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⑥ めいど で ごほうし しましょう

 男と幼女は宿やどに戻った。

 虫の声が聞こえる深夜、男は時々にお尻をさすりながら幼女と会話している。


「オレ達はあさってから、ゴラドンラノーム城に侵入する事にする。そこでだ、城でアルバイトということになった」


 男が説明しながら本をポンと叩く。本の中から、コックのエプロンと、メイド服が飛び出してきた。


「いいか、オレは城の厨房ちゅうぼうから侵入して、お前はお手伝いメイドとして侵入するんだ」

「わーい、新しい服だ! フリフリしてて、かわいいー!」

「話を聞け! それで メイドとなって侵入し、その日の夜のうちにニセ王子をおどして人質にとり、摂政せっしょうおどすんだ。すると、オレ達の影の支配が完成と言うわけだ」

「あれ? 王子は偽物にせものだったの?」


 男の顔から色が抜けた。何かつらいものを噛み殺しているような苦い顔になる。

 少し黙ってから、幼女の質問に答える。


「……ああ、そうだな。ちなみに本当の王子の名前は、セアート・ゴラドンラノームって名前だ。調べると、今いるのは別人の偽物にせものらしいことが分かった」

「そっか。おお、なんだか これからやるのって、わたし達 悪役っぽいね」

「その通りだ。それをスムーズに行うための練習を今からする。オレはお前の上司の役をやるから、お前は無難ぶなんに答えるんだ」

「えー、なんで私だけ?」

「オレはあの城のことをよく知っている。ネックなのはお前だけだ。さあ、やれ」


 男はピシっと背筋を伸ばして、幼女にこうべを下げた。

 男の姿に凛とした執事しつじの姿が重なった。その風格は長年にあるじに付き添ってきた熟練の執事に他ならない。男が執事のフリをしながら、幼女に話しかけた。


「はて、小さなお嬢さん。見知らぬ顔と言うことは、君が今夜からの手伝いさんですね。はじめまして、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします!」

「ふむ、元気がよろしい。では、あなたがお手伝いしている掃除の当番はどこですか?」

「えー、知らない!」


 男は適当に流せ、と幼女へ目配せした。上手に嘘をつくトレーニングを幼女にすすめる。


「えっと、お部屋のお掃除をしています!」

「怪しいですね。具体的にはどこの部屋でしょうか?」

「窓のある部屋!」

「……たくさんありますが?」

「えっと……、おりゃー!」

「ぐはぁ――ッッ!」


 幼女のパンチで、男がきりもみ回転しながら宿屋の壁にぶつかった。ガタリと壁にかかっている絵画が揺れ落ちる。幼女が大人を殴り飛ばせる脅威きょういの身体能力を見せつけた。

 男が悲痛のうめき声をあげながら起きる。


「殴るな! やりなおし!」

「えー、本気を出すと気を失わせられるから、いいと思ったのに」

「人がいっぱいいるところかもしれないだろ。えーと、さて、どこの部屋の掃除ですかな?」

「じゃあ、窓のない部屋!」

牢獄ろうごくかよ!!」

「とある人物の血糊ちのりをお掃除してました。詳しくは秘密事項ですので……」

「罪人に死刑を執行しっこうしてた!? 死んでるの!? 怖い城だな!!」

「秘密事項で きけないし、深くききたくない内容でしょ? とっても いいアイディアだと思うっ!」

「ああ、もうっ。まあいい……。あなたが担当している 掃除道具は何ですかな?」

「バケツです! お水をいっぱいんでおきました!」

「なるほど、たしかにそれなら今 持っていなくてもあやしくありませんね。はて、そのバケツはどこにありますかな?」


 幼女が心外そうな顔をした。


「どこって……おじさんが、今 かぶってるのに?」

「オレ、びしょ濡れじゃねーかよ! どんな変態だよ!? そんな嘘つくな!」

「えー、この場なら上手な嘘だよ」

「城にいるときのためのウソを言えー!」


 男が息を切らしながら大声でツッコミを叫んだ。

 疲れた声で男は続ける。


「ふふ、元気なお嬢さんだ。きみは一人ですかな? 迷子なら私が案内しましょうか?」

「ライラックがいるよ、一人じゃないもん!」


 幼女が元気よくぬいぐるみを取り出した。


「おやおや、失礼しました。それでは、お嬢さん方 私がお送りさせていただきましょう。帰り道はどちらですかな?」

「あっち」

「はて、そちらは行き止まりだった気が? もしかして、適当に指をさしたのかもしれません。怪しいですなあ、本当にそちらでよろしいですかな?」

「だ、だいじょうぶです! えーと、あっちの窓から飛び降りればすぐに一階です!」

「すぐにあの きじゃねーかよ!」

「ショートカットコースです。メイド長にはナイショですよ♪」

「人生をショートカットしすぎだ! 生き急ぐな! やり直し!」

「えー、わたしならできるのにー!」

「出来ちゃダメ、隠しとけ! さて……、おや、もしや お掃除の担当ではないのでしょうか?」

「うん、お料理をいっぱい運んだよ!」

「なるほど、では今日はどんな料理でしたか? 運んだメニューを覚えていないと怪しいですね」

「うーんと、えーと、運んだのは 飲み物だったから忘れちゃいました」

「それならメニューを覚えていなくても不自然ではありませんね。さて、あなたはどんな飲み物を運んだのですか?」

「タバスコです!」

「飲めるかー!! 即答するな!」

「あわわっ、言い間違えました! タバスコ入りのトメトンジュースくじびきの5本セットでした」

「罰ゲームかよ! 城でなに遊んでるんだよ! 誰だよ、働けー!」

「働かない人に持って行きました、えーと、王子さまです!」

「王子、お城で くじ引き飲み物ゲームをしてたのか!?」

「5本全部、王子が飲んでました」

「ひとりでかよ! さびし過ぎるよ、王子!」

「気をかせて、ぜんぶタバスコ入りの当たりにしておきました!」

「気がいてねぇー!!」

「しーっ、です。ひとりで王様ゲームをしていたので、それ以上 王子をめないであげてください」

「お前が王子をめてるんだろが! 王子、そんなこと言いふらされたら泣いちゃうよ!?」

「あっ、タバスコ、あまってますけど いりますか?」

「いらねーよ! あまってるのは 王子だよ! ひとりぼっちだよ!」

さびしがっていたので、行ってあげたらどうでしょうか。窓のない部屋にいましたよ?」

「王子、牢獄ろうごく監禁かんきんされてるの!?」

血糊ちのりは拭いておきましたので、安心して行って下さいね」

「死んでたのは 王子だったー!!」


 幼女との練習は、夜が明けて また日が沈んでも続いた。





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