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9月15日(土)。体育祭、魔法競技

 体育祭も2日目。魔法競技になると、土曜日なのも重なって観客が多くなる。生徒の家族のほか、身分を証明するものを持っていれば中に入ることができる。かなりセキュリティーが厳しくなっているが、こんなものだろうと思う。


 一般競技であった昨日より、魔法競技を行う今日の方が忙しい。恭子が出場する魔法障壁耐久競技はプログラムの最後になるので、例によって恭子は本部テントで運営係だ。生徒会長の碧と、副会長の紗耶加、さらに恭子がすべてを把握していることになっているので、何かあればこの3人の所に情報が来ることになっている。


 プログラムは、


三メートルハードル走

魔法陣形成競技

魔法剣術競技

魔法射撃競技。ここまでが午前中の競技になる。


 午後から、


魔法障害物競走

魔法操作競技

魔法障壁耐久競争。


 計7種目。1人につき、出場可能競技数は2つまで。待ち時間が多くなるが、見ていても楽しいものが多い。


 まず、3メートルハードル走だ。これに関しては、準備が3メートルの障壁を5つ用意するだけなので比較的簡単である。恭一郎、氏家、千尋がこの競技に参加していた。


 魔法競技に関しては、学年別ではあるが、男女別になっている競技と、男女共同の競技がある。3メートルハードル走は男女別競技である。3年男子では氏家と恭一郎がいい勝負で、2年男子は千尋がぶっちぎりだった。1年男子は黒部幸弘が出場していたが、惜しくも2位だった。



 続いて、魔法陣形成競技。これは、指定した魔法の魔法陣をいかに早く、正確に形成できるか、という競技だ。一見地味だが、魔法を理解している者が見ると、「おおっ」となる魔法陣が毎回作られる。

 これは男女共同競技だ。3年では紗耶加が、2年では志穂が、1年では村川章平が文句なしの1位だった。ちなみに、敬は3年5位。微妙である。



 続いて、魔法剣術競技だ。これは悠李や恭一郎、氏家、千尋などに適性のある競技だが、彼らは出られないことになっている。勝つことが眼に見えているからだ。ちなみに、これは男女別。

 代わりと言ってはなんだが、碧やレイチェルが出場していた。2年生には亮祐も出場している。それから、千尋の友人の吉川よしかわも出ていた。


 魔法剣術競技はトーナメント式だ。1対1の個人戦で、審判がつく。悠李や氏家、千尋は審判をしている。

 当たり前だが、魔法剣術を使っての勝負だ。公式競技のルールに従って勝ち負けを決める。まあ、魔法実技試験で悠李たちが行っているものと同じと考えればいいだろう。


 意外なことに、レイチェルが準決勝まで進んだ。さすがにそこで敗退したが、意外だ。前のループでも、レイチェルはこの競技に参加していなかったから、彼女の実力を見るのは初めてだった。

 何となくわかっていたが、碧は優勝した。文武両道な生徒会長に男子生徒からブーイングが上がったが、女子生徒の黄色い歓声にかき消されていた。ちなみに、亮祐と吉川は1回戦だけ勝ち上がって、2回戦で負けている。



 午前最後に魔法射撃競技だ。前の競技である魔法剣術競技の三年生男女決勝を行っている間に準備される。これには、放出魔法に適性のある碧や恭子、千尋、亮祐などは出ることができない。

 体育祭なので、あまり大がかりな仕掛けはできない。なので、大中小の3つの的を、狙撃手の50メートル先に置き、いかに早く、いかにきれいに破壊できるかを競うことになる。どう考えても悠李には不利だが、出場するらしい。


「……50メートルか。悠李も実弾なら余裕だな」


 先の競技を終えて本部テントに戻ってきた碧の言である。悠李は実弾でなら1キロの狙撃を成功させたことがあるらしい。だが、今回は魔法射撃。つまり、実弾ではない。


 この競技には、悠李のほかには女子寮寮長の斎藤美香や、1年生では高崎絢音が出場していた。男女共同競技であるこの競技。先に行われた1年生の魔法射撃では、絢音は3位だった。なかなかの才能である。


 3年生の競技が始まる。魔法道具の銃は全員共通で、白いペイントがされている銃を使っている。眼と耳を保護するゴーグルと耳当てをつけ、先生の「セット!」の掛け声とともに全員が銃を構えた。


 開始の空気銃が鳴ると、みんなが一斉に的に向かって射撃魔法を放ち始めた。いや、よく見たら悠李だけ銃を構えたまま動いていない。制限時間は一分なのだが、急がなくてもいいのだろうか。


 周囲との違いはまだある。両手で銃を構える者が多い中、悠李は片手で銃を構えていた。思わずじっと見ていると、悠李の持つ銃を中心に魔法陣が多重展開されていった。それが収まると、彼女は引き金を引いた。その射撃魔法は一撃で一番小さな的を破壊した。続いて中くらいの的、一番大きな的、という順に破壊していく。


 射撃と射撃の間にかなりのラグが生じるが、制限時間内に悠李はすべての的を破壊した。的は大きくなるほど硬くなるのだが、悠李はすべての的を一撃で破壊して見せた。彼女は放出魔法の才能はほぼないはずだ。どうやったんだろうか。


「仕組みとしては、空気銃と同じだな。空気を圧縮、放出しているんだ」


 腕を組んで恭子の隣に立っていた碧が言った。恭子は彼を見上げる。


「空気銃、ですか」

「ああ。瀬那に聞けばもう少し詳しいことがわかるだろうが……。魔法銃の仕組みは知っているか? あれは放出魔法を一点集中するためのもので、中はほぼ空洞なんだ」

「そうなのですか?」

「そうだ。慣れてくれば、魔法銃がなくても狙撃はできるようになる。それはともかくだ。悠李には魔法銃を通して打ち出せるほど、放出魔法の威力がないな」

「そうですね」


 恭子はこくりとうなずいた。順位を見ていると、さすがに1位は無理だったが、1位の美香に続いて、悠李は2位だった。


「そこで、悠李は増幅魔法で振動魔法を増幅させ、空気を収束、回転魔法で打ち出す、という離れ業をやってのけたわけだ。タイムラグがあったのはそのためだな」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 恭子は混乱した。いったん頭を整理し、それから尋ねた。


「振動魔法で空気を圧縮できるのはわかります。座標を固定して周囲の空気を囲い込み、振動の振れ幅を小さくしていけば収束魔法として使える実データがあるはずです。でも、回転魔法は行われている運動と同じ方向に力を加える魔法でしょう? なんの力も働いていないところから回転魔法を使えるなら、悠李は今頃空を飛んでいます」


 一般的に、空中浮遊は念動力で行う。念動力は放出魔法に直結し、ゆえに悠李は念動力がほとんどないのだ。つまり、彼女は空を飛べない。

 しかし、本当に回転魔法がなんの力のないところから働くとしたら、人は飛べる。かもしれない。


「それもそうだな。あいつも浮かぶくらいならできそうだが……。まあそれはおいといて。恭子。魔法銃とはいえ、引き金は引くんだぞ。発射の衝撃があるはずだ。悠李はあらかじめ増幅魔法陣を展開していた。その増幅対象に、発射威力に力を貸す回転魔法も入っていたんだ」


 碧はこともなげに言ってのけたが、そろそろ恭子は理解が追い付かない。


「……凡人のわたくしには理解できそうにありませんわ……」

「まあ、使い場面なんてほとんどないだろうから、理解できなくてもいいと思うぞ」

「何の話だい?」


 競技を終えた悠李が本部テントに戻ってきた。話をしていた恭子と碧は顔を見合わせた。


「何でもないですわ」

「お前はちょっと頭がおかしいという話だ」

「何それ」


 悠李は苦笑気味に小首をかしげた。碧のデリカシーのない言葉にかみつくかと思ったのだが、最近の悠李はおおらかなような気がする。



 ここで午前中の競技が終了。このまま午後の魔法障害物競走の準備に入る。この競技は準備に一番時間がかかる。


 この競技には、午前最後の競技に出場した悠李を含め、碧や氏家、晃一郎、ほかの学年では千尋や亮祐、村川など、戦闘魔法に長けたものが出場する傾向がある。当たり前だが、これは男女別の競技だ。まあ、悠李は男子の中に放り込んでもいい勝負を思想ではあるが、やはり体育祭なので、肉体的な能力も必要になってくるのである。


 出場者は5つの障害を越えていかなければならない。1つ目は絡め取られると身動きが取れなくなる魔法植物の蔓を越えていく。2つ目は見えない壁を突き抜けていかなければならない。精神魔法の一種で、『壁がある』と相手に思わせることであたかもそこに壁があるかのように思えるだけで、本当に壁があるわけではない。


 3つ目は3メートルハードル走で使ったハードルを一つ越え、4つ目は魔法でしか開かない500キロの上下開閉式の扉を開ける。最後にくじを引き、そのくじに書かれた魔法陣を構成して『可』が出ればゴールだ。


 やはり、3年男子では氏家が圧倒的だった。碧と晃一郎も奮戦したが、1歩及ばず、と言った感じだ。3年女子は悠李がほかに差をつけてゴールに駆け込んだ。上下開閉式扉で時間は取られたが、1位でゴールして見せた。


 2年男子は千尋が滑り込みで1位。香坂兄弟、すごいぞ。



 続いて魔法操作競技。これは男女混合競技で、敬や紗耶加が出場している。2年生では志穂もだ。

 魔法操作競技は、2メートル四方の箱の中についたてを入れて作られた迷路に何の変哲もない10センチ四方の立方体を入れる。スタート地点からその立方体を操作して迷路内を移動させ、いかに速くゴールにたどり着けるか競う競技だ。迷路自体はさほど難しくないので、早ければ2分ほどで抜けられる。


 通常、この競技は念動力で操作する。例えば、敬や志穂がそうだ。しかし、紗耶加はちょっと変わった方法を取っていた。


 まず初めに、迷路のどこを通ればゴールにたどり着けるか把握する。そして迷路の入った箱の下に魔法陣を展開。通る角に、一から順に番号を振っていく。すると、魔力を注ぎ込むだけで割り振った番号の順に立方体が動く、という方法を取った。


 おそらく、既出の魔法ではあると思う。しかし、これだけスムーズに操作できる魔術師はそうそういないだろう。ちなみに、すべて後から紗耶加自身に聞いたことである。



 そして、最終競技にしてやっと恭子の出番である。2日間の体育祭の中でも恭子はこれにしか出場しない。男女混合競技・魔法障壁耐久競争。


 名前は立派だが、内容としては単純である。チーム戦で、15名で織り上げた魔法障壁を相手方の15名が放出魔法だけで攻撃する。つまり、魔法障壁を織り上げる15名と、攻撃魔法を使う15名、計30名の参加になる。2チームずつの対抗戦で、互いに互いの魔法障壁を攻撃する。先に障壁が崩れたほうが負けだ。


 当然、恭子は攻撃側だ。これは男女混合、1から3年生まで共同で行う競技なので、3年生が主体となって強固な魔法障壁を織り上げていく。


 開始の合図が鳴ると、みんなバンバン攻撃魔法を繰り出す。恭子も右手を前に掲げ、雷魔法を連発した。相手の魔法障壁が崩れかけたところでダメ押し、とばかりに雷魔法をぶつけると、魔法障壁はあっけなく崩壊した。ちょっとすっきり。


「……鷺ノ宮。お前、実は怖いな」

「そうですか?」


 近くで発火系放出魔法を放っていた同じクラスの男子にそう言われて、恭子は首をかしげたのだった。

 結局、優勝となったのは桃団だった。桃団の団長が好調から優勝旗を授与される。魔法競技では、どの団も入った点数がさほど変わらなかったのだろう。よって、昨日の時点で1位だった桃団が優勝した。


「優勝、おめでとうございます。碧」


 相変わらず本部テントにいた恭子は、片づけにやってきた碧に微笑んだ。彼は「別に俺が勝ったわけじゃないからな」と素っ気ない。


「楽しかったですわ、体育祭」


 恭子は心からそう言った。昔から体の弱かった恭子は、なかなかこういったイベントに参加できなかった。今回はドクター香坂の許可があるので、魔法競技には出られたけど。


 だから、今回の高校3年生が一番楽しい。

「でも、これで会長たちともお別れですね」


 亮祐が「さみしいです」と折り畳みのパイプ椅子を台車に積み上げながら言った。悠李とテーブルをたたんでいた碧はかけている眼鏡のブリッジを押し上げた。


「まだ引継ぎ期間があるだろうが。それに、まだ卒業するわけではない」

「そうだよ。もう会えないわけじゃないからねぇ」


 悠李が碧と協力して脚をたたんだテーブルを持ち上げて、テントから出しながら言った。


「それに、その前に生徒会選挙だね。亮祐君も志穂ちゃんも頑張ってね」


 放送器具を片づけていた紗耶加が亮祐に現実を突きつけ、亮祐の笑顔を硬直させていた。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


魔法競技のルールとか、わかりにくい点もあったと思いますが、すみません。これは私の表現力の問題で、直せそうなら直します。


次は8月30日、土曜日です。もう8月も終わりですね……。

どうしよう。論文書けてないや。

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