舞台
其処は、荘厳な佇まいのオペラハウス。
重厚な石を使って、築き上げられた芸術品。
チケットを持った、気品ある紳士淑女が集う。
今夜の舞台は、今、人気急上昇の若手。
伸びのある、艶やかな声。
見るひとを虜にする容姿。
彼女は、美しかった。
初舞台から、問い合わせが殺到し、今や一躍トップの仲間入り。
緞帳が上がる。
暗かった観客席に、舞台の明かりが零れて、辺りを照らし出す。
と、静寂だった観客席から、ざわめきが生じた。
2階の気品席に陣取っていた、彼は、オペラグラスを投げ棄てた。
ギリッと奥歯を噛み締め、忌々しそうに舞台を見遣る。
彼は、独り言のように呟くと、席を立ってしまった。
僅か後、闇が音もなく動いた。
観客席は、未だにざわめき立っている。
客の1人が呟く。
「予定と違うじゃないか・・。」
そう、今、舞台に立っているのは、チケットに書かれた彼女ではなかった。
代役に取って変わっていた。
呟いた客は、首を軽く振り、席を立とうと・・・。
ガシャーン!!
激しい音が響いた。
数秒後、辺りは絶叫が谺する。
舞台上には、舞台にシャンデリアに押し潰され、緋い血を撒き散らした、代役の無惨な姿があった。
※
貴女に、代役などない。
偽りは認めない、変わりなど要らない。




