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支援者
彼女の手には、届けられた手紙。
彼女は、表情を曇らせる。
彼女を舞台に立たせるべく、熱心に綴られた、パトロンの申し出。
「お兄さま、これ・・・」
傍らに座る兄に視線を向ける。
「お前の好きにするといい。
お前は、舞台にまた、立ちたいだろう?」
今の私では、力不足だから。
些か自分の不甲斐なさを悔やんでいるような含みがある。
「でも・・・、今は、まだ。」
両親を相次いで亡くし、更には、先日の代役の死。
「では、お前の心の落ち着くのを待って貰えないか、話をしては?
何れにしても、先方には、ご挨拶しない訳にはいかないよ。」
手紙の署名が、権力のある貴族の名。
出向かない訳にもいかない。
「・・・はい。」
頷くと、静かに目を伏せる。
数日の後、
彼女の心は、更に痛めつけられる事となった。
手紙を下さった、某貴族の方が屋敷内で惨殺された。
彼の執事は、淡々と事を説明した。
またしても、死。
彼女の周りは、鎮魂歌が絶えなかった。
※
真っ暗な、闇の底までも堕ちて行く。
助けて・・・。
悲痛な叫び声は、漆黒の澱に呑み込まれ、消え失せる。




