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~第4話~

「俺からも一つ質問だ。」

「なんだ?俺の華麗な経歴でも聞きたいのか?」

「お前のその姿はなんでそうなった?」

「ん?」

天使は自分の身なりを眺め、疑問そうに首を傾げた。

「どこか変か?確かに今日は少し髪のセットが上手くいかなかったが…。」

「そういう問題じゃねぇ!お前毎日鏡見てるか?おかしいって思うだろ。それとも生まれつきなのか?」

「失敬な。身だしなみは人一倍気を付けている。この凛々しい顔、素晴らしいではないか。下界のある俳優をがモデルなのだ。今までで一番気に入っている。」

「何!?顔って変幻自在なのか?」

俺は思わず天使の顔を掴み、あちこち触りまくる。

「ぎゃっ!何をする!」

「嘘だろ。そんなことできんのか。じゃあ俺らが想像してるあの天使もそうなのか・・・。」

ほっぺをつねり、頭をわしわしとまさぐると、天使は我慢できなかったのか、適当に掴んだ俺の人さじ指を思いっきりひっぱった。

「いって!なんだその馬鹿力。」

俺は天使から手を離し、引っ張られた指をさすった。

「人に失礼な行いをしておいてその言い草はなんだ。全く親の教育がなってない。」

「お前、人じゃないだろ。」

「細かいことは気にするな。」

先ほども聞いた気がするが、それは気にしないでおこう。


俺は天使の体と顔を交互に指差し言った。

「頼むからその組み合わせは変えてくれないか。見るたびに吹き出しそうになるんだ。」

「何?変か?」

「変だ。すごく。」

断言してもいい。100人中100人が笑うか、懸命に口を抑えて黙るだろう。

「気に入ってるなら顔は変えなくていい。せめて体はそれじゃないほうがいい。そうだな・・・。スーツを着た成人男性ならどうだ?」

すると天使は首を傾げつつ、ゆっくり手をかざす。すると突然可愛らしい爆発のような音がしたと思ったら、そこに本が現れた。30代男性向けの、よく見るファッション雑誌だ。

ペラペラとページを開き、中身を物色している。

「スーツというのはこれのことか?」

雑誌を覗き込み天使が指さすものを見ると、今人気のモデルが完璧にスーツを着こなしていた。うっすらと白のストライプが刺し色ではいった、濃紺のおしゃれなスーツだ。

俺としては中年のサラリーマンが着ているようなよれよれのものを想像していたが、まあそれはどうでもいい。


「そうだ。このモデルみたいなスタイルでスーツ着た方が絶対かっこいいぞ。」

「そうか?では・・・・・・。」

天使はその場でぐるりと一回転する。すると先程のような爆発が起こり煙が体を包む。だがそれは一瞬で、再び天使に目を向けた時、そこには先程と同じ顔をした、八頭身のダンディなおじ様が立っていた。若者向けと思われたスーツも良く着こなしている。

「おぉ、いいじゃないか。さっきよりイケてるぞ。」

「そうか?ならいい。」

おだてられてその気になったのか、天使は己の体を物色しまんざらでもない表情をしている。

見た目が気になって話が集中できなくなるのはこれで回避できた。正直今まですごく我慢してたんだ。

「いやでも天使がその見た目っていうのは問題あるのか?」

「問題ない。俺たちは見た目は自由だ。お迎えの奴らは規制されているが。」

「お迎え?」

「神を信仰していた人間や幼い子供が死んだ時に迎えに行く奴らの事だ。そいつらはさっきの俺みたいな体で赤子の顔なんだよ。」

それを聞いて、俺の頭の中は完全に『フランダースの犬』の映像が流れた。あの最期はどんな極悪人でも絶対泣く。

うっ。思い出したらまた涙が出そうだ。家に帰ったらもう一度見直そう。


「あ、あともう一つ。」

感涙しそうな所を何とかこらえ、俺は天使を見る。

「お前の名前はなんだ。呼び方が分からなかったらこれから面倒だ。」

「名前?言っただろ。俺は第23番執行官だ。」

「それは役職だろ。名前だよ。」

「そんなものはない。」

俺は目を開いて文字通り驚く。

「必要ないからな。俺は23番執行官。それだけで充分ではないか。」

「いやでもそれは呼びづらいなあ。」

俺は顎に手を当てる。なにかぴったりな名前はないだろうか。


自己中気質で単純。変な所で癇癪を起こし怒りだす。口調とは裏腹の間抜けな姿。

すぐに頭に浮かんだのは、巨大な赤ん坊の姿だった。

「坊だ。そうだ。お前、坊みたいだ。」

天使は訳が分からず首を傾げる。中年男の姿なので、その仕草は恐ろしく似合わない。

『千と千尋の神隠し』なんて言ってもきっと分からないだろう。

ここでそれが出てくるなんて、さすがジブリマニアの俺。

「いやでも、魔女の子供だしなあ。仮にも天使なんだから・・・。」

「仮にもは余計だ。」

「あ、天使の坊だからテンボー。いいじゃん、決定。」

天使の文句をよそに、俺は言った。

「なんだそれは。勝手に名前なんぞつけおって。」

「構うもんか。これからは勝手に呼ばせてもらうぞ。お前はテンボーだ。」

びしっと指を差し、俺は高らかに宣言した。

「・・・・・・勝手にしろ。」

口ではそう言ったが、天使ことテンボーはやはりまんざらでもないように顔をニヤつかせた。

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