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~第7話~

次の日から朝から晩まで検査が続いた。血を抜かれたり変な装置に入ったり視力検査から体重まで計った。

いやはや、これだけしたら他の病気が見つかるのではと思うほど隅々まで調べ尽くしたって感じだ。

質問もたくさん受けた。頭はどうだとか気分はどうだとか。もちろん記憶がどうのこうのという内容にも触れたので、医者もここ数日の記憶が飛んでいると判断したらしい。

勿論テンボーとのことは言わなかったさ。そんなこと言って入院が伸びるのはごめんだ。


そして現在。俺は母さんが持ってきてくれた10円ガムをくちゃくちゃさせながら、病院のベッドの中で天井を見上げていた。俺のいる病室は大部屋だが、俺のほかに誰もいないので静かだ。

病院での生活はなんとも暇である。もうすでに病院の散策はし尽くしたし、平日の昼間にやっているテレビはサスペンスやワイドショーばかりで俺が見るものがない。

「あぁ、暇だ・・・。」

俺がそう呟いた時だった。


病室のドアが勢いよく開かれ、一気に人の気配が現れた。それも黄色い声とともに。

「おーっす、孝也。見舞いに来たぞ。」

「清水君。久しぶり~。」

「なんだ普通じゃんかよ。」

俺は横目でそいつらの姿を見て、だるそうに体を上げた。

軽く紹介しておこう。口を開いた順から一番とする。



一番。菅谷弘道。幼稚園からずっと一緒の幼馴染で親友。家も近いので家族ぐるみの付き合いだ。

こいつの父親も元ヤンで、親父とは昔からの顔馴染みらしい。本人たちはあまり話したがらないが、昔血を血で洗う伝説の抗争を繰り広げたと聞いた。ともあれ、今ではよく酒を飲む二人である。

そして弘道も喧嘩が強い。俺といい勝負なんじゃないだろうか。試したことがないのでわからないが、本気でやったら負けると危機感を覚えたの唯一こいつだけだ。



二番。金谷順子。俺のクラスの学級委員だ。

俺は普段ヤンキーのように振る舞ってはいない。気質がそうなだけで、どこにでもいる普通の男子高生だ。なので怖い存在として恐れられているわけではないので、普通にいろんな人と話す。

順子は女子の中でもよく話す方だ。統括力がありしっかりでいるのでクラスのまとめ役にもってこいの人材だ。背が低くて髪が短い元気っ子ってイメージだ。運動神経抜群で、陸上部のエースでもある。



そして三番。佐竹実。おれの友達。

同じクラスでよくつるむ奴だ。こいつは相当な変わり者で有名だ。

俺らの高校は可もなく不可もない中の中の偏差値の学校だ。よほどの馬鹿でなければ入れるのだが、こいつは試験をオール満点でクリアし、あろうことか有名な進学校からのお誘いを蹴って入学した奴なのだ。

なので入学当初から名前は知れ渡っていたのだが、その後使われていない教室を占拠し「海洋生物研究会」なるものを設立した。たいそうな名前だが、放課後に集まって馬鹿騒ぎしてるか、水族館を巡っているという、なんともだらけた活動をしている。

部員は4名。今年入った一年生が二人と、俺だ。元々帰宅部志望だった所を、佐竹がむりやり入部させたのだ。まあどうでもいいが。楽だから別に不満はない。

その他色々と話題を呼び、学校で佐竹の名を知らない奴はいないとまで言われている。



「びっくりしたんだからなあ。お前が事故ったって親父から聞いてさあ。お前の家も大騒ぎしてたし。」

「それにしても元気そうで良かったよ。学校中大騒ぎだぞ。かなり危険で危篤状態だって。」

「大げさだな。どうせお前が広めたんだろ。」

「ひどいな。俺がそんなことすると思うか?」


思うから言ってるんだ、佐竹。

お前はかつて突拍子もない噂を流して「どれだけの速さで噂が広がるか」なんて研究をした前歴の持ち主だからな。


「でも良かった、元気そうで。皆心配してるよ。本当は来たがってたけど大勢で押しかけるなって先生に言われたから私だけ来たの。これ、皆で買ったお花。飾っとくね。」

順子が持っていたのは、紫色の花だった。

「おぉ、ありがとう。ええと・・・。」

「ラベンダーよ。安眠効果があるんだって。事故にあった人ってその時の記憶がフラッシュバックしてよく眠れないっていうでしょ?だからぴったりだと思って。」

気の使い方が野郎とは違うところがさすが女子だ。事故の記憶がないから驚くほどぐっすり眠れているのだがその気持ちが嬉しいのでありがたい。

ちょうど母さんが持ってきていた手ごろな花瓶があったので、順子はラベンダーを上手に生けた。


「で、どうなんだ。具合は。顔色はよさそうだけど。」

弘道が俺の顔を覗き込んで言った。

「もう元気だよ。検査が多くて入院が長引いているだけ。あ、でも少し記憶が飛んでるんだ。」

俺はここ4日間の記憶がないことを3人に話した。勿論事故の記憶がないことも。

3人は少し驚いているようだったが、なぜか安心したような表情を向けた。

「そうか。でもそれだけで済んでよかったな。事故のことなんて忘れてたほうがいいじゃないか。」

「そうよ。結果オーライよ。学校のことは私たちがフォローするから。」


俺はなんて友達に恵まれているのだろう。うぅ、感動で涙が出そうだ。

でも友よ。俺はその忘れててもいい記憶を思い出さなければいけないんだ。天使との契約だからな。

あぁ、そのことを言えないなんてなんとも心苦しい。


「4日間だけ忘れてるなんて面白いな。いったい何があったんだろう。宇宙人にでも遭遇したのか?」

あぁ分かっていたよ。このいい空気をぶち壊すと分かっていたよ、佐竹。

だがお前の予想は外れたな。宇宙人じゃない。天使にあったんだ、俺は。




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