~第5話~
テンボーが手をかざすと、小さなピンク色の煙を上げてペンダントが現れた。
銀色であしらわれた、ひし形の装飾品がついている。シンプルで品のいい作りだ。男が持っていてもおかしくはない。
俺がそれを手に取り眺めていると、テンボーが言った。
「ひし形のそれは二重になっていてな。動かすと中身が見えるようになっている。」
横から見ると、確かに二重になっていた。
恋人がよく持っている、写真が入るハートのネックレスみたいなものか。
ひし形をゆっくりずらすと、中には蒼く丸い宝石のようなものが埋め込まれていた。
「なんだ?これ。」
「今はただの石だが、下界に戻ってそれを開くと光を放つ。俺の幻影が現れるから何かあったらそれを使え。それは他の奴にも見えるから気を付けろ。それと常に持っておくように。なにかあったらすぐに対処できるようにな。」
俺はペンダントを首にかける。十分な長さがあるので、服に隠れて目立たない。
「いいか。必ず見つけるんだぞ。俺の地位もそうだが、多くの人間の運命が狂ったら大変なことになる。」
「分かったよ。そんなに顔を近づけるな。」
迫ってくる顔から俺は目をそらした。品は良くても、見た目がおっさんなので不快になる。
「それと俺のことは誰にも言うなよ。本来天使は人間に認識されるべき存在じゃないからな。」
「分かったって。いい加減離れろ。」
どうにかして押し返し、俺は大きく息を吸い込んだ。
「よし。じゃあそろそろ帰すか。とりあえずお前の今の状況だけ伝えておく。お前は車にはねられて意識不明の重症だ。死んでたら事故死と断定されていた。」
「事故死・・・。」
いまいちピンとこない。記憶がないからかもしれないが、俺は小さい頃から交通ルールを文字通り叩き込まれたので日頃から気にかけていたはずだ。
「そして今は病院に運ばれている。戻った時は病院のベッドの上だ。分かったな。」
「あぁ分かったよ。」
「よしじゃあ目を閉じろ。」
テンボーが俺の目の前に手の平をかざす。俺は最後になるかもしれないこの貴重な景色を目に焼き付け、ゆっくりと目を閉じた。
「10秒ゆっくり数えろ。そしたら目を開けていい。では幸運を祈る。しっかりやれよ。」
その言いぐさにイラッときたが、目を閉じることに集中する。
10、9、8。
「いいか、開くなよ~。」
7、6、5。
「絶対に開くなよ~。おい、聞いてるか?」
うるさいな。4、3、2。
「分かったら返事をするんだ。常識だろう。」
うるさい!
1!
空気が変わったの分かった。
その瞬間、意識がどこかに飛んでいき、テンボーの声も聞こえなくなっていた。
「先生!脈が回復してきています!心拍も戻りつつあります!」
「なんと言うことだ・・・。信じられん。容態が安定してきている。」
「孝也!!おい聞こえるか!?孝也!!」
「お父さん、もう大丈夫ですから落ち着いてください!!重症の患者さんですよ!」
「親方落ち着いてください!孝也は助かったんです!いい加減にやめてください!」
「そんなこと言ってまだ起きねぇじゃねえか!起きろ、孝也!」
「すぐに起きる訳ないでしょ!姐さんも止めてください!」
「孝也!よかったー!」
「あぁ、姐さんも周りが見えてない・・・。」
「おら起きろ、孝也!いい加減にしやがれ!!」
「親方、やめてください~!!」
あぁ、うるさい。病人がいるっているのに、なんだこの騒がしさは。
でもどうやら俺は戻ってきたようだ。再びこの世界に。
親父がうるさいのでそろそろ起きるか。頭がぐわんぐわん揺られて気持ち悪い。
これから始まるわけだ。俺の探し人ライフが。
あぁ、面倒だ。私です、って名乗り出てくれないだろうか。いや、ないか。
まぁ、とりあえずまずは。
このくそ親父をぶん殴ってから考えよう。