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4月8日(日)。現状確認

今回は少々グロテスク(?)な表現があります。早い話が人死にに関する話をあっけらかんとしてしていますので、苦手な人は気を付けてください。

 約束の日曜日。鷺ノ宮家に最初に到着したのは、寮生である紗耶加、晃一郎、敬の3人だった。鷺ノ宮家のお手伝いさんに案内されてきた3人を見て、恭子は笑顔で挨拶をする。


「こんにちは。3人とも、お早いですわね」

「早めに出て来たからね。近いし」


 晃一郎はにっこり笑って言った。確かに、鷺ノ宮邸は魔法学院から徒歩15分圏内ですけどね。定めた集合時間まであと30分ある。

 あと2人、悠李と碧が来るのを待つばかりだが、この2人は少々家が遠いので、来るのに時間がかかるのだろう。それは仕方がない。


 先におしゃべりをしていると、使用人が今度は碧と悠李の2人を案内してきた。恭子は少々驚く。


「まあっ。2人で来たんですの?」

「ああ……兄と弟を振り払えなかったのだよ」


 悠李が苦笑気味に言った。恭子は、悠李の兄弟とも面識があり、特に弟とは仲がいい。ひと学年しか違わないし、彼も幼馴染と言っていいだろう。ただ、今回の件で、彼がループ現象に気付いているのか今のところ不明なので、彼はここに呼べなかった。


 なので、悠李は碧にヘルプを要請したということだろう。碧に手伝ってもらって兄弟を振り払い、一緒にここまで来た、と。

「それはお疲れ様ですわ」

「ああ。……香坂。貸一つだ」

「構わないよ。迷惑をかけてすまなかったね」

 何とかいつも通りのハンサムスマイルを浮かべて、悠李は碧にそう返した。幼馴染の恭子にも、この2人の関係性はいまいちよくわからない。


 全員そろったところで、恭子は使用人をすべて追い出し、監視カメラを止める。さらに用心して晃一郎に覗き見・盗聴防止結界を張ってもらった。これで安心して話ができる。


「新しく始まって1週間か……何か不自然なこととかはあったか?」


 何となく生徒会長の碧が仕切る。場合によっては恭子が仕切ることもあるが、上に立つことになれた碧に任せて、恭子はのんびりと紅茶を飲んだ。


「すでに去年……っていうか、前回と違うところはちらほらあるな。今回は入学式後に新入生の魔法使用による喧嘩が起きてねぇな」

「あ、それなら俺も。男子新入生が女の子に告白していざこざっていうのがあった。1回目以降、お目にかかってない気がするんだけど」


 風紀委員として校内を歩き回った敬と晃一郎が言った。4月にループの起点、もしくはリセットされるので、8日の今日は始まってから1週間。眼を凝らしていれば、すでにちらほら違いが見つかるはずだ。


「僕の兄弟は相変わらず、何を考えてるかわからないから、この世界が繰り返していることに気付いているかわからないんだよね」

「うちの兄もだ。お前の所に比べたら読みやすいが、そもそも、研究所から帰ってこない」


 悠李の兄弟も碧の兄も相変わらずのようだ。もしかしたら、何かつかんでいるのかもしれないが、2人の兄弟はそれをつかませないらしい。


「どうすりゃいいんだろうな。1年が終わる前に、またループするのか決まるのか? それとも、最後か?」


 敬が腕を組んで言った。紗耶加が手をあげて主張する。

「何にしても、恭子が死ぬエンドはなしで!」

「でも、わたくしが死なないとループを続ける可能性もありますわ」

「恭子、君、今まで何回死んでいると思ってるんだい? 君が死んでもループし続けているんだから、君の死とループは関係ないという結論に至っただろう?」


 悠李に冷静にツッコミを入れられて、恭子は「そう言えばそうでしたわ」とおとなしく引き下がった。しかし、これを言うことも忘れない。


「でも、あなたの死も世界が繰り返していることに関係ないようですから、早まらないでくださいね」


 恭子に釘を刺され、悠李は苦笑した。彼女は少々無鉄砲なところがあるのだ。彼女がショートレンジでの戦闘を得意としていることに関係があるのかもしれない。


 そして、恭子がこんなことを言うのはちゃんとした理由がある。


「死に方だけ見れば、悠李の方がよっぽど衝撃的だったよね」

「スプラッターだな」

「どこの猟奇殺人かとは思った」


 晃一郎、碧、敬の順で好き勝手言う。悠李はハンサムスマイルをひきつらせて反論した。

「悪かったね。でも、わた、僕が死んだのは4回目の1回だけだよ」

 あ、今、『私』って言おうとした。素が出ると、彼女が一人称が『私』になる。まあそれはともかくだ。


 恭子は、4回目のループの時、死ななかった。そして、代わりのように死んだのが悠李である。彼女の死に方がまた衝撃的だったのだ。男子3人の発言はあながちはずれではない。


 過去5回のループで4回死んでいる恭子だが、それはどれも病院のベッドの上だ。もともと病弱だが、その病状が悪化して亡くなる、というパターンが多かったからだ。亡くなるのは多少日にちが前後するが、卒業式から1週間ほどたってから。


 4回目のループで死んだ悠李は、いわゆる他殺だった。殺害現場は学校内。広い薔薇園の一角で、仰向けに倒れているところを発見された。発見したのは薔薇園の薔薇を管理している業者だ。死因は殺傷による失血死が主とみられた。


 これだけ聞くと、普通の殺人事件だが、問題は彼女の遺体から内臓が引きずり出されていたことだ。そして、遺体を囲むように満開の薔薇の花が散らばっていた。……という、写真を見せてもらった。ショックだ。ショックすぎる。


「香坂。お前、だれに殺されたのか覚えてないのか?」


 碧が尋ねると、悠李は苦笑気味に言った。


「それについては前回のループの時の会議で言ったはずだよ。思い出せないんだよね。ただ、1人ではなかった気がするけど」


 おそらく、彼女が犯人を思い出せないのは殺されたショックによる衝撃が原因なのだろう。あの時、少女猟奇殺人だ、と騒がれてすぐに捜査本部が立ち上がったが、犯人は不明。卒業式前だったので、式は中止された。

 恭子の死はある意味運命だが、悠李の死は仕組まれたものであるような気がしてくる。


「……まあ、香坂殺すなら、5人以上は人手がいるだろうな」


 悠李の全身をざっと見て、敬が意見した。碧のようなロングレンジでの戦闘方法を持っているならともかく、近距離で悠李と戦おうと思うならそれなりの人数が必要なのは理解できる。それでも、彼女がそう簡単に後れを取るだろうか。ちなみに、自殺した可能性は考えていない。


「……とにかく、恭子と香坂はできるだけ単独行動禁止」

「あら。なら、ユウと2人でいますわ」

「それだと意味ないだろ。お前に何かあったら、香坂がかばう。よって、香坂の死亡率が上がる」


 まあ、それはそうですわね、と恭子はうなずいた。「そんなに弱いつもりはないよ」という悠李の主張は碧に無視された。悠李の無鉄砲が治ったら考える。


 とりあえず、死亡云々の話しは置いておき、現状確認に移る。


「前回の時、一応、日記付けてたんだけど、4月1日以降のページが真っ新に戻ってるの。前回もそうだったから、きっとそう言う仕様なのね。リセットされてる」


 ぱらぱらと実際に書いていた日記を持ってきたらしい紗耶加が言った。確かに、そのページは白い。


「俺も、秋ごろに無くしたはずの腕時計が何事もなかったかのように机の引き出しに入ってた。リセットされた上にループしてるぜ、これ」


 敬もつけていた腕時計を外してそれを恭子たちに見せた。いや、見せられてもわかんないけど。


「あと、俺の死んだはずのじー様から電話がかかってきた。まあ、死んだはずの人間が目の前にいるから、そんなに驚くことじゃないのかもしれねぇけどな」


 ちらっと敬が恭子の方を見る。眼があったので、恭子はおっとりとほほ笑んだ。

「やっぱり、リセットされているようですわね」

「まあ、これから起こることは大体わかっていると思うけど、各自対応ってことでいいんじゃないかい? とりあえず、春学期の間はそんなに大きな騒動はなかったと思うし」


 悠李が首をかしげて言った。無鉄砲だが、頭はいい彼女だ。冷静になれば見えてくるものもある。

「じゃあ、夏休みにもう一度対策会議だな……あと、各自気づいたことはメモる。自分1人で対応できないようなことは誰か人を呼ぶ。特に恭子と香坂」

「碧、しつこいですわ」


 さしもの恭子も碧にツッコミを入れた。言われなくてもわかっている。悠李のことは恭子が監視しておくので大丈夫です。ついでに彼女の弟にも頼んでおこう。

「あと、月に1回の定例会議を開かない? 学校でも、恭子のうちでもいいけど」

 紗耶加が手をあげて意見した。賛成、と声がそろう。満場一致。月の第2日曜日を定例会議の日とした。予定が入ったものは、前日までに連絡の事。


 と、決めて、解散となった。寮生の3人は徒歩で、家の遠い碧は電車で帰るらしい。一応車で送ろうか、と言ったのだが、考え事をしたいからいい、と断られた。


 そして、恭子と泊まっていく悠李だけが残る。


 鷺ノ宮家も、悠李との付き合いは長いので、娘が1人増えた、くらいのノリで接していた。恭子も一人っ子なので、悠李といると姉妹が増えたようでうれしい。どちらが姉かは割愛させていただく。




「ユウ。もう寝ましたか?」


 大人が3人は余裕で寝られそうなベッドで、恭子と悠李はともに横になっていた。幼いころは碧も含めて3人でよく寝たが、さすがにこの年になると碧は参加してこない。割とノリのいいたちである恭子と悠李は一緒に寝ているが。

 こちらに背を向けている悠李に尋ねると、「起きているよ」と小さく返事があった。恭子は話を続ける。


「このループ……ユウはどう考えていますか?」

「一介の魔術師に出来るような規模のものではないよね」


 一息に答えた後、悠李があくびをする気配があった。時間を操作する魔法は禁忌である。何が起こるかわからない。だからこそ、政府から厳しく制限されているのだ。

 制限されている魔術は他にも多くある。大量破壊が可能な攻撃系魔法、死者を復活させる命に関する魔法、そして、人を洗脳する精神系魔法。大きく分けると、この3つだ。


 死者を復活させる魔法に関しては、すでに抵触している気がするが、そこは考えないことにする。死んだことのある2人は、今、生きて背中合わせにベッドにもぐりこんでいるのだから。


 しばらくして、悠李の呼吸が規則正しいものに変わった。眠ったのだろう。恭子は寝返りを打って悠李の短い黒髪の頭を見つめた。


「……わたくし、あなたを疑っていますわ……」


 それは警告のようにも懺悔のようにも聞こえた。とても小さな声だった。


 そう。恭子は悠李を疑っていた。彼女は、なぜ殺されたのか、殺した相手もわからない、と言った。それは、ありうることだろうか? 彼女には魅惑魔法も洗脳魔法も、記憶改変魔法すら効かないのに。


 彼女がこのループの犯人かはわからない。恭子が知る限り、悠李には時間に関する魔術は使えない。ただ、彼女が何らかの嘘をついているのは確かだと思う。




 なぜ、彼女は殺されたのか。


 なぜ、彼女は誰に殺されたのか「思い出せない」というのか。




 恭子は、そこに答えがある気がしてならない。





ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


次は7月10日、木曜日に更新予定。

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