『覚悟』
時間は、作戦会議終了まで遡る。
「シャル、君はいつまで不機嫌を顔に張り付けておくつもりだい?」
解散し、作戦会議室から出た後もなお、ふくれっ面を作ったままのシャルロッテに、エリアスは呆れていた。
「彼は大尉相当官だ。これはイシハラ団長にも確認を取った紛れも無い事実だよ。君は少尉で向こうは大尉、勝てなくて当然じゃないか」
早足で本部の廊下を行くシャルロッテの後ろから、宥めるような口調で言う。
「そんなこと、わかっていますわ」
「なら、何がそんなに気に食わないんだい? お気に入りのレイピアを真っ二つにされたこと? それとも、騎士を辞めて剣闘士になれって言われたこと?」
そのどちらでもない。シャルロッテは足を止め、歯を食い締めた。
「シャル……?」
『あんた自身が『覚悟』を持つように変わることだ』
剣闘が終わった後、彼に最後に言われたこの言葉が、彼女の苛立ちの原因であった。
覚悟を持つように『変われ』ですって? たった数回剣を交わしただけの男に、私の何が分かるというの?
私は私。シャルロッテという人間はこの世に一人よ。私が変わるか変わらないかは、私自身が決めることですわ! それを私以外の人間が決めるなんて許さない。例えそれがお父様とお母様であっても。
それに、覚悟なら十分しているつもりです。それをあの男に――トウギ・フジヤに、認めさせる為ならば、人間の一人や二人を『斬る』ことくらい――。
この思いが、シャルロッテにある考えを芽生えさせる。彼女からすれば名案が思い浮かんだといったところだが、これは暴走以外の何物でもない。
「エリアス! 今夜、予定を空けておいてちょうだい。付き合ってほしいところがあるの」
「……はぁ、姫の仰せのままに」
この時、エリアスは嫌な予感を感じ取ってはいた。だが、何か問題を起して軍を辞めることになれば、それはそれでいいと思ったのだ。
*
トウギが二人を追って二輪車を走らせている頃、シャルロッテとエリアスはすでに目的地である廃村に到着していた。
音と光で接近がばれてしまっては元も子もないないので、車は村の外に停め、二人は自らの足で村役場へと向かっていた。
「外の護衛は二名か、隠密部隊の報告通りだね。だとしたら、内部の戦闘員を最低二人は確認、ってこの情報も間違っていないと考えた方が良い」
茂みに潜みながら、エリアスが呟く。
彼がこうもあっさり敵を視認できたのは、単に今夜の月明かりのおかげというわけではない。
オシデントの護衛兵は銃を肩に掛け、一応は警戒をしている素振りを見せてはいるが、口に咥えた火の付いた紙巻はあまりにも迂闊だった。
蛍のように点滅するその灯りのおかげで、シャルロッテとエリアスは敵の数だけでは無く居場所や行動までも確認することができた。
「さて、ここからどうする? シャル」
「それは……」
勢いだけでここに来てしまっている以上、シャルロッテは作戦なんて何も考えていない。彼女は、ただ敵を斬るためだけにここに来ていた。
「それじゃあ、僕が外の護衛に気付かれないように中へ侵入する。中の敵の数は未知数だけど、狭い室内なら囲まれて背後を取られることも無いだろうし、一人で大丈夫だ」
彼女の無策を見越していたかのように、エリアスが作戦を提案する。
「奴らはおそらく反撃で銃を撃ってくるだろう。シャル、君はその銃声が聞こえたら、外の連中が内部に応援に来ないよう足止めしておいてくれ」
「え、えぇ。了解しましたわ」
「僕が中の敵を制圧し、君が外の敵を制圧する。これで作戦終了だ」
エリアスがお得意のウィンクを一つかまして、作戦は即実行された。
*
エリアスの作戦は、見事にはまった。
だがこれは彼の提案した作戦の良し悪しや、二人の実力が優秀だったということではなく、単にオシデント側の戦意の問題であったと言えよう。
あの『ドマージー戦役』から五年、もうカミアズマの軍人に見つかることなんて無いだろうと高を括っていたオシデント残存兵は、エリアスの建物侵入をあっさりと許した。
最初にエリアスと遭遇した建物内のオシデント兵が彼の侵入に気付いたのは、自分の喉が斬られ、声が出せなくなった時だ。
おびただしい出血と共に意識が薄れゆくなか、彼ができる最大の反撃は、銃のセーフティを解除して周囲に弾丸をまき散らすことであった。
弾丸自体に意味はない。だがその銃声で、何か問題が起きたことを仲間達に知らせることができる。
そして銃声は、シャルロッテへの合図でもある。
上手くやってくれよ、姫様。エリアスはシャルロッテに心の中でエールを送る。
彼は今、全速力で目標の部屋に向かっている。その部屋には通信傍受のための機材が揃っていると、隠密部隊からの報告である。
この建物内の地図は既に入手済みで、構造は頭の中に叩き込んである。だからこそ全速力で迷うことなく進むことができるのだが、角を曲がった瞬間、その足が一瞬緩まる。
迎撃か。
出会い頭に遭遇した敵の数は三名。行く手を阻むかのように横一列に並んでいる。だがこの遭遇は彼らにも予想外だったらしく、驚愕の表情を作っているのが見てとれる。
エリアスは冷静に、後手に回った。彼らの次の行動を観察するためだ。
三名のうち二人は、すぐに腰だめに銃を構えて射撃の準備を整える。エリアスは、この二人に関しては後回しにした。
残る一名は銃を捨て、腰からコンバットナイフを抜いて構える。彼はこの一人に狙いを定め、斬りかかる。
できる奴から狙う。常套手段だ。
血与騎士の姿を確認し、それでも銃を構えた時点でそいつらは、「敵」ではなくただの邪魔な「物」と化す。「邪魔物」ならば、「敵」を排除した後で斬り払えばいい。
一方で、判断良く銃を捨てナイフを構えるような思い切りの良い輩は、放っておくと痛い目を見る。
だから肩口から斬りつけ、攻撃の隙を与えず薙ぎ倒す。――刹那、数えきれないほどの弾丸が彼に向って襲ってくるが、その弾丸がエリアス・ヴァーネットの身体に届くことは無い。
「邪魔だよ、君達」
エリアスの剣が、残った二つの「邪魔物」へ襲いかかる。
*
トウギが現場に到着した時、すでに事態は最終局面に突入しつつあった。
「頼む……止めてくれ……殺さないでくれ……」
尻もちをついて命乞いするオシデント兵を、レイピアを構えたまま見下ろしているのは、シャルロッテ・エセルバードである。
少し離れたところには、両足から血を流し、芋虫のように地面を這いつくばっているもう一人のオシデント兵の姿があった。
間に合ったか。
彼が想定していた最悪の事態にはなっていない状況に安堵しつつ、トウギは自動二輪車を降り捨て、シャルロッテの元へと駆け寄る。
彼女は息を荒らげ、目の端でトウギの姿を捉えても何も言わず、ただ剣を握る右手に力を込めるばかりだった。
「あぁ! あんた、この女の仲間だろ? こいつを止めてくれ、俺にはもう闘う意思は無い! 投降する!」
喚くオシデント兵の声には耳を貸さず、トウギはシャルロッテの行動に注視していた。
「……エセルバード少尉、どうするつもりだ?」
シャルロッテの血走った目が、トウギを捉える。その目が救いを求めていることに、彼は気がついていた。
「一度掲げたその剣、剣士ならば、むざむざと下げるなんてことはできないぞ」
それでもなお、トウギは彼女を追い詰める。
今ここでレイピアを突き刺せば、彼女は人を斬る『覚悟』をしたことになる。それができれば、もう何も言うことはあるまい。
シャルロッテは肩で息をしながら、苦しそうに顔を歪ませる。
「どうした? 少尉、やれよ」
だがもし、ここでそれをやらないというのなら、俺が責任を持って彼女に教えてやらねばなるまい。トウギは心の中で、そう思った。
「やれ! シャルロッテ!」
トウギが、叫ぶ。
彼女は一度息を大きく吸い込み、そして、
――意を決し、レイピアをオシデント兵の顔めがけて、突き刺した。
……結果、オシデント兵は失禁し、恐怖のあまりそのまま――気絶した。
シャルロッテの剣はオシデント兵の頬を掠っただけで、致命傷とは到底言えないような切り傷を一筋作っただけであった。
「私には、できません!」
彼女の叫びは、自分自身への怒りの表れだった。
シャルロッテの右手から剣が滑り落ち、地面に横たわる。それと同様に、彼女は膝から崩れ、地面へとへたり込んだ。
「私は、変われません……」
泣き顔を晒しながら、トウギを見上げる。その顔には汗と涙で自慢の金髪がまとわりつき、せっかくの美人が見るも無残になっている。
トウギは気を使って目を逸らすことなど無く、睨みつけるような眼差しをシャルロッテから外そうとしない。
「……エセルバード家の養女に入った時、散々言われましたわ。『貴女はもう孤児ではなく、エセルバード家次期当主なのだから、エセルバード家に相応しい人間に変われ』と」
シャルロッテの両の手が、地面の土を握りしめる。
「でも、変われなかった。変わりたくなかった! 名門エセルバード家に入っても私はシャルロッテという一人の人間。それ以外の何物でもありません!」
彼女の涙ながらの独白を聞いても、トウギは無言を貫いた。
「父と母には、次期当主として成長するべく軍に入ると言いました。だけど、結局は変わるのが嫌で逃げてきただけなんです。貴方の言う通り、私には軍人になる『覚悟』が――人を『斬る覚悟』が足りない」
シャルロッテは弱々しい、自虐的な笑みを浮かべて言った。
「私は、軍を辞めます。これから私は一生、人を『斬る』ことはしません……」
トウギは、息を大きく一つ吐き出した。
「『覚悟』を決めたようだな、シャルロッテ」
「はい……軍を辞める『覚悟』は、できました」
弱々しく呟いたシャルロッテを、トウギは「はっ!」と、笑い飛ばす。
「違ぇよ、そうじゃない。お前は今、『剣士』して『軍人』として、立派な『覚悟』を決めたって言ったんだ」
「……え?」
「確かに、俺はあんたに『覚悟』を持つように変われ、と言った。だが、『人を斬る覚悟』を持つように変われ、なんてことは一言も言っていない」
「それって……?」
シャルロッテは目を白黒させる。
「別に人を斬れないなら、それでも構わない。代わりに、『人を斬らない覚悟』を決めれば、それでいい。あんたは今、その『覚悟』を決めたんだ」
合格だよ、シャルロッテ。トウギは笑いかける。
「『人を斬らない覚悟』? そ、そんなもの、闘うには何の役にも立ちませんわ!」
「そんなことねぇよ。確かに一番良いのは『人を斬る覚悟』を決めることだ。だが、この『覚悟』を中途半端にするのが一番悪い。例えば、『急所を狙えないのに真剣勝負を挑む』なんてのはその典型だな」
シャルロッテは言葉を詰まらせ、耳を赤くさせながら俯いて地面を見た。
「中途半端な覚悟ってのは、そのうち自分を殺すことになる。だけど、『人を斬らない覚悟』ってのは、そうじゃない。これは立派な『覚悟』だ」
「立派な、覚悟……?」
シャルロッテは口の中で反芻する。
「あぁ。これは一度でも人を『斬り』殺したことのある人間には絶対にできないことだ。たったの一度でも人を殺めると、たとえそれが罪に問われない殺人であったとしても、世界が変わって、もう二度と戻れなくなる気にさせられるんだ」
トウギが少し悲しい眼をしたことに、シャルロッテは気が付いた。
「その『覚悟』は、必ずお前にとっての財産になる。それは俺が保証するよ。だからシャルロッテ、お前は人を『斬らない』軍人であり続けろ」
「……そんな、無責任よ! 人を『斬らない』軍人なんて!」
シャルロッテは主張する。
「今は戦時下です! いつか、敵を殺さなければ、自分が殺されてしまうという場面がくるかもしれない。それでも敵を殺さずに、自分の身も守るなんてそんな器用なこと、私にはできません!」
だから私は軍を辞める! 彼女は金髪を振り乱して首を横に振った。
「いや、できるね。できるようになる」
トウギは即答する。
「敵を殺さずに制圧し、自分も傷付かない。俺なら、その術を教えてやることができる」
「……え?」
「もしお前のその『覚悟』が本気なら、俺は弟子を取るにやぶさかではないよ」
そう言って、トウギは地にへたり込むシャルロッテに手を差し出す。
「つまり、カザマ流を、私に……?」
シャルロッテは差し出された右手と、トウギの顔を交互に見比べる。
「その資質はある。あんたの剣は、カザマ流に向いている」
それに、とトウギは少し離れた所でもぞもぞと動いているオシデント兵を指差す。
「動けないようにと、見事にあれの足だけを斬ったのはあんただろ。これほどの腕前なら、きっとすぐに上達するよ」
彼女は唾を飲み込んで、恐る恐る、その手を取ろうと右手を挙げる。
「だが先に言っておく。お前の行く道はきっと厳しいものになる。敵を殺さずに無力化するためには、時には殺すよりも惨いことをしなくてはならない。それをできる自信があるのならば、この手を取れ、シャルロッテ」
「……愚問、ですわ」
シャルロッテの右手が、トウギの差し出した右手をがっちりと掴む。引き上げられ、立ちあがった彼女の姿には、先ほどまでの弱々しさは感じられない。そしてその眼の奥には、『覚悟』と同等と『希望』が込められていた。
「よろしくお願いしますわ、師匠」
「責任を持って、俺がお前を一人前にしてやる」
引き上げるために掴んだ手は、そのまま握手の形となった。
*
フウカ・カザマ少尉が軍用車を駆り、リュウセイ・タケナカ少尉、クリス・オルクウィン中尉と現場に到着した時にはすでに、作戦は完了していた。
現場に転がる二人のオシデント兵がその証拠だ。うち一人は股間を濡らしながら気絶し、もう一人は足から血を流しながら芋虫のように地面を這っている。
だがフウカには、どうしても疑問を抱かずにはいられないことがあった。それは、何故かトウギとシャルロッテが握手を交わし、お互いが見つめ合っているという状況についてである。
フウカ達の乗る車のフロントライトが、トウギとシャルロッテを照らし出すとほぼ同時に、建物内からエリアスが出てくる。
これで、この作戦に参加する予定だった六名の騎士が揃ったことになる。
「やあやあ、勢揃いだね」
「ヴァーネット中尉、内部の様子は」
オルクウィンは地を這いながらも逃亡を図ろうとしているオシデント兵を踏みつけ、エリアスに問う。
「中にいたのは十名。うち六名が戦闘員で、抵抗してきたから斬ったよ。残る四名が技術士で彼らが通信を傍受していたみたいだね。でももう安心さ、全員拘束したから」
「そうか、ご苦労。タケナカ少尉、捕虜は全部で六名。移送車をよこすように連絡を。ヴァーネット中尉の働きで、もう傍受されることは無いだろう」
「了解」
リュウセイは軍用車に取り付けられてある通信機から本部へと連絡を入れた。これにより、作戦は終了である。
エリアス、クリス、リュウセイの三名はきっちりと軍人としての行動を取った。だが、そうはいかないのはフウカだった。
「貴方達、作戦中に何をしていたの?」
隣り合って並ぶトウギとシャルロッテに、鼻息荒く詰め寄る。
「別に、何も」
「何も無いのに、握手なんてするのかしら?」
「作戦が上手くいったら、仲間同士で握手くらいするでしょう?」
「でも貴女、トウギのこと嫌ってたじゃない!」
「そんなの昔のことでしょう。いつまで過去のことに囚われているのかしら」
フウカは言い合いでシャルロッテに勝った試しは一度も無い。埒が明かないと踏んだフウカは、狙いをトウギに変えた。
「トウギ! 何があったか説明して」
「何があったかって言われても、何もねぇよ。俺がここに着いた時には、シャルロッテが敵を制圧していた。ただ、それだけだ」
作戦に関して彼の報告は、何の間違いもない。自分が新しく弟子を取ったとか、その弟子がシャルロッテだとか、そんな私的なことを報告する義務は彼にはない。
私が来る間に、何かあったに違いない……! フウカは疑いながらも、他に言えることもないので、黙るしかなかった。
そしてこの疑心は、基地に帰還後、間違いでは無かったと判明することになる。
*
基地へと帰還した面々は、イシハラ団長に作戦の完了を報告した。
トウギが機転を利かせ、リュウセイが作戦開始を早めた為に、本来ならば軍法会議ものであるエリアスとシャルロッテの独断専行が咎められることはなかった。
だがイシハラは事情を察していたようで、「作戦開始を早めるなら先に言え。次からは認めんぞ」と難しい顔をして言った。
報告を終えた面々が次々と解散していく中、フウカは思わずトウギとシャルロッテを呼び止めた。
「なんですの? もう夜遅いですし、早く宿舎へ戻りたいのですけれど」
「違う、ちょっと待って、シャル、貴女が戻るのはこっちの女子宿舎でしょ? そっちにあるのは個室宿舎だけのはず」
「えぇ、そうよ。私、引っ越したの」
「引っ越し?」
嫌な予感に駆られたフウカがトウギとシャルロッテの後について行くと、夜遅いというのに個室宿舎の一室に荷物を搬入する男達の姿があった。そしてその部屋は、トウギの隣の部屋である。
作業着姿の男達はシャルロッテの姿を確認すると、横一列に並んでから低頭し、笑みを浮かべた。
「お嬢様、言われたものはあらかた搬入済みです。荷ほどきはまだですが、いかがなさいます?」
「ご苦労。荷ほどきは結構よ。レディの私物なのだから、貴方達が触れて良いものではありませんことよ」
「はっ、失礼しました。では我々は退散させていただきます」
そう言い残し、数人の男達は貨物自動車に乗り込み、跡形も無く去っていった。
「エセルバード家の力か? 流石、名家だな」
トウギは愉快そうに笑った。
「ちょっとシャル! これはどういうこと!?」
「利便性を考慮したまでですわ。師匠に剣を教わる以上、近くで生活した方が良いに決まってますもの」
「師匠……って、まさか」
「トウギさんに決まっていましてよ?」
フウカは、信じられない物を見るような目つきでトウギを見やる。その視線に気付いたトウギは「弟子第一号だぜ」と笑った。
なんで貴方が、この女に剣術を?
フウカの脳裏に、握手を交わしていた二人の姿がフラッシュバックする。
そうか、あの時か!
「そう、良かったわね。カザマ流は大変だけど、頑張ってね」
言うつもりの無かった励ましの言葉を残し、フウカはその場を後にした。
私には、関係のないこと。あいつがあの女にカザマ流を教えたところで、それはおじいちゃんの剣ではないし、それにそもそも使いこなせるかどうかも分からない。
そりゃあ技術を見て盗もうとあの男の周りに付いて回ったのは事実だけど、結局は何も得られなかったし、確かに奴の腕は一流だけど、教えることに関してはずぶの素人のはずだし、きっと上手くいかないに決まっている。
別に嫉妬なんかじゃない。ただ、おじいちゃんの神聖なカザマ流があんな女に使われるのが気に食わなくて苛立ってるってだけ。
というか、そもそも私には関係のないことだし!
フウカは女子宿舎へ戻るまで、周囲にある色々な物に当たり散らして行った。その結果、翌日そこの光景を見た者はここだけ竜巻が通ったのかと勘違いするほどであった。
そしてこの日、カミアズマに残っていたオシデントの残存兵が捕えられたというニュースが報じられた一方で、ギンジ・カザマが病死したというニュースが流された。