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~第2話~

「・・・・・・。」

黙って顔を眺めている俺に、天使は目を細めた。

「聞こえていたか?」

「あぁ、俺地獄耳だから。」

「天国で地獄という言葉を発するとは・・・。まあ別にいいが。」

「なんでそんなことをしなきゃいけないんだ。」

俺のおかげで命拾いした奴を探せだと?

「大体おれは被害者だ。そんなこと頼まれる筋合いはない。それに天使なんだからそれくらい自分でできるだろ。なんか手をぱっとかざせばそいつだけが光るとか、お前らだけにしか見えないオーラがあるとか。」


すると天使は面倒だと言わんばかりに深いため息をついた。

「まただよ。天使だから弓と矢を持ってるとか不思議な力を持ってるとか理想論を押し付けるんだ。俺らはそこまで万能じゃない。迷惑なんだよなあ、そういうの。」

「なんだ、じゃあ何もできないのか?」

「できないわけじゃない。だがお前の言ったようなことはできない。それは俺の管轄外だ。」

「管轄外?」

「天使って言っても色々いるの。いろんな役割があるんだよ。俺は執行官。人を天に送る手続きをするんだ。それ以外のことは何もできない。」

「じゃあ専門の奴に頼めばいいじゃないか。俺よりうまくやるぞ、きっと。」

すると首が千切れんばかりに勢いよく横に振った。

「だめだ。他の奴らに知られたら俺の階級が落ちる。」

「階級?」

「天使にも階級があるんだよ。100人いる執行官の中で俺は第23番執行官だ。つまりエリートなんだ、俺は。」

「23番?中途半端だな。せめて10番以内に入ってなきゃ、すごいって実感が沸かねえよ。」

「なんだと!すごいことなんだぞ。今まで血のにじむ様な努力をして積み上げてきた俺の実績をバカにしやがって・・・!」

わなわなと振るえ顔を赤くし始める天使を見て俺は慌てた。


怒った拍子に変な力が発動しそうで怖い。なにせ人間ではない生物なのだ。

「わ、悪かったって。すごいことはわかったよ。」

すると赤かった顔が元に戻り、穏やかな表情を見せる。

「分かればよろしい。」

・・・・・・こいつ、単純だ。

俺は心の中で呟いた。

「俺は今まで積み上げてきた努力をこんなミスで失いたくない。だからお前に頼んでるんだ。俺たちは下界に仕事以外で関わることは禁じられているから手も足も出せない。」

こんなミスで片付けられてしまった。人の命を何だと思ってるんだ。

「お前の事情はよく分かった。でも俺は残念ながらそこまでお人好しじゃない。早いこと元の生活に戻りたいんだ。」

「何、断るというのか。ここまで話を聞いておいて。」

「お前が勝手に話したんだろうが。」

「だめだ。引き受けてくれなきゃ下界に戻さない。」

「おい、さっきまで帰してやるって言ってただろうが。」

俺は思わず胸座を掴むが、天使は頬を膨らませて子供のように目を背けるだけだった。

「少々手間だが、変更届を出せば死んだのがお前でも別にいいんだ。俺の階級も落ちるだろうが、間違ったことに比べれば痛くもかゆくもない。」

「この野郎・・・っ!」

これ以上にないくらいに睨みつめると、さすがに天使の顔が引きつる。


どうだ。元ヤンの親父に仕込まれてるから喧嘩はそれなりに強いんだぞ。

だがそこは人間ではない天使は引かなかった。顔は怯えているものの、口調は変わらない。

「これも何かの縁ってことで頼まれてくれよ。人助けだと思ってさ。」

「お前、人じゃないだろう。」

「細かいことは気にするな。」

調子に乗って親指を立ててみせる所が、さらに俺の神経を逆なでした。

瞬間的に左手で拳を作るが、すんでの所で止める。

「………、ちゃんと俺を戻してくれるんだろうな。」

「それは勿論。引き受けてくれるならな。」

「俺がその場しのぎで引き受けて放り出したらどうする。」

「それはその時になってからじゃないと分からない。」


俺は馬鹿じゃない。こんな非現実的な生き物相手に刃向ってただじゃすまないことは目に見えている。

ただでさえ間違って人を死なせるような奴だ。


「こんな経験滅多にできないぞぉ。どうだ、頼まれてくれないか。」


にっこり笑うおっさん顔の天使に、俺はひきつった笑いしかできなかった。





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