終焉の鎮魂歌
兄の失踪から数週間が無情にも過ぎた。
彼女の顔は、日に日に色を無くしていく。
毎日彼女の元を訪れる、幼馴染みも心配の色を隠せない。
「聞いてくれるかい?」
彼女の肩にわましたに力を込めて、囁くように言った。
「・・・君にとっては、とても辛い話になるけど。」
彼こそが、辛そうにして呟く。
彼女は、色の無くなった顔をゆっくりと動かし、頷いた。
「今までの・・・」
肩に掛る彼の指先は、震えている。
「君のご両親から始まって・・・先日のまで」
彼は、ゆっくりと続ける。
「全ての犯行は・・・」
君の兄だよ。
彼女の瞳は、驚愕に見開く。
「全て、お兄様が・・?」
彼は、頷く。
「僕が調べて、確証を得たんだ・・・。」
すぅーっと、全身が冷えていく。
信じられなかった。いや、信じたくない。
「嘘よね?嘘と言って・・・。」
残念だけど・・・。彼は、目を伏せて頭を振る。
ガタン。
彼らの居た部屋の扉が開かれた。
そこに立っていたのは・・。
「お・・お兄様。」
弱々しいく、彼女の口から零れた。
兄は目を細めて、彼女を見つめる。
「お前は、僕だけのもの。お前が生まれた、その瞬間から。ずっと。
・・・愛しているよ。」
兄は、彼女へ手を差し伸べる。
「さあ、・・・・おいで。」
立ち上がった彼女の腰をグイッと引き寄せ、幼馴染みは抜き身の剣先を向ける。
「なんで生きているんだい?君は死んでいるはずだよ?」
兄は、不機嫌な顔で睨む。
ザシュッ。
小さな風が彼女の髪を撫でた。
煌いたのは、白刃。
ゴフッ。
大量の血を吐き出して、膝から崩れ落ちるのは、彼女の兄。
兄に近づいて、その身体を支える。
自身の血に塗れた手を伸ばし、妹の頬に触れる。
「愛しているよ。僕の・・・。」
言葉の途中、頬に添えられた手は、ずるりと落ちた。
彼女を見つめる、彼女のみを映していた瞳は閉じられた。
ゆっくりと、彼女を背後から抱き締めるのは、幼馴染み。
彼女は、力を抜いて、身を預ける。
幼馴染みは、彼女に囁く。甘い、甘い声で。
「愛しているよ。・・・誰よりも。貴女を。」
彼女の心は、ついに壊れた。
彼女は、何も感じない。
彼女は、何も映さない。
彼女は、何も囁かない。
彼女は、涙も流さない。
緋い、緋い薔薇に囲まれた、愛する貴女は。
僕の、生ける屍。
彼は微笑む。
もう、レクイエムは聴こえない。




