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6月17日(日)。定期会議

閑話的な定例会議です。

 月に一度の定期会議の日。現状確認の日ともいう。学校に集まる案もあったが、結局、恭子の家に集まることの方が多い。本当は先週の日曜日が定期会議の日だったが、悠李とレイチェルのデート(?)が入ったため、次の週に持ち越された。



 この日、最後にやってきたのは悠李だった。

「やあ。遅れてすまない」

 いつものように爽やかに微笑みながら彼女は入ってきた。その手には何故かケーキボックスがさげられている。恭子は小首をかしげた。

「何ですか、それ」

「いや、来週僕の誕生日だろう? そうしたら、父がみんなで食べろって渡してくれたんだ」

 悠李の父・香坂こうさか瑛一えいいちは魔法道場を経営する傍ら、防衛大学で魔術師の訓練を受け持っている。教え方のうまい人で、恭子たちもたびたびお世話になっている。ちなみに、彼は香坂家の三兄弟が一斉に襲い掛かっても返り討ちにしてしまうくらい強いらしい。


 しかし、悠李の誕生日は6月23日だ。あと6日先だが。


 恭子の表情でその疑問に気が付いたのか、悠李は空いていた碧の隣に座りながら言った。

「明日から、父と兄が某自衛隊基地へ出張に行くらしいんだ。10日ほどいないらしいから先に、ってことでもらったんだよ」

 某自衛隊基地ってどこだろう……。尋ねたが、悠李も知らないらしい。機密事項か。まあ、何があってもあの2人ならケロッとして帰ってくるだろう。


 恭子は、悠李が持ってきたホールケーキをメイドに渡し、カットしてみんなに配らせた。普通のショートケーキであるが、果物がたっぷり乗せられている。

 有名な洋菓子店のケーキが全員に配られてから、定例会議は始まった。


「それでは、何か気づいたことなどはありましたか?」

 おっとりと恭子が尋ねると、まず敬が口を開いた。

「……なんつーか、結構これまでのループと違うことが起きてるんだが」

「それは俺も思う」

 晃一郎が敬の言葉に賛成した。恭子も彼らを否定するつもりはない。

 彼らの言うように、今までと明らかに違うことがたびたび起きている。先週の交通事故などもそうだ。今回より以前は、交通事故で悠李が飛び出してどうの、という事件はなかった。


 「そういえば」と悠李も口をはさんだ。

「僕も兄さんに『隠していることはないか』と疑われてしまったよ」

 まあ、確かに悠李の芝居がかった言動は怪しいが、彼女が言っているのはそう言うことではないのだろう。

「……話したのか?」

 2人掛けのソファに悠李と並んで座っている碧が顔をしかめつつも尋ねた。悠李は首を左右に振る。

「いや。たぶん、まだ疑われたままだけど、あの家で一番精神魔法が強いのは僕だから、大丈夫だと思うよ。たぶん」


 こら、最後にたぶんがついてるぞ。


 香坂家どころか日本中探しても、悠李に勝る精神魔法の使い手はそうそう発見できないはずだ。実際、悠李の精神魔法に対する耐性はかなり強い。自分自身にプロテクトがかかっていると言ってもいい。

 悠李の心を読むことはできない。悠李を洗脳することはできない。精神魔法への耐性が強力すぎるからだ。本人が魔法にかかる気があれば別だが、基本的に魔法による精神攻撃は悠李に効かない。


 『魔法による』と付けたのは、言葉やストレスによる精神攻撃は彼女に効くからだ。


「……やっぱり、6回目になると、気づく人も増えるよね……」

 紗耶加がぽつりと言ったが、恭子は「むしろ、今までも気づいている人はいたと思いますわ」と考えを述べた。

「普通に考えて、このループに気付いているのはわたくしたちだけ、というのは無理があると思います。おそらく、今までも気づいているけど知らないふり、としている人が多かったと思います。1年が繰り返しているとわかっても、時間の繰り返しというのは、人にとって手を出しづらいものだと思います」

「それについてだけど」

 恭子の発言にかぶせるように、悠李が手をあげて再び口を開いた。恭子に話してもいいか確認を取る辺り、彼女は律儀だが、少々細かい。

「ループの原因を突き止めれば、この1年の繰り返しは終わる、と僕たちは結論を出したよね」

「……つまり?」

 恭子が首を傾けると、悠李は穏やかなハンサムスマイルを浮かべたまま言った。


「この1年を繰り返させている人物は、『初めの1年』で起こった『何か』を変えたかったのではないだろうか? その歴史を強制的に『なかったこと』にするために納得する1年を繰り返しているのではないだろうか……?」


 一見、筋が通っているような気がする悠李の発言だが、一つ問題がある。


「それだけの魔法を、1人の人間が使えるか? あったはずのことを無かったことにするために魔法を行使して納得する1年を探している。なるほど、筋は通っていると思う。また、逆もあり得そうだな。それも認める。しかし、そうなると、やはり魔術師の問題になるぞ?」


 そう。これだけの魔法を使える魔術師が存在するとは思えない。魔法の対象が大きすぎる。やはり、初めの『魔術師問題』に戻ってしまう。

「……今のところ、時間に干渉できる魔法は存在しないことになっているからね……」

「その通りだ。お前やドクター香坂に出来ないのなら、時間に干渉できる魔術師はいないということだろう。そもそも、そんな魔法も発見されていないな」

「世界の修正力的なものが働いているという可能性は? 正しい出来事が起こらなかった、もしくは間違った出来事が起こってしまったがゆえに、それを『なかった』ことにして新しい未来を創ろうとする……」

「ないとは言い切れないから恐ろしいが。むしろ、お前が作るような仮想現実世界のようだな」

「そうだね。本当に新しい未来を創ろうというのなら、僕の『夢』の能力に近いかもしれない」

「そもそも、正しい歴史とはなんだ?」

「……うーん。そこをつかれると痛いね」


 2人だけで話を展開させた悠李と碧である。2人は話を区切り、紅茶に口をつけた。まあ、ありえなくはないだろうが、2人の意見はかすっている程度、なのではないだろうか……。


 結局、いつもと同じようになるようになる、としか言いようがない。これでまた、同じ1年が繰り返されることになっても、なるようになる。たぶん。



 そうなるとやはり、悠李が4回目のループで『誰に殺されたのか』が焦点になってくるのではないだろうか。



 おそらく、彼女は無意識的に自分の記憶にプロテクトをかけているのだろう。これに関しては恭子と悠李は同じ意見で、何かきっかけがあれば思い出せるのではないか、ということだ。

「そう言えば、なんですけど」

 悠李が持ってきたショートケーキをほおばっていた恭子は、ふと声をあげた。彼女は微笑んで言う。


「今年の課外研修旅行に参加してみようと思うのです」


 みんながぴたりと手を止めた。まじまじと顔を見つめられたが、それで動じる恭子ではなく、逆にニコッと微笑んだ。

「……今年の研修旅行はどこだっけ?」

「今年は京都だな」

 晃一郎の問いに、生徒会長の碧が答えた。課外研修旅行は夏と冬に一回ずつ行われる。募集制で、行きたい人だけ行く。定員は毎年50人前後だったと思う。行先は毎年変わり、今回の夏は京都らしい。ちなみに、高等部、中等部両方で行われる。


 今まで行こうと考えたことがないため、だれも課外研修旅行についてよく知らないようだった。以前恭子が、「行こうかな」的な発言をしていたことを知っている紗耶加や晃一郎、敬は「本当に行くのか?」的な顔をしている。

「ドクターストップはかからないのか?」

「おそらく、ドクター香坂から許可が出れば問題ありません。それに、ドクター香坂ならユウが行くことを条件に、許可を出してくれると思います」

 と恭子は暗に「ついてきてね」と悠李に笑顔を向けた。悠李が苦笑する。

「研修旅行はバスだったかな? 僕は第一級使用制限魔法の行使者だから、公共交通機関だと搭乗許可が下りない可能性があるんだけど」

 ちらっと悠李が碧の顔を見る。わからなければ碧に聞け、と言わんばかりだ。まあ、確かにたいていのことは碧か紗耶加に聞けば分かるので、その思考は間違ってはいない。


「大丈夫だ。学校所有のバスで行くからな。対魔法対策はばっちりだ」

「動く魔術師の棺桶か……」


 悠李がつぶやいた。碧が無言で悠李の後頭部をはたいた。彼女も失言だと気付いたようで「悪かったよ」とつぶやくように言った。


 『動く魔術師の棺桶』とは、魔法を遮断する材質のもので作られた車や電車、飛行機など、とにかく移動用の乗り物のことだ。魔力が電子機器に影響をほとんど与えないことはわかってきているとはいえ、魔術師に対する偏見は根強い。


 とはいえ、この場合は『魔法が外に影響しないようにする』ための魔力遮断のバスであるため、本当に魔法が使えなくなるわけではない。よって、『動く魔術師の棺桶』とは少し意味合いが違った。


 課外研修旅行を学校のバスで行くのは、公共交通機関を魔術師が使用するのに許可がいるからだ。多くのFCUを身に着けていたり、第1級使用制限魔法の行使者であったりすると、その許可が下りない可能性がある。何度も言っているが、悠李は以前、本当にそんな理由で許可が下りなかったらしい。


 とはいえ悠李の魔法傾向は精神感応系よりで、ほとんど乗り物の運航に支障をきたさないと思うのだが、それは一般人と魔術師の感覚の違いだろう。

「……でもまあ、今までにやったことが無いことをしてみるのはいいんじゃない? もしかしたら、このループから抜け出す手がかりが見つかるかもしれないよ」

 紗耶加が明るく言った。そうだね、と空気を読んだ晃一郎がうなずく。紗耶加はこの六人の最後の良心だ。晃一郎は腹黒いがとても空気が読める。


「研修旅行は何泊だったっけ?」

「3泊4日だな。というかお前、京都の出身じゃなかったか?」

「京都出身なのは母だよ。僕自身は東京生まれの東京育ち。母の実家は京都にあるけど……」

「何かあれば頼ればいいな」

「何勝手に人の親族を頼ろうとしているんだよ……」


 時々思うのだが、悠李と碧の会話は気心の知れた夫婦のようだと思う。少ない言葉でポンポン会話が進み、こちらが置いていかれることがある。




 そう思っている恭子は、自分と悠李の会話が仲のいい恋人同士のような会話だと思われていることには気づいていなかった。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


っていうか、悠李の誕生日6月23日って、織田信長と同じじゃね?


次は8月7日、木曜日です。

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