~第8話~
「で、いつ学校には来れるんだ?」
「念のためあと3日入院さ。だから来週の月曜日には行ける。」
「お前大丈夫か?その日ってテスト直前だぞ。」
「え。」
俺は寝耳に水と言わんばかりに間抜けな声を上げた。
それを見て3人は顔を見合わせ、にんまりと笑う。
「な、なんだよ。」
「お前のことだから勉強してないだろ?俺は知ってるぞ。どうせ入院中も駄菓子食ってボーっとしてたんだろ?」
急所を突かれ、俺は苦い顔をした。
「やっぱりね。そんな清水君に先生達からプレゼントだよ~。」
気にはなっていたんだ、順子。お前が持っているその紙袋。内緒にしていたつもりかもしれないが、ちらりとノートやプリントが見えてるんだよ。
「良かったなあ、孝也。お前って愛されてるよ。」
佐竹のわざとらしい演技が鼻につく。
渡された紙袋はずっしり重く、覗くだけでも憂鬱な気持ちにさせた。凄まじい威力。
おい、仮にも事故で重症だった生徒に贈るものかよ。鬼だ。鬼の所業だ。
こうして俺は残りの3日間、多くの課題に追われる羽目になったのだった。
ここらへんで俺の家族の説明をしておこうかと思う。
残りの入院生活は皆の考えのとおり悲惨なものだった。はい。
俺の家は建設会社だ。つまりあの親父は肩書きは社長になる。全く似合わないが。
『建設会社 清水』はしがない中小企業だが、まあまあ地元ではいろんな意味で有名で腕は良いと評判だ。
暴走族の頭だった親父が母さんと一緒に会社を立ち上げ、小さいながらも安定した経営を保っている。
詳しくは知らないが、経営を始めるにあたって苦労したらしい。親父が酔って俺に絡んできてはよくぼやいている。
社員は15人。皆良い人達ばかりだ。親父と社員を束ねるのが禄さんで、たびたび暴走する親父のストッパーの役目もしている。とにかく毎日がにぎやかで、大家族って感じだ。
親父はあの通り。頑固で暴君な奴だ。
子供の頃から平手打ちは当たり前だったし、無茶苦茶なこじつけを作っては俺らを押さえつけてきた。
まさに独裁者だ。信じられん。
だが情に大変厚いところがある。うちの従業員の約半分が、職をなくして途方に暮れている所を親父が雇った人たちなのだ。
なので皆親父を親方と呼び敬愛している。
まあ総合すると、不器用な乱暴者ってところだな。悪い人ではない。・・・うん。
母さんの話もしておこう。
よく親父を結婚したなって思うだろ?実は母さんも元ヤンで、結構大きなレディースの頭を張っていたらしい。
すごいだろ?漫画みたいだろ?暴走族とレディースの頭同士がゴールインだぞ?
初めてそれを聞いた時、兄貴と口をあんぐりさせて驚いたよ。
親父はなんとなくそうだとは思っていたが、まさかあんなおっとりして優しい母さんがそんな人だなんて思わなかったな。
でもな、実は俺は勿論、社員の皆や親父でさえも母さんには頭が上がらない。
俺らの中で一番怖いのは母さんなんだ。実は前に・・・。
うっ。思い出したら怖くなってきた。またの機会にしよう。
そして俺には3つ上の兄貴がいる。今は大学生で下宿中なので家にはいない。
名前は清水孝則。俺の自慢の兄貴だ。
兄貴の話もまたの機会にしよう。たぶん近いうちに帰ってくるだろうし。
とまあ、こんな感じで俺は普通の生活を送っています。
周りには普通じゃないって言われるけどね。気にしない、気にしない。
ところで忘れてるだろうが、皆が帰った後、俺は例のペンダントを開けてみることにした。
実はここ最近、ペンダントが小さく震えるのだ。それも日に日に振動が増している。
これはあれか?開けろってことか?俺はそう思ったが、テンボーに従うのもなんだか癪な気がしたのでしばらく放っておいた。でも次第に大きく揺れだすし、夜には机の上で音を立てて落ちるもんだから、他のやつが見たらポルターガイストかと思われてしまう。
お前の執念は認めた。俺の負けだよ、テンボー。