一際目を引く悪魔を発見した。
珍しい赤紫の髪と、桃色の瞳が印象深く悪魔の女だけでなく天使や堕天使の女もざわめいている。
いつのまにか彼を目で追っているうちに、いかにもガサツそうな悪魔らしい悪魔が視界に入る。
彼等は知り合いらしく、それぞれ肉、野菜を食べながら話をし、バルコニーに出ていく
気が付けば私は赤紫髪の悪魔と焦げ茶色の髪をした悪魔を追いかけていた。
今思えばそれが悲劇の始まりだったのだろうか―――――――――――
side2『いつもすまない』
『悪いと思ってんなら自分でなんとかしてくれ』
『いや自分で出来ないから頼んだのだが』
『あーそうだったな』
『それにしてめなぜ昨日買ったばかりのスタンドが壊れたんだろうか…』
『運悪くすぐに壊れる不良品ばかりひいちまうおまえさんがあわれでならんよ』
==
あの日以来、誰に言われたわけでもなくケジメとして天界から堕天界へ移った。
私は天使として生まれ天使として消えるのだと種族に誇りを持ちどこかで慢心していたのだ。
翼が白でなくなっただけで、こんなにも世界が違って見える。
取り合えず近所に挨拶に行く事にした。
『すみませーん最近引っ越して来たものですがー』
いないのだろうか
『なんだよあさっぱら…』
あさっぱら…て。
『もう夕刻ですけど?』
自堕落そうな生活を送っているのかこの堕天使
大方夕べは酒でも飲んでいたんだろう。
『これつまらないものですが』
粗品の一つはお茶の詰め合わせ、もう一つは彼にちょうど良さそうなワインセットだ。
『なるほどなお嬢ちゃん新しいご近所さんか若いな』
若いも何も見た目だけではないだろう。
『はい今宵で●●●才になったばかりです』
嫌味のような言い方で若さをアピールしてみたのだが――――
『へーオジサン●●才』
おかしい、彼の年が予想より一桁足りないというかマーベルよりも若い。
『坊やにお酒は早いわね…』
マーベルはお茶の詰め合わせをテーブルに置いて帰った。
―――――
『ぐあああ』
マーベルが町を徘徊していると背後から
何やら悲鳴らしき声が聞こえるではないか
振り替えってみると悪魔の男が倒れていた。
『あの…大丈夫ですか?』
『すまない助かったよ!大丈夫転んだだけだからね』
額が汚れるくらい擦りむけているのにどこが大丈夫なんだろうと、目を皿のようにして見る。
『なんだいその目は…まるで積木だ』
確かに四角い目になってはいるけれど、例えがおかしい。
『取り合えずお大事に』
面倒な悪魔は放っておこう。
『待ちたまえそこの堕天使の少女よ!』
はっきりと指摘されて改めて自分が堕天使と認識したマーベル。
『魔界への帰り道を教えてくれないか!?』
この悪魔、あまりにもスケールが違いすぎだ。
==
案内ついでに自己紹介でもしてみる。
『私はマーベルです貴方を何て呼べばいいですか?』
おそらく彼はこう返してくる{フフッ名など捨てたさ…}
それとも{宛ら君は愛の詩人…私は貴女の燕ですよレディ}だろうか
出会って数分で彼はこういう変わり者の悪魔なのだとはっきりわかった。
『ゴードーだ。名乗るのが遅れてすまないね』
てっきり{名乗る程のものでは~}とかキザな台詞で返されると思っていた。
今いる場所は魔王やその家族が住む城である
『ありがとうここまででいいよ』
彼は一言目には謝ったり二言目には礼を言ったり悪魔らしくなし
変わり者ではあるが彼は悪い悪魔ではないのだろう―――
『家が城の近くなんですか?』
辺りに家などないが
『城が家だよ』
『…え』―――
side3
『聞いたよ堕天使化の事』『親父もお袋もカンカンに怒ってるぜ!どうすんだ?』
仕事を終えてようやく天界へと帰ってこられたらしい幼馴染みのヨーミル、これで上から数えて9番目の位を持つとは思えない弟のチェルザーにずいっと迫られる。
どうするも何もこちらが聞きたい。
==
寂れた舘にて――――
『カプギカージ、シュプッタージ…ついに刻は来た引き続き監視を』
それだけ命ずると悪魔の男は怪しげな方陣の続きを描き始めた。
『御意』『承知しました』
==
『こんにちは』
彼は大化天使、鮮やかな金髪を持つ称号2位ゴールドイエローの天使だ。
『こんにちは…』
挨拶を返すと彼はニコっと笑った。
『今日も日の光が眩しいね』
彼の話は毎度似たような内容なので返答のバリエーションがなくなった。
適当に頷きながらやり過ごしておこう。
それから軽い世間話をしてから満足したのか去って行った。
見た目は爽やかなイメージでその通り裏で愚痴や陰口を言うようなタイプではない。
けれど、どうにも胡散臭い。
『人気のない場で二人きり、世間話をしているとは』
大層不愉快そうな顔で言う。
彼は3位のシルバーダイア、大浄天使だ。
『オマエ等そういう関係だったのか』
別名・話聞かないマンである
聞いた話を勝手な妄想で作り上げる面倒なタイプだ。
『大浄天使様が色恋に興味があるとは、意外でした』
そう言ってからかってみると――――
「ばっ馬鹿な事を言うな!俺は関係ないだろ!!大体色恋沙汰など腑抜けな真似はご面倒被るんだよ!」
なら男女が会話しただけで夫婦扱いする子供のような事を言わないで貰いたいものだ。
色恋沙汰に興味がないといいつつ話題に首を突っ込む辺り興味津々ではないかこの天使
「お…では私はこれで失礼するがこの事は黙っておいてやる安心しろ」
安心も何も勘違いである。
まあこれ以上言っても彼は話を聞かないタチの悪い方なので何も言うまい。
彼の称号にちなんで沈黙は銀だ。
――――
Ⅵ
昨日の出来事を思いだしながら、ふと重要な件を忘れている事に気がつく。
重役が雁首を揃えて現れた事に気を取られ、すっかり失念していた。
あのナイフはなんだったのか、何故自分が狙われたのか、心当たりなどマーベルにはない。
命を狙うなら大清天使を筆頭に偉い方々のほうが適切だし。
第一怪我をしても亀裂程度に切れるだけで、直ぐに治るし、ナイフ一つで死ぬような者は天界はもちろん魔界、堕天界には存在しない。
その上一介の堕天使となった自分が狙われる理由等あるだろうか。
現状考えられるのはあの場で油断していた誰かを痛め付けて別の誰かを間接的に攻撃する事くらいだ。
―――
「なんで誰もいないの!?」
今日は神に感謝する祭りの日、堕天界は中立なので街には3つの種族が入り乱れ、とても賑わっている。
だがしかし誰も聖堂に訪れないとは、許しがたい。
大清天使は天界のトップではあるが、その上に天界、魔界、堕天界の共通神がいる。
つまり我々天界はその神を奉るのが仕事なのだ。
それなのに神に感謝するお祭りには行くのにその神本人を奉りに来ないなど、本末転倒だろう。
〈奉りと祭をかけたのかな?〉
この界域に存在しないような声色が、聖堂に響く。
白いローブを羽織っているのは白い翼と黒い翼を片方ずつ生やした男。
天使でも悪魔でもなく堕天使とも違う存在がいたのか――――――
「貴方は一体…」
〈今はまだ、ゴッドとだけ〉
それだけ伝えると男はすうっと姿を消した。
――――気に入らぬ。
天使、悪魔、堕天使がなかよしこよし――――
「はっ愚かな奴等だ…今に世界の均衡はバラバラに崩れる!!はははははぎゃっ」
高らかに笑っていると何者かが投げたと思わしき石が我輩に激突する。
「やかましい!あさっぱらからうるせーぞ!って誰もいねえじゃねえか」
やはり奴等はデカい
「くそっ…まあよい今に朝など訪れんようになるわ…」
――――――
聖堂に向かっている途中、道端に落ちている小さい何かがあった。
近くに寄って確認してみると太い麺の切れ端のような物に見える。
拾い上げてよく見てみるとそれがなんなのかよくわかった。
珍しい花の紋様が入っている笛である。
厳密には吹けそうもないほど小さな笛なのでアクセサリーか何かだろう。
取り合えずこのままでは誰かに取られるだろうから、拾って落とし物用天使に渡しておこう。
「おい!聞いたか!?」「ああ聞いた!聞いた!」「なになに?なんの話?」
今日も天使の男女数名が噂話で盛り上がっている。
毎度新しい情報を仕入れては広めて、娯楽がないのだろうか―――――
「それがさ“妖精”が出たんだってよ」「妖精…あの妖精が出たのか!?」「うっそあの伝説の妖精が!?」
なんともオーバーでわざとらしい。
ただ私も妖精には興味があった。
古に伝わる架空の精霊達が実在するかもしれない――――
それは確実に凄いことだろう。
===
〔無い―――どこにも無い―――の笛が無い――――〕
どこからかノイズ混じりの声が聞こえた。
「誰か居るの?」
声がした付近をきょろきょろと見るマーベル。
しかしそこには誰もいない。
「おぬし…!」
声はするのに、いない。
「下を見ろ!!」
言われた通り下を見ると薄い緑の髪と金色の目をした―――――
「親指姫?」
小さな何かがいた。
「誰が姫じゃ!!」
手のひらに乗せた親指姫―――もとい親指王子はぷりぷりと怒っている。
パタパタ動く羽が透明でまるで虫のようだ。
「もしかして貴方は…」
あの伝説の―――
「いかにも」
まだ何も言っていないのに―――
「設定では絶滅した伝説の架空の精霊!!」
「なんじゃ設定とは!!」
余計怒らせてしまったらしい。
「それより笛を見なかったか?」
笛、もしや先程拾ったこれの事だろうかと、差し出してみる。
「これって貴方のかしら?」
マーベルは怒られたらどうしようと思いながら彼の反応を待つ。
まあ小さいからダメージはないのだが。
「これじゃ!!」
余程大事なものなのかとても喜んでくれた。
「よかったね」
「何かお礼をしたいのじゃが何も渡せる物がない…我輩には心に決めた者がおるしのう」
心に決めた者がいない場合は身を差し出すつもりだったとは。
「何をやっているのルタバー」
このデカい妖精は彼、ルタバーの仲間だろうか?
「ハニー!」
ハニーとは名前かそれともダーリンの対か?
「心に決めた者ってその妖精さん?」
彼女の羽は妖精の物だがそれにしてもサイズが違う。
妖精はルタバーのように手のひらサイズの筈だ。
「そこのアナタ!」
ハニーは恋人のルタバーを取られたと勘違いしてお怒りらしい。
「あの勘違いしないでね!先に言っておくけど私は貴女の恋人をとったわけじゃないから!!偶然彼の落とし物を拾って届けただけなんだから!!」
「なにそれツンデレのつもり?」
確かにそれっぽい。
突然空間が切り裂かれ、穴が出来る。
間もなくその穴から老いた妖精が現れた。
「教祖がお呼びだ…」
教祖とは彼等の親玉だろうか――――
まるで悪に対する呼び方である
妖精は決して悪の存在ではないのだが何となくそれがしっくり来る。
「貴様は天使称号8位=ピンクダイヤのマーベル」
彼と私は出会ったばかりなのに、なぜ剥奪された位を知っているのだろうかとマーベルが不信に思う。
「我等の望みの為…消えてもらう」
毒々しい模様の巨大な蜘蛛がマーベルに向かって突進してくる。
絶体絶命――――――!?
―――
Ⅶ
「そこまでだ!似非妖精共!!」
マーベルの危機に駆けつけたのはグロズドーとレラーモだ。
「レプリカフェアリー?なんなのそれは」
聞いたことのない名を出され、私は困惑する。
「…さあ?」
「俺にはわからない」
グロズドー、レラーモはしらないようで顔を傾けたままだ。
「わからないのに名前を叫んでいたと…?」
助けてもらっておいてこんな事は云いたくないが、無駄に格好をつけるな。
「いまはそんなことを言っている場合ではない」
「私に願えば助けてあげるよマーベル」
「あなたは…」
背から天使、悪魔、妖精、龍の翼が生えている。
「どこの誰かしらねーがバラバラの羽生えた気味ちわりー化け物に助けてくれなんて言うわけねーよ!」
確かに以前の天使や悪魔、妖精羽までならともかく龍翼はいらない。
「グロズドーさすがに…失礼だ…せっかくの厚意を無下にするのも…」
レラーモがお兄ちゃんらしいことをいっている。
ゴッドは龍翼をむしり取って、レプリカフェアリーに叩きつける。
するとレプリカフェアリーが悲鳴すら上げずに消えた。
「なんで龍翼がレプリカフェアリーに効いたの?」
「…マーベル、悪魔達もこれには触らないほうがいい」
レプリカフェアリーを倒すだけ倒して姿を消した。
「知り合いか?」
「以前、祭壇で見かけただけよ」
それより今、片付けるべき問題は妖精達だ。
「貴方たちに構っている暇なんて、私にはないんだから!」
――――さっさと片付け、私のやるべきことをしなくてはいけない。
私はハートのついたロッドを出現させる。
「可愛い杖ね。そんなもので、私達を倒そうっての?」
「残念ながら、この杖に攻撃する力はないわ」
ハートが真っ二つに開き、桃色の光線が出る。
杖を回転させがらそれをレプリカフェアリー達に当てた。
「ぐあああ」
ハニー達の身体全体が泥々に溶けて、醜くなった。
「どうしたのだハニー!?」
どういうわけか、ルタバーには効果がないようだ。
とうとうレプリカフェアリーたちが完全に粘土のようになった。
「あの、ルタバー……」
「……!?」
様子がおかしい。ハニーを失ったせいだろうか。
「我輩は……一体なぜここに?」
「え?」
ルタバーは頭をおさえて戸惑っている。
彼にはここにいたるまでの記憶がないようだ。
「……大老のところに連れていって話をきいてみよう」
――――
「大老!!」
「お、どうした?」
堕天使の長である大老のトゥノロイは、気さくに迎え入れてくれた。
「ご相談が……」
「なるほど」
私はルタバーの事を説明、大老はなにか知っているようで、顎に手を当て考えはじめる。
「まずその妖精についてだが、彼は恐らくレプリカフェアリーではないだろうな」
「そうなんですか」
大老が言うならきっとそうなんだろう。
「レプリカとやらは我々と同様の大きさだったよな?」
「はい」
「だがそこの妖精だけは違うようだ」
「はい。……ルタバーは本物だからこそ、小さい。ということですか?」
妖精についてはよく知らないが、ルタバーに技が通じなかったことが答えだと思う。
あの技は悪の存在に対し効果を発揮するものだからだ。
「ああ」
私は大老にルタバーをまかせて、元に戻るための準備をする。
―――――
「……あれが堕天使となったと噂の愛天使マーベルか」
「そのようですね~旦那様」
「ランクダウンさせられたのに、あいつは楽しそうだね~兄さん」
「ああ、そうだな……」
「ちょっとイタズラしちゃおうかな~」
――――
―――私は悩んでいた。
元に戻るには、力ある天使に協力してもらわないといけないからだ。
「誰に協力してもらおう……」